第4話 黒宮さんに付き纏われる?



 朝、いつものように人の波に紛れながらぼっちで登校しているとぽんと背中を叩かれた。



「佐藤くん。おはよっ」


「!?」



 振り返ると黒宮が笑顔で手を振っていた。

 黒宮の笑顔をみた瞬間思わず、身構える。

 彼女の裏の顔を知ってしまっているせいで何かをされるんじゃないか疑心暗鬼になってしまう。


まぁ、今は人目があるからかニコニコで可愛らしい人気者の顔だが。



「えっと……黒宮……さん。俺に何か?」


「え? 特に用事はないよ〜? ただ、佐藤くんの背中が見えたから、なんか嬉しくってつい声をかけちゃっただけ」



 嘘だ、絶対嘘だ。何か裏があるだろ絶対!!



「そ、そっか……それじゃお先に」



 ニコやかに手を振りながら歩くスピードを上げる。

 ここはさっさと黒宮から離れるのが正解だ。これから誰かと合流して一緒に登校するのかもしれないし。そんな中、陰キャな俺がいたら絶対に変な空気になる。


 この選択は黒宮の為なんだ。

 だから決して黒宮と一緒に居たら胃がきりきりするから離れたいとかではない。


 そう決して。



「待って!」


 

 歩く速度を上げて、黒宮から離れようとした瞬間、彼女に鞄をガシッと掴まれ歩みが止まる。



「どうせなら、このまま一緒に登校しよ?」



 えっ……

 いやいや、黒宮と登校されるところなんか見られたら絶対クラスの格好のネタにされるし、男子たちの目が怖いし、そして何より黒宮さんが怖いから正直嫌なんだけど。



「佐藤くんは……私と一緒に登校するのいや?」


「いやで」


「は?」


「嬉しいです」


「うんうん! そう言ってくれて嬉しいな♪」



 怖いよ!! その「は?」めちゃくちゃ怖いよ!! さっきまでの可愛らしい声との温度差がやばいんだって!!


 そんな彼女に引き攣り笑いと冷や汗をかきながら仲良く? 登校した。



 休み時間。


 授業と授業の間にある10分間のこの時間ぼっちの俺にとっては虚無の時間。

 いつも寝たふりをしてやり過ごしていたのだが……



「あ、ねねちん。昨日のマジ恋みた?」


「もちろん見たよー私的には優斗くんと渚ちゃんの組み合わせが最推しかな?」


「あーわかる〜前回でグッと距離が縮まったよね。はなちーは?」


「えっと……私はバラエティ番組見てたかな?」


「……はなちーてほんと恋愛に関して興味ないよね」



 黒宮は俺の机を腰掛けながらいつも絡んでいるグループと楽しそうに談笑していた。


 黒宮、白咲さん、黄瀬さんの3人で構成されているトップカーストの美少女グループだ。俺には縁もゆかりもないグループである。


 隣の席が黄瀬さんだからすぐ横で話をするのはいいんだけど、なんで黒宮は俺の机に腰掛けてるんだよ。こんな状態で寝たふりなんて出来ないよ。



「あれ? 佐藤くん。どこ行くの?」



 立ち上がった俺に対して黒宮が呼び止めた。



「お、お手洗いに」


「そっか……ごめんね? 引き止めちゃって……」



 どこか居心地悪かったのでそそくさと逃げ出すように教室を出る。一応自分の位置なのになんか追い出されたような気分になりながらトイレに向かう。

 

 なんか、今日一日ずっと黒宮が近くにいるような気がする。昨日まで全然話かけられなかったのに、今日はちょくちょく絡まれるというか。

 

 そう、まるで付き纏われているような……いや、それは流石に思い上がりか。


 もしかして今も後ろについて来てたりしてー



「……あ、佐藤くんっ」



 なんとなく振り返ると黒宮がいた。


 ……まじでついて来てるじゃねぇか。

 


「……私もちょっと髪型とか直したくて。えへへ」



 な、なるほど。確かにトイレは化粧室とも言うし、身だしなみとかを整えるのはおかしくはない……だけど。


 なんでこのタイミングで?


 頭にたくさんの疑問符を浮かべながら黒宮さんと別れ、男子トイレに入る。


 洋式便座に座り、俺は頭を抱え込んだ。


 

 もしかして……これ、本当に付き纏わられてるんじゃ…… 

 なんかこう……見張られている? 見られてる? いや、目を付けられている?



 いや、でも待ってくれ。俺は黒宮に付き纏わられるようなことした覚えは……


 

『陰キャのくせに!! コミュ障のくせに!! ぼっちのくせに!! 私の告白を断りやがって!!』


『最悪! ほんとっ! 最悪最悪最悪!! ありえないっ!! ほんとありえない!!』


『何が思ってたより硬いな……よ!! 胸を触らせてやったのになんなのよあの反応は!? 童貞のくせに!! 佐藤死ね!! 死ね!!』


『この事、誰かに言ったら容赦しないから』


『万が一誰かに言ったら学校の男子ども全員を使って徹底的に追い詰めてやる』



 心当たりしかない!!

 そうか、俺が黒宮の秘密をばらさないか見張るために付き纏ってくるのか……


 いやいやいや、まだ決めつけるの早い。そもそも目を付けられていることすら被害妄想という可能性がある。



 そうだ。そうだよ。うん。きっと思い込みなんだ。だから大丈夫、大丈夫。

 

 自分に言い聞かせるように洋式便座から立ち上がりトイレから出る。


 もしトイレを出た先に黒宮が待ち構えていたら目を付けられている可能性大だ。


 ちょっと時間も経ってしまったし流石に黒宮もー



「あ、佐藤くん。遅かったね」



 トイレを出た矢先、俺のことを待っていた黒宮がいた。



 あ、あああああああーー!! 完全に目を付けられてる……!!



 だって、俺を待つ必要なんかないじゃん! これ絶対俺を見張るために付き纏ってるやつじゃん!!


 ……どうする。いっそのこと『安心してください! 黒宮さん!! 俺、黒宮さんの裏の顔ことは絶対に言わないんで!!』って宣誓した方がいいのか?


 隣で歩いている笑顔の黒宮を見ながら考え込んだ。


 

「ね、佐藤くんって、今日の放課後時間ある?」


「え? いや……ないですけど」


「ほんと? それじゃあ……放課後さ、ちょっと付き合ってくれないかな?」


「…………え?」


 



 

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