第9話 大天使の誘い


「おい。カラオケ大会行くぞ。参加ボタン押したやつはこっち来い」



 放課後、陽キャにしてバスケ部のエースである金田が教室で人を集めていた。

 カラオケ大会? 参加ボタン?

 あーなるほど、なるほど。多分クラスのグループロインで企画してアンケートを取っていたのだろう。


 それで、参加ボタンを押した男子が金田の元に集まっているんだ


 ……俺、クラスのグループロイン入ってないから知らなかったんだけど。


 まぁ、陰キャぼっちはそういうものだし、行ってもどうせ歌えないし……別にいいよ。

 

 ふと、一抹の寂しさが込み上げてきた。


 もし、俺のもカラオケとか一緒に行く友達が居たら……なんて。ありもしない事を考えてもしょうがないか。



「佐藤くんは行かないの?」



 鞄を持ち、立ち上がろうとした瞬間、声をかけられた。

 

 彼女の名前は白咲華しろさきはな


 天真爛漫な明るい性格で社交的で友達も多く、SNSなども積極的に活用する陽キャの美少女。


 黒宮寧々の親友でいつも一緒にいるほど仲がいい。


 成績優秀でスポーツ万能、友達も多く、容姿もいい。まさに最強女子。

 そして何より俺のような陰キャにも声をかけてくれる大天使のようなお方なのである。


 

「……もしかしてカラオケ嫌だった?」



 少し、落ち込んだような表情を見せる白咲さん。

 え? もしかしてカラオケ大会提案したのこの人か?



「えっと……カラオケは一度でいいから行ってみたいなとは思ってて。行きたいのは山々だけど……ちょっと、今日カラオケ大会あるの知らなかったので」


「へ? そうなの?」



 白咲さんの言葉にこくりと頷く。


 よし、これで白咲さんも「あ、そうだったんだねーじゃあ、また今度誘うから来てね!」とか言いながら去っていくだろう。



「金田くーん! 佐藤くんちゃんと誘ってくれたのー? 佐藤くん聞いてないって言ってるよー?」



 し、し、白咲さん!?



「あ? サトウ? 誰だそれ」


「何言ってるの! 同じクラスの佐藤十兵衛くん!! クラスロインに入ってないから直接誘うって言ってたじゃん!」 


「あー? そうだったか? 悪りぃ忘れてたわ」



 ヘラヘラと笑いながら気にしてる様子がない金田。

 全然悪いと思ってなさそうな顔で謝られても……とりあえず形だけ謝っておくかみたいな。


 まぁ、金田みたいな陽キャは俺みたいな陰キャは道端に落ちている石みたいなどうでもいい存在なんだろうけど。



「佐藤くんカラオケ行きたいって言ってるし、参加人数増やしといて」


「は? マジ? 来んのお前」



 うわー嫌そうな顔〜『お前みたいな陰キャくるんじゃねーよ』みたいな。

 頼むからもうちょっとその感情を隠してくれよ……



「えっと……それは」


 

 正直行きたくない……!! 一人カラオケならまだしもクラスのみんなでしかも大人数でカラオケとか俺にはハードルが高過ぎるっぴ!



「俺が行っても……初めてだし……みんなが居る前で一人で歌うのはちょっと……」


「そうなの? あ、じゃあさ! 私とデュエットしようよ!」



 何言ってるんだこの人は?


 あんなに賑やかだったクラスが一瞬の内に静まり返った。



『おい、どういう事だよ』


『なんであんな奴が白咲さんとデュエットを?』


『俺と代われよあの陰キャ』



 そんなひそひそ話が聞こえてくる。

 俺は耳がいいので聞こえるが、白咲さんは聞こえていないみたいだ。


 白咲さんは他のクラスとも交流がある学校中の人気者である。

 その人気は男女問わず、黒宮と肩を並べるレベル。


 学年で1、2を争う美少女が陰キャとデュエットなんて大炎上間違いなしだ。



「え、あ、で、でも……その〜俺が歌いたい曲って」



 アニソンだけなんですけど……



「歌いたいのはアニメの歌とかだよね? 私も最近人気のアニメのOPとかなら歌えるし!」


「あ? お前なんでそんな事知ってんの?」


 それな!?

 これについては金田と同意だ。



「え? だって自己紹介の文に書いてあったでしょ?」



 ああ、自己紹介カード。そういえば始業式の日に先生が配ったのを書いたな。この前まで教室の壁に貼られてたんだっけ。 


 正直、見る人なんていないって思ってたけど……白咲さんは見ていてくれてたのか。



「ね? だから佐藤くんもおいでよ。絶ッ対楽しませるから!」



 ぐわっー!! そのキラーんとした輝きが眩しいっ!! しかもなんかめちゃくちゃやる気に満ち溢れてるし!


 でも、行きたくない……!! 断れ自分!! 勇気を出せ!! この先は地獄だぞ!!



「あ、行きます…………!」


「やった!」



 ごめんな俺……断れないからコミュ障なんだよ。



「おお、寧々。どこ行ってたんだよ」



 承諾したことに後悔していると黒宮が教室に入ってきた。



「あ、金田くん。ちょっとお手洗いにね。それより……」



 真顔で俺の顔を見つめ、再び笑顔になり



「珍しい組み合わせだねっ」



 どこか圧を感じさせる笑顔で言った。



「うん! 今日のカラオケ大会についてお話ししてたの!」


「寧々も行くだろ? 俺の歌聞きがってよな」



 金田が言っていることが本当かわからないが黒宮も参加するのか……ちょっと胃が。



「ごめんね! 今日はどうしても外せない用事があって行けないんだ〜」


「は? なんだよそれ……聞いてねぇぞ」



 申し訳なさそうに謝る黒宮と明らか行く気が無くなった金田。


 あ、もしかしてこの流れは金田も不参加になるのでは?



「そっかぁー残念。今日はやよいちゃんも来ないし。せっかく佐藤くんが参加してくれるのにねー? 私と佐藤くんコンビ組んだのに」


「……コンビ?」



 ひっ……なんか、背筋が……



「うん! 私たちデュエットで歌うんだ〜」


「予定キャンセルになったから私も行くねっ」


 

 ええええええ!? なんでぇ!?


 こうして陰キャぼっちの俺は胃が痛くしながら地獄のカラオケ大会に行くことになった。


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