第8話 黒宮さんと一緒(裏)


 昼休み、俺はまたまた気配を消して体育館裏でお昼ご飯を食べていた。


 はー……やはりこうして一人で過ごす時間はいい。

 

 昨日は黒宮さんの襲来イベントがあったため尚更だ。


 陰キャぼっちコミュ障には美少女とタイマンでお昼とかハードルが高すぎるよ……



「ちょっと、長椅子、ど真ん中で座らないでよ。私が座れないじゃない」



 お昼ご飯を持った黒宮がむすっとした表情でやって来た。 



「あ、ご、ごめん」


「……ん」



 俺が座るスペースを作ると黒宮は隣に座り昼ごはんを食べ始める。

  

 

 ……いや、なんで今日も来たんだよ!? 俺に言いたいことは昨日言い切ったんじゃないのか!? それともあれか? そんなに俺が口を滑らせないのか不安なのか!?



「…………………」


「…………………」



 何か喋ってくれよっ!!


 ちらっと黒宮の横顔を見るとすごく不機嫌そうな顔をして貧乏ゆすりをしながら髪の毛を触っていた。


 こ、これは……!!

 イライラしている人が無意識にしてしまう行動あるある!!


 何かあったのだろうか? 一応、聞いてみた方がいいのかな?



「………………何かあった?」


「ちょっと金田のことでめちゃくちゃうざいことがあったのよ」


「……と言いますと?」


「昼休み、購買でパンとか買った後、何人かの女の子を引き連れた金田と偶然遭遇して」



 それ、本当に偶然なんだろうか?



「そしたら『おお、寧々じゃねーか。これからそこの空き教室で昼食うんだけどお前もくるだろ?』ってさも私がついて来るのが当然みたいに言われたのよ!!」



 確かに金田なら言いそう。



「この私を金田ガールズの1員にするんじゃねーっつうの!! 死ね!!」


 

 うわー相変わらず裏の黒宮は口が悪いな。

 ……でもまぁ、気持ちはわかる。



「だから、その…………落ち着くところでこうしてゆっくりしたかったの」



 黒宮は少し顔を赤くして逸らした。



「……ああ、人気がないところって落ち着くからね」


「…………………………」



 なんか黒宮が『信じられないこいつ……』みたいな顔でこっちをみてるんだけど。


 なんで?



「な、なに?」


「別に……ま、というわけだからしばらくはここを避難所にするわ」


「えっ……いつも一緒に食べてる白咲さんと黄瀬さんは?」


「華とやよいにはもうロインで伝えてある。まぁ、あんたのことは流石に教えてないけど」



 ……まぁ、黒宮が金田のこと嫌いなのは2人は知ってそうだし色々といい感じに察してたんだろう。


 ……ん? しばらく?



「学校中の男子を夢中にさせているこの私と二人きりでお昼ご飯なんて陰キャぼっちのあんたには贅沢すぎる時間ね」


「……あ、はい。って痛い!! なんで肩を殴る!?」


「その気持ちが一切入ってない『あ、はい』と滅茶苦茶めんどくさそうな顔が腹立つからよ」



 な、なんて横暴なんだ。



「……そういえばあんた、今日放課後予定なんかないわよね?」



 なんか、予定がない前提で聞いて来てない? 質問じゃなくて確認だよね? その聞き方。



「まぁ、それは……今日はないけど?」


「今日は? いつもでしょ」



 その通りだけどさぁ……!! もう少し手心というか、そんなズバッと言う事はないじゃないか!


 す、少しは見栄くらい張らせてくれよ……!!


 その後、特に何も言わなかった黒宮に対してなんで予定なんか聞いて来たんだろうと疑問に思いながら昼休みを過ごした。



 そして学校が終わり、放課後になった。



 はぁ、今日は疲れた……なんというか、気疲れがやばい。早く1人で家に帰って休息を取りたい!

 

 靴を履き替えるため、下駄箱を開けるとノートの切れ端が入っていた。


 ……猛烈に嫌な予感がする。


 折り畳まれたノートを開くと



 公園で待ってるから絶対来ること。


 来なかったら………………♡


 黒宮寧々



 なんだよこのハートは!!怖いよ……!!


