第19話 お見舞い



「うおぉぉぉぉぉ……!!」


 俺は自室のベッドで一人うなだれていた。

 ぜ、全身筋肉痛で動けない……!!


 原因は恐らく、昨日やった金田とのバスケ勝負だ。


 久しぶりにあんなに体を動かしたものだからその負担が今日に来てしまった……!!


 本来であれば母親あたりに『筋肉痛程度で休なまいの』みたいなことを言われて渋々学校に行く流れだが、あいにく家には誰もいない。というか家族は滅多に帰って来ないため基本は一人暮らしに近い。


 正直、このまま休んでしまうことも可能だ。


 いや、でも筋肉痛如きで休むのは……そういえば、具合が悪いのか熱があるような気がする。


 一応、一応測っておこうかな?



 36・6度


 へ、平熱。


 いや、まぁ平熱だったとしても体が痛いのは事実だし、もうほんと動けないくらいだし。ここで無理して学校に行っても先生や友達の黒宮に迷惑がかかるかもしれない。


 だから、うん……しょうがない。今日は休むか。



 ということでなんとかスマホを使って学校に連絡して休むことになった。しんどそうな声で具合が悪いので休みますと言ったら普通にお大事にと言われた。


 なんか、電話ひとつかけただけなのに達成感がすごい。


 あーなんというか、学校が休みになった喜びと筋肉痛程度で休んでしまったと言う罪悪感が押し寄せてくる。


 気持ちがふたつある〜


 そんなことを思いながらテレビでアニメの配信をソファーでお菓子とジュースを飲み食いしながら一気見すると言うぐうたらで自堕落な1日を過ごした。 


 外を見るともう夕方だ。学校も授業が終わりみんな下校している時間帯。


 ふと黒宮の顔が浮かんだ。

 心配……してくれているんだろうか? 


 う、完全に消え失せていた罪悪感が蘇ってしまった。


 ピンポーン


 インターホンが鳴る。 


 この時間帯となると……宅配便か何かかな?



「はーい」 



 扉を開けると鞄とビニール袋を肩にかけながら手を腰に当てながら立っている黒宮の姿があった。



「…………あ、ドモ」



 ぺこりと頭を下げ、扉を閉めようとしたらガッと腕を掴まれ止められてしまった。



「あれ〜? 随分と元気そうだね〜? 佐藤く〜ん?」



 黒宮は笑顔だけど腕を掴む力がだんだんと強くなっている。


 ヤッベぇ!! これガチで心配してくれてたやつだっ……!!

 ニコっと笑っているが、内心相当お怒りである。



「佐藤くん。とりあえず、家上がらせてもらってもいいかな?」



 いつもの営業スマイルをしながら甘ったるい声を発する黒宮。

 これはあれだ。断ったらどうなるのかわかるよね? みたいな笑顔だ。



「ど、どうぞ……」



 そんな黒宮さんを前に取れる選択は家の中に入れる一択だった。



「はぁ? ただの筋肉痛?」


「まぁ……はい」



 自室で黒宮に今日学校を休んだ理由を正直に話した。

 黒宮は足と腕を組みながら俺のベッドに座っている。そして俺は床に正座をしていた。


 昨日と全く同じ状況である。



「佐藤くんっ……! 私、すごくすごーく心配したんだよ? 何にただの筋肉痛で休みなんて……ひどいよぉ」


 ぐっ!!


 ぺえんとあからさまに嘘泣きをしている黒宮だが、言っている内容自体はその通り過ぎるので何も言えない。

 


「はぁ……心配して損した。折角スポーツドリンクとか薬とか買ってきたのに全部無駄じゃない」



 俺の顔を見て満足したのか机に置いているビニール袋を見ながら呟いた。



「あ、いや、その、こちらでありがたく買い取らせて頂きますので」


「そ? じゃあ5000円ね」


「……え? そんなにする? ちなみに明細は……?」


「え? 薬とか諸々が1000円くらいでしょ? それに私の心配料金が4000円の合計5000円」



 ぼったくりじゃねぇか。

 とりあえず1000円ほど渡しておいた。薬やスポーツドリンクやおかゆはもしもの時に役に立つかもしれないからあっても損はないだろう。



「ていうかあんた、女の子を初っ端から自分の部屋に連れ込むのはどうかと思うわよ?」


「えっ」


「えっじゃないわよ。なんかいやらしいことをされるんじゃないかって警戒するわよ普通」



 た、確かにそうかもしれない。

 正直、一階には絶対に入られたくない部屋がある。俺の黒歴史の塊。絶対に見られたくない。


 だから2階の自室に招いたんだけど……黒宮というか女の子に対する配慮に欠けていたな。



「ま、私以外にはやらないことね」



 黒宮から大変ありがたいお言葉を頂いた。



「あ、やる相手なんて他にいないか」



 黒宮から大変失礼なお言葉を頂いた。



「あ、この漫画知ってる。今流行ってる奴よね? よっと」




 黒宮は興味深そうに漫画を4冊本棚から取り出し、ベッドで寝転んで読み始めた。


「〜♪」


 いや、ここはあなたの家ですか? と言いたくなるほどくつろいでいる。

 でもなんだか……こう、同じクラスの美少女が自分のベッドで寝転ぶ姿はなんだかエロいな……


 はっ!! いかんいかん何を考えているんだ俺は!


 頭をブンブンと振り、雑念を飛ばす。

 黒宮はしばらくは帰る気がないようだ。仕方ないので俺も他の漫画を何冊か床において読み始めた。


 それぞれ好きな本を読んで静かに時間を過ごす。特に何かを喋ることもないのだが、この沈黙に気まずさはなかった。


 ……ああ、そうか。友達ってこういうものなのかもしれない。


 キリのいいところまで読んだところで視線を黒宮に移すと彼女はベッドの上で壁にもたれて膝を立てながら絶賛読書中だった。


 ……夢中になりすぎてパンツが見えているが。


 ………………白か。

 イメージ的に黒色だと思っていたんだけど、黒宮だけに。


 あかん、これ言ったら絶対殺されるやつだ。


 どうしよう。どうしよう。言った方がいいのかこれ? 

 ていうか少しは気にしてくれよ。もしかして男として見られていないんだろうか?


 …………有り得るかも。


 い、いや、そんなことはどうでもいい。今はこの状況を打破することが大切だ。



「……黒宮さん? 暗くなって来たけど時間大丈夫?」


「ん〜」



 だめだ。完全に意識が漫画にいってる。

 しょうがない、あまりやりたくはないが直接指摘するしかないか。覚悟を決めて曇り用のメガネを外した。



「黒宮、さっきからずっとパンツめっちゃ見えてる」


「……っ!?」


 さぁ、何が飛んでくる!? 罵倒か? 拳か? 足か? それとも漫画か? 今の俺ならなんでも避けられるし受け止められる。


 さぁ! どんとこい!!



「……早く言いなさいよ。ばかっ」


 そう言いながら恥ずかしそうに顔を真っ赤にさせて目を逸らしながら言われた。


 ……いっそ一思いに殴って欲しかった。

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