第10話 カラオケ


 カラオケ


 存在は知っていたけど、今まで行ったことなかった所。

 なぜかって? それは友達が居ないから。


 カラオケってスポッチャとかと同じでみんなでワイワイと遊ぶというイメージがついているし、一人カラオケはなんか負けな気がするし……


 だからまぁこれが俺の初めてのカラオケなんだけど……



「それじゃー!! みんなー!! 盛り上げて行きまっしょーい!!」


「イエー!!」


「ウェーイ!!」


「ウェェイ!!」



 なんてこった……カラオケはウェイ系が来る所だったのか。ここはパリピでイケイケでNowなヤング達の憩いの場だったんだ。


 このテンション……とてもじゃないけどついていけない。



「やっふぅー!! 寧々ちゃんも楽しんでる〜!?」



 テンション爆上げの白咲さんが黒宮に向かってマイクを向ける。

 嘘だろ。これ絶対シラフのテンションじゃないだろ!?



「やっふぅー!! 楽しんでるYOー!!」



 まじか! 黒宮!? お前すごいな!?

 

 

「っし!! 最初は俺な!! お前ら盛り上げないとぶん殴るぞ!! 俺にショボいライブさせるなよ!?」


「おお、大輝ー!!」


「金田くんの歌楽しみー!!」



 金田が張り切って陽キャが歌いそうなナウでヤングな歌を歌っていると男子全員が全力で合いの手をしたりと盛り上げようとしていた。


 ああ、よく見たら参加してる男子って俺以外金田の取り巻きだ。

 金田のやつ……もしかして自分の取り巻き以外誘ってないんじゃないのか?


 そんなことを思いながらみんなが歌うのをマラカスを振りながら長椅子の右端で見ていた。


 それにしても……なんか俺の隣だけ誰も座らないんだけど。

 一人分スペースが空いてるんだけど。


 いや、別に? 気にしないし。

 俺には端っこで一生マラカスをしゃんしゃんと振ってるのがお似合いだよ……



「うぃ、佐藤くん。楽しんでる?」



 とんと肩を叩きながら隣に座った白咲さんが話かけてくれた。

 ……気を使われてしまったかな。



「そろそろ私達の番だよ。なに歌う〜?」


「え? えと?」


「いや、えと? じゃないよー今日はデュエットするって言ってたじゃん」


「あ、ああ……!」



 あれホントのことだったのか……てっきり気を遣って言っただけだとばかり……



「もう……忘れんしっ」



 ポンと肩を叩かれる。

 いや、白咲さん。あなた距離感バグってませんか?



「私はね〜あ、これだと歌えるよ?」



 ずいと距離が一気に近づき、曲を入れるリモコンの画面を見せてくれる。

 白咲さん! 近い近い! 肩触れ合ってる!!


 ふと、冷たい視線を感じた。



「…………………………」



 俺と反対方向に座っている黒宮が俺のことをじっと見てる。

 その冷めきった目はゴゴゴとした圧を感じさせる。


 えぇ……なんか知らないけど、めちゃくちゃ不機嫌になってる。

 やばい……とりあえず視線を合わせないようにしよう。



「なぁ、寧々。俺と二人で別の部屋で歌わねぇか?」



 金田の声が聞こえた。

 正面を見ると金田が黒宮に言い寄られている。



「ここ、俺の後輩がバイトしててな。監視カメラが壊れてる部屋があんだよ……」



 監視カメラが壊れてる部屋で二人きりって……下心丸出しな気がするのは俺だけだろうか?



「あはは……金田くん。今日は随分とぐいぐい来るね……」


「わかってるぜ。今日きたのは俺目当てなんだろ? 満足させてやるからさ」



 黒宮は困惑した様子で金田から逃げるが、金田は黒宮を逃す気配がない。


 とうとう椅子の左端に追い込まれた黒宮は助けを求めるが取り巻きは予定調和だと言わんばかりに無視をする。

 女子は気の毒そうな顔をしたり、嫉妬しているような顔をしていた。


 つまり、この場で黒宮の味方をするものは誰もいないわけだ。



「……ごめん佐藤くん。デュエットはまだ今度でー」


「ごめん。白咲さん」


「え……?」


 

 そう、俺以外は。


 オレンジジュースが入ったコップを持って、立ち上がって、黒宮と金田の所に向かう。



「あ? なんだお前? 今いい所なんだから邪魔すんじゃ……」


 金田が何かを言い切る前に俺はコップに入っていたオレンジジュースを顔面にぶっかけた。



「がァァァァァァ!? てめぇ……!! なにしやがるっ!?」



 目に入ったのかあまりの痛みに悶絶する金田。オレンジジュースだから余計しみるのだろう。


 周りは俺の行動にぽかんとしていた。



「あ、ごめん。手がすべった。コップの中身無くなったからドリンクバーに行くよ。黒宮さん悪いけど場所を教えてくれない?」


「え?」



 困惑する黒宮の手を無理やり取って、部屋を出た。


 手を握ったまま、二人で廊下を歩き続ける。


「………………」


「………………」



 ……やってしまった!!

 うわぁぁぁぁ! やってもうた、やってもうた!!

 ぼっちのくせに! 陰キャのくせに! コミュ障のくせにあんなことを!


 俺はもう……どうしていつもこう……!! あああああああああ!!


 やばいよ……!! 絶対部屋戻ったら空気悪くなってるやつじゃん!!



「ちょっと。手、痛いんですけど」


「あ、ごめんなさい!」



 黒宮に言われてはっとなり慌てて手を離す。



「……あのさ、もうちょっとやりようなかったわけ?」


「うっ……!!」



 おっしゃる通りです……



「でも……その……怖かったから助かった。ありがと」



 黒宮は視線を少し斜め下に向けながら照れた様子で言った。



「……う、うす。えっとー俺はもう帰るのでお金だけ渡すよ」



 正直、もうあの部屋には戻れないので今日は帰らせてもらおう。

 白咲さんには明日謝らないとだな。



「待って。せっかくだし、別の部屋借りて二人で歌い直すわよ」


「……え?」


 俺のカラオケ大会はまだ終わらないようだ。




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