 黒宮さんと一緒に仲良く下校することが確定した瞬間だった。



「佐藤。なんか面白い話して」


「えぇ……」



 黒宮と公園で合流し、下北沢駅に向かって一緒に歩き出した矢先、彼女はとんでもないことを言い出して来た。


 この人はコミュ障に何を求めているんだ?



「それじゃ……」


「…………え、あるんだ」


「……いや、やっぱりこの話は……話てもいいのかなあんまり女性に話す内容じゃないかも」


「いいわよ別に。セクハラまがいの下ネタとかだったらぶん殴るから」


「こわ……いや、でも本当にいいの?」


「いいって言ってるでしょ。早く話しなさいよ」


「……本当の本当?」


「……あんた、本当は面白い話なんて何もないんでしょ?」


「その通り」



 無言で黒宮に脇をドスッと突かれてしまった。


 いたい……



「……あれ? 黒宮さんこっちの道は下北沢駅じゃないけど?」


「わかってるわよ。ていうか向かってるのは下北沢駅じゃないし」


「え? 帰るんじゃないの?」



 俺たちは今、どこへ向かおうとしているんだ?



「違うわよ。今向かってるのはスタバー。大好きだった期間限定のフラペチーノ復活してるから飲みに行くの」


「……へ? あの聞いてないんですけど」


「は? あんた昼休みに放課後は予定はないって言ってたでしょ?」


「え? あの質問てそういう意味だったの?」



 つまりあれか? 

 

 『あんた、放課後予定ってあるの? (予定がないなら一緒にスタバいこ?)』



 って意味だったのかあれ!? いや、言葉が……! 言葉が足らなさ過ぎる!!

 


「何よ……?」


「いえ……なんでもないです」



 もしかしたら陽キャの世界ではこれが常識なのかもしれない……


 そんな会話をしていたらスタバーについた。


 お、おお……なんというか外見がまずオシャレだ……!! オシャレオーラを放っている!!


 店員さんも、お客さんもなんだかみんなオシャレに見えてきたぞ……


 こ、こんなお店、陰キャの俺には絶対入れない。 



「いらっしゃいませ、ご注文はいかがですか?」


「ア、エト……」


「ピーチピンクフレッシュフルーツフラペチーノトールサイズ2つで!」



 な、なんなんだその呪文は!? こんなんで伝わるわけがー



「かしこまりました!! ピーチピンクフレッシュフルーツフラペチーノトールサイズ2つで!」



 つ、伝わってるー!?


 黒宮と店員さんのやりとりに衝撃を受けながら待っていると桃の飲み物が来た。


 おお、これがフラペチーノというやつか。陽キャがよくSNSとかに投稿してすやつ。



「……あ、美味しい……!! この飲み物結構好きかもしれない……!!」


「そうでしょ?」



 俺が飲んでいる様子を見て嬉しそうに微笑む黒宮。


 めちゃくちゃ美味しいし、また飲みたいくらいだけど……どうして今日、俺を連れてきてくれたんだろう。


 こんなところ、白咲さんとかと行ってそうなのに……



「うわ、やべ! 桃のフラペチーノまじうまじゃん!! めっちゃ好きだわ!」


「でしょ!? でしょ!?」



 目の前で高校生カップルが俺たちと同じものを飲みながらとても盛り上がっていた。 



「これ、あたしめっちゃ好きでさ!! 期間限定で、絶対にまーくんに飲んで欲しかったんだ!!」


「俺に?」


「うん!! だってね! 自分が大好きな人には自分の大好きなものを共有して、一緒に楽しみたいもん!!」



 うわ〜イチャイチャしてる〜!! 

 でも、なんか彼女さんの言っていることも分かる気がする。自分が好きなものを好きな人と共有出来るのってきっと嬉しいことなんだろう。



「……あれ? 黒宮どうした?」



 黒宮は机にフラペチーノを置き、なぜか両手で顔を隠していた。



「……うるさぃ」


「顔なんかすごく赤くなってない?」


「……赤くなってなぃ」




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