第6話 黒宮寧々の賢者タイム



「わーーーーーーーーーっっっ!!」



 部屋の中で大暴れしたい衝動を懸命に抑え、代わりにぽかぽかと枕を殴り続ける。


 なんで……なんで私はあんなことを……!!



『キスがしたい』



 わー!! わー!!


 数時間前自分が言った言葉がフラッシュバックする。


 なんでキスした!? 私のファーストキス!! なんであんな陰キャなんかに捧げちゃったのよー!!


 

 私、黒宮寧々は数時間前……同じクラスの陰キャでぼっち佐藤十兵衛とキスをした。


 ……しかもディープなやつ。


 正直、怒っていいのか、泣いていいのかわからない。

 感情がぐちゃくちゃになって、40°くらいあるんじゃないかってくらい顔が熱い。



『私と……結婚しよ?』



 いやぁぁぁぁぁ!!



 ベッドの上、枕に顔をうずくませて足をバタバタとさせる。

 

 結婚ってなに!? 


 なんで私、陰キャにプロポーズなんかしてるの!? 意味がわからないんだけど!?

 

 ていうか、あの陰キャ……!! なんなのよあいつは!? ぼっちでコミュ障の癖にあんな時に限ってパーフェクトコミニケーションしてくるんじゃないわよ!!


 枕を抱きしめカーペットの上をゴロゴロと転がる。


 違うの……違うのよ。私は「裏」の自分を受け入れてくれる人が欲しかっただけなの……友達が欲しかっただけなの。


 なのにあいつは……「表」と「裏」の私に対して丁寧に向き合った。

 私がノドから手が出るほど欲しかった言葉をかけてくれた。


 100点の回答を期待していたら200点の回答を返されてきた。


 だから、つい……思わずというか、体が勝手に動いてしまったというか。

 

 そもそも人とは感情で動く生き物で、だから感情に手網はつけられないものだから……



「いや、それだと私があの陰キャのことが大好き過ぎてあんなことやっちゃったみたいじゃない!!」



 思わず、一人ツッコミのように扉に向かって枕を投げつける。


 はぁはぁと息切れをしながらふと思った。


 あれ……? もしかしてこれって……私が悪いんじゃなくてあの陰キャが悪いのでは?


 そう……そうよ!! 佐藤があんなこと言わなければこんなことにならなかった。むしろあれよ。私のファーストキスは奪われたのよ。うん。


 私の初めてを奪ったのは佐藤十兵衛。全部あいつが悪い!! だからあいつにはと責任を取って私と結婚ー



「ってなんでそこで結婚なのよ!!」



 思わず、一人ツッコミのように扉に向かって枕を投げつける。


 そんなやりとりを私は日付が変わるまで繰り返していた。



 

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