第5話 黒宮寧々の理解者
きっと私……黒宮寧々が「誰かを心から好きになること」はないだろう。
私は学校の男子共を夢中にさせているアイドル級の美少女だ。
でも、みんなが夢中になっているのは『演じている私』
言動全てが「こうすればみんな私のことを好きになってくれるだろう」という計算を元になっている。
それが私の「表」だ。
それに比べ「裏」の私は気が強くて口も悪い。
決して見せない「裏」の顔。
なぜ演じているのか?
それは私の素なんかみんなには求められていないから。
一つ勘違いしないで欲しいのは私自身「表」の自分も結構気に入っている。
「表」と「裏」両方あるから『黒宮寧々』なんだ。
だから、きっと……私が心の底から誰かを好きになるのなら……「表」と「裏」両方の私に対して丁寧に向き合おうとしてくれる人。
私は、私をちゃんと見ていてくれる人と出会いたい。
そんな奇跡が起きたらいいなと、今、この瞬間もずっと願っている。
でも
そんな奇跡が起きないことは……誰よりも知っている。
でも、「裏」の私の方が親しみやすい。演じない方がいいと言ってくれる人なら……もしかしたらいるかもしれない。
そんな人となら……私は
「あの……黒宮さん」
「何よ」
「どうして俺は放課後呼び出されたんですか?」
私は今、同じクラスの陰キャぼっち佐藤十兵衛と二人でファミレスに居た。
「はぁ? そんなの金田のやつをどうするのかを話し合うからに決まってるでしょ?」
「……え、それって俺関係あるんですか?」
「あんたが私の告白を断るからでしょうが」
「えぇ……」
「今日金田のやつに『彼女と別れるからワンチャン付き合わね?』って言われたのよ!! 何がワンチャンよ? あいつ昨日も他の女子に同じようなこと言って6人目の彼女作ってるのよ!? ほんと最悪。下心丸出しでマジでキモいわ」
しかも何回も頭とか腰とか触られそうになったし。ほんと、今日は厄日だ。
「それは……キモいっすね」
気の毒そうな顔をしながら佐藤は同意した。
「でしょ? 今回は冗談ぽい感じだったけど次はどうなるのかわからないし、緊急で会議を開いたってワケ。お分かり?」
「あ、ハイ……」
佐藤は納得したような、でも納得できないような表情をしながらドリンクを飲む。
「はぁー……やっぱ、身近にいる女子に見向きもされてない陰キャぼっちを偽恋人にして金田の興味を逸らすしかないか……ということであんた。私と付き合いなさい」
「え? 今の流れでよろしくお願いします!ってなると思ったんですか?」
「はぁ? いやいや……私に貢ぐ権利と手を握る権利とこうして私とゆっくりと話す権利が与えられるのよ? こんなのYES一択でしょ」
「アイドルの握手会券か何かですか? そんなのNO一択でしょって痛い!」
その発言にムカついたのでゲシゲシと佐藤の脛を蹴ってやった。
「というか、偽物の恋人作ろうとするほど金田くんの彼女になるの嫌なんですね」
「好きでもなんでもない奴からの好意なんて迷惑以外の何ものでもないのよ。あいつの彼女になるのならゴキブリを素手で逃す方がマシ」
そもそも金田のやつも彼女にしたいのは「表」の私。そんな男なんて好きになれるはずがないし、論外だ。
まぁ、6股する時点でないけど。
「……だったら匂わせをすればいいんじゃないですか?」
「匂わせ?」
はっきりと明言せずにそれとなく気づかせるってことね……あくまで間接的に彼氏の存在をチラつかせる。
うん。悪くない手だわ。
「あんた陰キャのくせにやるじゃない」
「あ、ありがとうございます? ということで俺はもう帰ってー」
「それじゃ、SNSに投稿する匂わせ写真を撮りに行くわよ」
帰りたいオーラを出している佐藤の手首を掴み、近くのスポッチャへと移動した。
スポチャに着き、一度やってみたかったボーリングで遊ぶことになった。
受付を終えて、シューズも履き、ボーリングも球も用意しあとはスコア表が張り出されるのを待つだけ。
「あ、そうだ。普通にプレイしてもつまらないし。何か賭けをしない? あんたが勝ったらジュース奢ってあげる。私が勝ったら何でも言う事一つ聞きなさい」
「え、勝った時のメリットと負けた時のデメリットが釣り合ってない……」
私は明らかに不満げな表情を見せる佐藤を有無を言わさず賭けボーリング大会を実施した。
初心者同志の勝負。その結果は……
「ふっふ〜ん♪ 寧々ちゃんの大勝利〜♪ さてさて何をして貰おうかしら〜」
勝利の余韻に浸りながら夜の帰り道を歩く。
「あ、そういえば写真。撮ってないような気が……」
……あ
「まさか……忘れてたとか?」
「うるさい。ぼっちうるさい」
「……ま、まぁ。今日は普通に楽しくボーリングできたということで」
「は? 楽しんでた? 私が? あんたと遊んで?」
「え? いや、楽しんでたでしょ。ストライク取れた時とか今まで見たことないくらいはしゃいでましたよ?」
「それは……」
ああ、そっか。私、今日楽しかったのか。
まさか「表」ではなく「裏」の顔で楽しんで遊べる日が来るなんて……
「ていうか、思ったんだけど……今日は普通に喋ってるわね。昨日まではあ、あ、あ……みたいな感じだったのに」
「そんなクリーチャーみたいな話し方はしてない。でも……そうだなぁ……黒宮さんって結構我が強いから俺も遠慮しなくていいかなって開き直ったのかも」
「ふーん」
それは……つまり。
もしかしてと心が高鳴る。
「あのさ……」
ちょっと緊張する。
だから、隣にいる佐藤にそっぽを向いて言った。
「佐藤はさ。いつもの『表』の私より、今日みたいな『裏』の私の方が親しみやすい?」
「裏」の私の方が親しみやすい。演じない方がいいと言ってくれる人なら……もしかしたらいるかもしれない。
そんな人となら……私は友達になりたい。
「え? いや……それはどうだろ? っていったい!! 鞄で叩かないで!!」
「うるさい! うるさい!! あんたが空気を読まないからでしょうが!」
ああ、ホント……期待した私が馬鹿だった!!
わかってるわよ!! こんな自分が受け入れられないってことくらい……!!
「だって……もしここで肯定してしまったら『表』の黒宮さんを否定したことになるだろ?」
「……え?」
佐藤の言葉を聞いてピタっと手が止まった。
「みんなが夢中になっている『表』の黒宮さんも今ここにいる『裏』の黒宮さんも両方とも黒宮さんなんだ。だからこっちの方が良いとか……それはなんか違うというか」
「………………」
きっと……私が心の底から誰かを好きになるのなら……「表」と「裏」両方の私に対して丁寧に向き合おうとしてくれる人。
「……なんでも言うことを聞く権利」
「え? 今? 別にいいけど……何をすればー」
「キスがしたい」
「………………え? あ、それってどういうんぐ!?」
佐藤が何かを言う前に私はこいつの唇を奪った。
唇を合わせた後、開いている口の中に一気に舌を入れる。
「!?」
あ、これ……すごく……気持ちいいかも。
舌を絡め、徐々に激しくなっていく。
んっ。舌で口内をなぞると体がびくってなった。ここが弱いんだ……
「っは!!」
顔が真っ赤になっている佐藤に無理やり引き剥がされた。
「……く、黒宮さん? い、いい一体何を?」
「……佐藤」
「は、はいっ!?」
「私と……結婚して?」
「………………は?」
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