第3話 知ってしまった裏の顔
「十兵衛くんのバカ!!」
黒宮は涙を流しながら走って屋上から出ていく。
バタン! と勢いよく閉まる扉を俺は黙って見つめていた。
俺は先ほど『学校中の男子を夢中にさせている美少女』黒宮寧々に告白された。
だけど、俺のことが好きというのは間違いなく嘘だ。
『私、こんなに十兵衛くんのこと……好き。なんだよ?』
これも嘘。
『私と付き合えば私の身体……好きにして良いんだよ?』
これも。
『えーと……好みじゃないから……です』
『あぁ!?』
あ、これは本当に怒ってたな。
多分、唯一本音で話してたのってここくらいじゃないか?
きっと彼女が俺に対して身体を密着させたり、下着を見せて胸を触らせたのは「嘘告白」を断られたことにより彼女のプライドが傷ついてしまったからだろう。
いくら陰キャでぼっちの俺でも裏がある告白を喜んで受けるほど間抜けではない。
そういえば去り際に泣いている所をわざと俺に見せていたよな。これはもしかして追って来いという意味なんだろうか?
……一応、様子だけでも確認したほうがいいのかもしれない。
屋上を出て階段を降り、廊下を見ると鞄を持った黒宮の後ろ姿が映った。
一見落ち込んでいたり怒り狂ったようには見えなかったが、少し気になったので鞄を取り後を追うことにした。
靴を履き替え、姿が小さくなっていく黒宮を追うと近くの見晴らしの良い公園へと入って行った。
子供達は帰ったのか公園には誰もいない。
距離が距離なので黒宮は俺に気付くことなく、景色を見ていた。
「黒宮さー」
「ああ、ほんっとむかつく……!!」
「!?」
あの黒宮が発したと思えないほど低く、重い声だった。
「陰キャのくせに!! コミュ障のくせに!! ぼっちのくせに!! 私の告白を断りやがって!!」
黒宮は暴言を吐きながらガン!! ガン!! と振動するほど力強く、乱暴に手すりを蹴った。
陰キャ? コミュ障? ぼっち? 告白?
……俺のことだ!!
思わず身を隠し、黒宮の様子を伺った。
「最悪! ほんとっ! 最悪最悪最悪!! ありえないっ!! ほんとありえない!!」
ひぇ、告白断ったことめちゃくちゃ怒ってる……!!
「何が思ってたより硬いな……よ!! 胸を触らせてやったのになんなのよあの反応は!? 童貞のくせに!! 佐藤死ね!! 死ね!!」
ひ、ひぇぇぇ……!! すいません! 童貞の癖にイキった発言すいません!!
今までの可愛い印象を持っていた黒宮への幻想が一気に打ち砕かれた。
きっとこれが黒宮の裏の顔……なのだろう。
だめだ……ここにいたら殺されるかもしれない。
今みたことは全部忘れよう。そうすれば明日からも変わらない日常が……
ピコン!
立ち去ろうとした瞬間、スマホが鳴ってしまった。
おい、今クーポンのお知らせとかいらないんだよ!!
「だれ? そこに誰かいるの?」
ああ、終わった。黒宮の冷ややかな声が聞こえる。
…………仕方ない。ここは腹を括るか。
「……佐藤十兵衛」
姿を見せた俺に対して彼女は冷たい感情の籠った声で言った。
「聞いたの?」
見たことがないくらい強烈な視線が向けられる。
こ、怖ぇぇぇぇ!!
「あ、あ、ぼ、ぼく。何も聞いてないです」
「あんた……もう少しマシな演技できないの?」
「……すいません」
か、帰りたい……早くお家に帰りたい……!
こんなことになるのなら後を追うんじゃなかったと激しく後悔していたら黒宮は呆れたように大きなため息をついた。
「……まぁいいや。この事、誰かに言ったら容赦しないから」
彼女の言葉に激しく首を縦に振る。
というか、俺なんかが言ってもきっとだれも信じないだろう。証拠もないんだし。
「万が一誰かに言ったら学校の男子ども全員を使って徹底的に追い詰めてやる」
想像がつく。
もし、俺が今あったことを誰かに言ってしまったら黒宮は『嘘』を広められた悲劇のヒロインのように立ち回り、学校内の男子が俺の敵に回るだろう。
『佐藤くん……!! どうしてそんな嘘をついたの? 私に告白を断られたから? そんなの……ひどいよっ』
黒宮がこう言えば俺の学校生活はおしまいだ。
何が真実かは関係ない。嘘だとしても多数が真実だと言ったらそれは真実になる。
現実とはそういうものだ。
「この際だから言っておくけど、あんたみたいな何の取り柄もなくて暗くて地味男すごく嫌いだから」
あ、はい……それはなんとなく分かっていました。
「さっきの告白も嘘だから、そこは勘違いしないで」
「……どうして嘘の告白なんかしたんですか?」
「別に……同じクラスである金田の当て馬としてあんたを彼氏に選んだだけよ」
金田くんって……ああ、バスケ部のエースか。
陽キャでクラスの中心人物で女子からの人気がかなりある。
女子と男子であからさまに態度を変える所や堂々と5股するその図太さは俺も見習いたいくらいだ。
「じゃ、私帰るから」
黒宮はそう言いながら鞄を持って歩き出す。
黒宮を追かける形にはなってしまうが、電車の時間もあるので俺も歩き出した。
「…………………………」
「…………………………」
う、うわぁ……気まずい……!! 最悪だ……帰る方向が全く一緒だ。隣で一緒に歩いていないとはいえ先ほどのやりとりのせいでめちゃくちゃ気まずい!!
「……いつまでついてくんのよ。このストーカ」
我慢の限界と言わんばかりに不機嫌そうな顔をしながら黒宮は振り返った。
わーすっげぇそっけない。
表の顔と裏の顔の温度差がやばすぎて脳がバグそう。
「あ、えっと……俺、下北沢駅に向かってるので」
「……私も下北沢駅なんだけど」
……マジかよ。
なんともいえない空気が生まれた。
こ、ここは俺が何か面白い提案をしないと……!!
「あ、えっと……しりとりでもしながら帰ります?」
「ちっ」
舌打ちされた!?
「……りんご」
あ、付き合ってくれるんだ!?
鬱憤を晴らすかのように『ご』攻めをされながら下北沢駅まで歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます