第15話 陰キャVS陽キャ(後編)
え、あ、はぁ?
俺、金田は混乱していた。
なぜって? そりゃそうだろ。この俺が……!! バスケ部の絶対的なエースである俺がなんで陰キャの佐藤にボールすら奪えずにいる!?
どういうことだ……なにが起きてるんだ、これ。
なんなんだ……こいつ……めちゃくちゃバスケ上手えじゃねぇか!
全国大会で負けたチームの奴が霞んで見えるレベルの技術力……これはやばすぎる。手も足もでねえ……!!
「あぁ……!!」
俺の全力全開のドリブルもあっけなく敗れ、ボールを取られてしまった。
くそ! やばい、やばいぞこれは。次こいつに抜かれてボール決められたら俺の完敗だ。
「佐藤ー!!」
「おいおい!! これ佐藤の完勝じゃね!?」
「佐藤いっけー!!」
「いけいけ!! このままかっちまえ!!」
「佐藤先輩がんばれー!!」
−−ワァッ!!と湧き上がるギャラリー
うるせぇ!! 空気読め! 俺の……お前らのスター金田様のピンチだぞ!! なにあいつの応援なんかしてんだよ!! 黙ってろよ! クソどもが!!
何もかもが癪に障る! 苛立ちがかつて無いほど湧き上がった。
この底辺が! 勘違いするんじゃねーぞ! お前は陰キャで! コミュ障で! ぼっちの底辺中の底辺なんだよ!!
ああ、そうだ。 このまま負けるくらいなら……こいつがプレイが継続不可能になるような怪我を負わせちまえばいい!!
ファウルになっちまうかもしれねえけど、そんなことはどうでもいい。わざとじゃない言って言い切ればなんとかなるだろ。
誰もこんなやつの心配なんかしないだろうし(笑)
俺がお前みたいな底辺地味野郎が俺に勝つなんてありえないし、あっていいはずがねぇんだよ!!
俺は特別なんだよ!!
だから、惨めに蹲るのはお前だ! 佐藤!!
「あああああ!!」
俺は佐藤に向けてファウル確定で突っ込んでいく。
これで終わりだ!! 死ねええええええええ!!
「バレバレなんだよ。ヘタクソ」
佐藤は鼻で俺を笑いながらフェイントを絡め、重心を後ろにしながら俺のファウルを躱わした。
まっ!? 今重心を変えられると……!!
俺のファウルは空を切り、そのまま俺は倒れ込んでしまう。
そして蹲るように俺は佐藤の顔を見上げた。
嘘だろ……!? まさか狙ってやがったのか? 俺がファウル覚悟で突っ込んでくると予測して……!?
「なんだ。思ったより下手くそだったな。お前」
そう言い放ちながらシュート体勢に入る。
やめろ!! やめてくれぇェェェェェェ!!
縋り付くように届くはずのない手を伸ばす。
いやだ、いやだいやだいやだ!!
こんなっ……!! このままなにも出来ずに負けたらカースト底辺にまで落ちちまう!!
佐藤は冷静に機械のようにシュートを放つ。
ああああああああああああぁぁぁ!!!!
外れろ外れろ外れろはずれろ!! 頼むから外れてくれェェェェェェ!!
俺の居場所が無くなっちまうぅぅぅぅぅー!!
そんな俺の願いを握り潰すように佐藤の放ったボールはリングに入った。
ああ、終わった。
ボールが入った瞬間、体育館の中が沸いた。
「佐藤の勝ちだ!!」
「うおおお!! 佐藤ー!!」
「佐藤の圧勝じゃん!!」
「佐藤スゲェェェェ!!」
ふざけるな……この歓声は俺が浴びるはずだったのに!!
俺の女どももきゃーきゃー!した様子で佐藤の名前を呼んでいる。
しかも俺の女になるはずだった寧々も食らいつくように佐藤を見ていた。
ああぁ、ああああ!!
「お、お前……なん、なんだよ!? 嘘つきやがったな!?」
「嘘?」
「昨日! 1ヶ月でバスケやめたって言ってたじゃねぇーか!? こんなの……初心者の動きじゃ」
「嘘はついてないよ。バスケは1ヶ月で飽きてやめちゃったんだ。だから練習なんてまともにしてないしほぼ初心者だよ」
「じゃあなんで俺はお前に手も足も出ないんだよ!?」
「ただの才能」
「っぐ!! う、うぅぅぅぅぅ……!! 認めねぇ!! こんなの認めねェェェ!!」
「……まだ、現実を受け入れられないのなら続けてやってもいい。そうだな。あと10分で予備チャイムが鳴る。それまでにボールを奪ったら金田の勝ちにしよう」
は? なんだよ……なんなんだよその条件!? こいつ……!! 俺のこと舐めてるだろ!?
「舐めてなんかいない。これはただの事実だ。お前は俺からボールを奪うことはできない」
「う!! ぅぅ……」
言葉を詰まらせてしまう。何も言い返すことが出来ない。佐藤の言葉には説得力があった。なぜならこいつとの実力差を思い知られてしまったからだ。
本当にボールを触れることすらできないんじゃないかと心の底から思ってしまった。
「ああ……ああああああああ!!」
でもやるしかない。だって今の俺には選択肢なんてないんだから。
俺は佐藤からどうにかボールを奪おうとした。
本気の本気だ。だけど、俺はボールを触ることすらできない。
「うわーなんか金田くんかわいそー」
「金田頭わるすぎ、さっきので実力差分かれよ」
「なんか、金田ってあんま大したこと無いんだな」
「金田きゅ〜ん笑がんばえ〜笑」
みんなが俺を馬鹿にしている。
時間が経てば経つほど、何かが擦り切れている気がした。
何度も、何度も何度も転けて思い知らされる。
視覚、身体能力、技術、反応速度、センス。全てにおいて佐藤は自分より遥かに優れていた。
「……あ」
ふと、佐藤の表情を見る。
こっちは汗をかきながら必死でやってるのにあいつはまるで子供と玉遊びをしているかのようだった。
心底つまらなさそうな無機質な顔。
『こんなつまらない作業、いつまでもやらせるなよ』
そう言っている。
「あぁ……」
なんだ、この……全てが崩れさるような……喪失感。
そして胸がキュッとなるような絶望感は……
俺にはバスケの才能がある。そう周りから言われ続けてきた。みんなに才能を認められて俺は努力すればするほど力をつけた。
俺にとってバスケは唯一の自慢できる才能。居場所。俺の価値を最大限に引き上げるもの。
でも、俺程度の才能は……こいつの前ではただのゴミでしかない。
所詮、井の中の蛙だったんだ。
ああ、もう嫌だ……バスケが……嫌いだ。
「もう……やめてくれ」
思わず溢れ落ちた俺の言葉を聞いて、佐藤はドルブルをやめた。
力が入らない。膝が崩れ落ちる。完全に足にきてる。息も上がって、立てないくらい俺は本気を出したのに……
佐藤は汗一つかいてないし、息も乱れていない。
ああ、そうか……俺は……
「ぅぅぅぅ……!!」
だめだ、くる、我慢できない。う、うぅ……
ぽたぽたと涙が溢れ落ちる。
「わ! 泣いちゃった!!」
「マジかよ、ははっ!」
「金田ダサすぎるだろ!!」
「素人相手に泣かされるって笑えるわ」
「佐藤にバスケ教えてもらえ?」
「偉そうにするなよ? 二度と」
ああ、俺は……特別でもなんでもなかった。
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