第11話 二人だけのカラオケ
「はぁーなんか疲れたわ」
部屋に着くなりぐったりとした様子で長椅子に座る黒宮。
この部屋にいるのは俺と黒宮のみ。
密室、暗い部屋、防音、二人きり……あれ? もしかしてカラオケってなんかあれな場所なのでは?
………………反対側に座ろ。
「ちょっと、隣座りなさいよ。デンモク使い辛いじゃない」
デンモク? ああ、曲を入れるやつのことか。まぁ、そういうことなら…………
とりあえず一人分ほど間を開けて黒宮の隣に座った。
「……いや、なんでそんなに遠いのよ?」
なにが気に入らなかったのかはわからないが、黒宮はめちゃくちゃ不服そうな顔をしている。
「華とはあんなに近かったくせに……」
「……え?」
「ワンモク使い辛いからもっと近づけって言ってんのよ」
「は、はぁ……」
もうやけになり肩と肩が触れるほどの距離まで詰める。完全に先ほどまでの俺と白咲さんの距離感。
これで『ちょっと近すぎ、きもいんですけど』とか言われたら帰ろう。
「……ま、いいんじゃない? これで」
よかった……よくわからないけど、なんか満足そうだ。
「やっふぅー!! 寧々ちゃんも楽しんでる〜!?」
テンション爆上げの白咲さんを真似をして黒宮にマイクを向けてみる。
「ぶっ殺すわよ」
あ、やっぱあの時は無理してたんだ。
「今更だけど、交流会なのに二人で抜け出して別部屋でカラオケしてていいのだろうか?」
「いいのよ。交流会という名のなんちゃって合コンなんだから。金田が絡むといつもこうなるのよ」
なるほど、だから最初は断っていたのか。
…………ん?
「それじゃあ、なんで今日来たの?」
「…………うるさい」
黒宮はまるで聞かれたくなかったことを聞かれた時のような表情をしてワンモクを操作しながら言った。
「さっきとは違って歌う曲を気使う必要ないから気が楽ね」
「別にさっきも好きな曲歌えばいいじゃん」
「はぁ〜これだから陰キャぼっちは……いい? ああいうあまり親しくもない奴らとのカラオケは場の雰囲気を読んで丁度いい曲を歌わなきゃならないの」
なるほど、陽キャには陽キャなりの苦労があるのかな。
「あんたも好きなやつ歌っていいわよ。二人だけだし、アニソンでもなんでも歌いさい」
「え? ホントに? それじゃあ『キュンキュン♡恋のマジカル10000パーセント!! 特権絶対宣言! ぴゅあれっつあ!』歌っていい?」
「絶 対 や め て」
えぇ、好きなやつ歌っていいって言ったのに……
「あ、これにしよう」
ピッと黒宮が曲を予約する。
一体どんな曲を歌うんだろうと思いながらテレビを見る。
失恋ラプソティー
「……あの、黒宮さん……この選曲は一体?」
「え〜? どうしてかな〜? 最近初めて!! 告白をして。初めて!! 振られた!! からかな〜? なんか失恋!! ソング!! を歌いたくなったのよね〜?」
「あ、ああ……そうですか」
根に持ってる!! 絶対に嘘告白断ったことまだ根に持ってる!!
