第2話 アイドルの裏の顔




 放課後、この屋上で私は今からある男子に『嘘告白』をする。



 私、黒宮寧々はこの学校のアイドルだ。男子全員が自分に夢中になっているいう自負がある。



 ほんと、男ってバカだと思う。

 


 ちょーっとソフトタッチとか思わせぶりな態度やあざとい行動をして微笑みかけたら完落ちする。


 みーんな私の虜。


 そう、私の笑顔で落ちない男なんてこの学校には居ない。


 だけど……人気者には人気者なりの苦労がある。


 それは勘違いした気持ち悪い男子どもが遠慮なくぐいぐい来ることだ。


 告白だけなら別にいい。


 ほぼ、毎日告白を受けて振るのはめんどくさいけど人気者の責務ってやつだから仕方がない。



 だけど、同じクラスの『金田大輝かねだだいき』だけはマジで無理。


 なんなのあいつ? バスケのエースでモテてるか知んないけど馴れ馴れしいし、距離近いし、まじでうざい。


 めんどくさい陽キャだし上から目線で『こいつはもう俺の女』みたいな態度が死ぬほど嫌い。



『やっぱ、黒宮さんは大輝くんと付き合うのかな?』


 

 そんな噂を聞いた時は怒りで壁を蹴りそうになった。しかも、金田が好きな女子からは目の敵にされるし。 


 そもそもあいつ彼女持ちだし。(5股)

 

 正直、あんなのに好かれても何もいいことがない。


 だから私は恋人を作ることにした。


 そうすれば、プライド高い金田は他の女に行くだろう。

 そもそも私のことは『学校中の男子が夢中になっている女すら俺の物』ていうトロフィーとしか見ていないだろうし。



 で、白羽の矢が立ったのが同じクラスの男子『佐藤十兵衛』だ。



 あいつ陰キャだし、ぼっちだし、コミュ障でへタレそうだし手を出してこなさそうだったから。


 ま、デートとかキスとかエッチとは絶対しないけど、一緒に下校したり、手繋ぎくらいはさせてやってもいい。


 少しの夢くらいは見せてあげないとね?


 私に恋人ができたことを学校中に認知させて、他の女の子にご執心になった金田の様子を確認して振れば問題ない。



 そんなことを考えていると佐藤十兵衛がやってきた。



 佐藤は緊張した様子だった。

 気合い入れてメガネ外してバカみたい。ほんと滑稽だわ。


 ま、成功が約束された告白なんてつまらないし、さっさと告ちゃうか。


 ちょっと雑談して。良い感じの雰囲気を作る。


 そして、まるで『恋をしている女の子』的な、いかにも純愛っぱい表情をしながら私は言った。



「佐藤くん。あなたのことが好き。私の恋人になってくれる?」



 ま、答えなんて分かりきってるんだけどねー



「ごめん」



 ………………は?



「えと? ど、どういう意味かな?」



 意味がわからなくて、頭が真っ白になった。


 え? ごめん?

 ごめんってなに? 

 どういうこと? 

 わけがわからないんだけど?



「えーと……その……黒宮さんが俺のことを好きだと言ってくれるのはすごく嬉しい。だけど、俺は黒宮には応えられない。この告白は丁重にお断りさせて頂きます」



 これまで私が散々男子共に言ってきた言葉を、佐藤なんかに言われた。



 は? もしかして、私、陰キャ如きに振られたの?



 この私が?


 はぁぁぁぁぁぁ!?



「それじゃ、これで……」


「ち、ちょっと待って!!」



 私は帰ろうとする佐藤の手を掴んだ。 


 まだ、終わっていない……このままじゃ終われるわけがない。

 

 ありえないことだけど、私は今、こいつに振られた。


 だったら、今!! この瞬間でこいつを惚れさせてやる!!

 

 私は学校中の夢中にさせた女よ? たった一人なんて余裕よ!


 私はぐいっと佐藤に近づく。



「えっと、く、黒宮……さん?」



 後退していく佐藤を追い詰め、壁ドンしてやつが逃げないよう動きを封じた。



「十兵衛くん。捕まえた♡」



 そう言いながら私の胸を体に当てるよう密着する。 



「十兵衛くんは……私のこと……嫌い?」



 私はじーと佐藤の顔を見つめる。


 男を落とすための必殺技の一つである5秒間のアイコンタクト。


 私がたった5秒じーと見つめたらみんな頬を赤くさせて、私のことを好きになる。


 私はこの方法で30人くらいの男子どもを惚れさせた。


 アイコンタクトに加え、今までやってきたことのない体の密着。

 

 男はみんな、こういうのが好きなんでしょ?



「あ、すいません。ちょっと近いです……」



 はぁ!? なんなの鬱陶しそうなその顔!? ふっざけんじゃないわよ!?

 

 もう帰りたいと言わんばかりの佐藤の顔にイライラしつつも顔に出ないよう我慢する。



「なんで、だめなの? 私、こんなに十兵衛くんのこと……好き。なんだよ?」



 懇願するようにいうと佐藤は目を逸らし、う〜んと考え込んだ。



「えーと……好みじゃないから……です」


「あぁ!?」


「ひぃ!? すいません! すいません!!」

 


 しまった!! 思わず本音がでてしまった。

 

 しょうがない……本当はやりたくない。やりたくないけどッ!


 最終兵器を出すしかない!!


 第2・第3ボタンを外し、胸元とピンク色の下着をチラっと見せながら佐藤の右手を掴んでべっとりと胸を触らせる。



「私と付き合えば私の身体……好きにして良いんだよ?」



 どう!? こんなしたことないから羞恥心で頭が沸騰しそうだけど、ここまですれば流石に……!!



「なんか、思ったより硬い……」



 硬っ!? ブラつけてるんだから当たり前でしょ!? ぶっ殺すわよ!?



「えっと、黒宮さん。こういうのはちゃんと好きな人にするべき……ですよ」



 うるさい!! 陰キャのくせに胸触りながら諭すな!!



「う、うぅぅぅっ……」



 なんか、もう、悔しくて……情けなくて涙が出てきた。



「十兵衛くんのバカ!!」



 ボタンを締め直し、涙を流しているのを佐藤に見せつけながら私は屋上を出て行った。


 ひたすらに階段を駆け降りて一旦立ち止まり、後ろを振り返る。


 いや、なんで追ってこないのよ!? 普通追いかけてくるでしょ!? 何やってんのよあの陰キャは!?


 はぁーーー……もういい。陰キャに行動力を求めたのは間違ってた。


 だめだ。あいつの顔を思い出しただけでもイライラが湧き出てくる。


 こんなに屈辱的な思いを受けたのは初めてよ!?


 嫌い嫌い嫌い! ほんと嫌い!!


 ……この苛立ちを解消させるため、私は学校を後にした。

 




 

 

 





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