二人だけのカラオケ大会はアニソンを歌って全曲失恋ソングを歌う黒宮に口を引きずらせながらマラカスを振り続けるというものになった。
「あー!! 楽しかった〜」
カラオケ大会も終わってオレたちは金田に見つからないよう上手い事出てい行き、二人で公園のブランコで座っていた。
「確かに、大きな声で歌うって結構スッキリするし、楽しいな」
「違う違う。楽しかったのはそこじゃない」
「は? それじゃあ、どこが楽しかったんだ?」
「え? あんたの引き攣った表情を見ながら歌う失恋ソング?」
「いや、性格最悪。というかなんで公園に?」
「それは……あ、来た」
黒宮の視線の先には息を切らしながらこちらに向かって走ってくる白咲さんの姿があった。
「寧々ー!! 佐藤くんー!!」
「白咲さん? どうしてここに?」
「ちょっと二人に直接言いたいことがあって……寧々にこの公園に来るよう頼んでおいたの……二人とも待たせてごめんなさい」
「ううん。華ちゃん大丈夫だよ。佐藤くんとお話しするの楽しかったし。ね? 佐藤くん?」
ニコっと微笑みながら「表」の黒宮は俺に同意を求めて来た。
「う、うん。あんまり待ってないし」
それにしても直接言いたいことってなんだろ?
……ま、まさか怒ってる!? そりゃそうだよな!? 金田の顔面にジュースぶちまけてやばい空気にした挙句どっか行って……
善意で誘ってくれたのに……あばばばば。
「二人とも、今日はごめんなさい!!」
…………え?
白咲さんは深々と頭を下げて俺たちに謝った。
「え、ええと? 華ちゃん、ごめんってどういう意味かな?」
黒宮も親友である白咲さんの意図がわからなかったみたいで、困惑している。
「うん……金田くんの事。本当は私がちゃんと止めるべきだったんだよ。寧々が来たらこうなる事はわかってたのに……いやなこと、佐藤くんに押し付けちゃった」
「いや、別にあれは華ちゃんのせいじゃないでしょ? 責任なんて感じなくていいんだよ?」
黒宮の言う通りだ。
誰が悪いと言われたら90%金田のやつが悪い。残り10%は止め方に問題があった俺にある。
それに実際、白咲さんはあの時止めようとしていた。それを先走ってオレンジジュースぶっかけたのは俺だし。
「私が企画した事だし、佐藤くんには絶対楽しませるって言ったのにあんな事になっちゃったし、きっと寧々も怖かったと思うし……二人とも嫌な思いさせちゃったかなって」
見るからに落ち込んだ様子の白咲さん。
ああ、彼女は本当に俺を楽しませようとしてくれたんだな。
「俺はそんなことないよ。俺にとってはカラオケって初めてで……未知の体験みたいで新鮮だったし……」
まぁ、テンション差についていけなかったりしていたけどそれも体験しなくちゃわからなかったことだし。新鮮だなって思ったことも事実だ。
それに……
「嬉しかったんだ。ぼっちの俺に対して気を使ってくれたことが。だからごめんを言うのはきっと俺の方なんだよ」
「……佐藤くん」
「私も怖かったけど、佐藤くんが助けてくれたからそんなに気にしてないよ? だからはなちゃんは今日のことを気にする必要なし! はい! これでこの話は終わり!」
「……うん」
黒宮が最後上手いこと締めてくれた。
「そうだ! 今日は3人で晩御飯食べない? 私、佐藤くんとちゃんとお話ししたいし!」
白咲さんからそんな提案をされ、思わず黒宮と見つめ合う。
「……まぁ、俺は大丈夫だけど。黒宮は?」
「私も問題ないよ♪」
「やた! それじゃあ決まりだね!」
どこにしようかな〜とウキウキしながら歩き出す白咲さんの背中を見つめる。
「……いい子でしょ? あの子って裏表がないのよ。相手を思いやれる心優しい子なの」
それは……俺も思った。
白咲さんの言葉には嘘はなかったし。
「ドラマの主役みたいで真っ直ぐで、純粋で……私とは真逆」
「……黒宮?」
「二人とも〜置いてっちゃうよ〜?」
「待って〜!! はなちゃん! 今行くー!!」
俺たちを見ながらぶんぶんと元気よく手を振る白咲さんに向かって黒宮は走り出した。
……今の表情、なんだか寂しそうな、羨ましがっていたような。
「佐藤くんもー!!」
「あ、ごめん!」
白咲さんに呼ばれはっと首をふり、俺も走り出した。
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