第14話 陰キャVS陽キャ(前編)



「お、マジでやってる」


「なんだなんだ」


「勝負だってよ」


「バスケット部のエース金田と佐藤っていうやつとの勝負だって」


「誰それ、金田くんの相手になるの?」


「さぁ?」


「なんかバスケはやってたらしいけど、1ヶ月でやめたんだって」


「マジ? くそ雑魚じゃん」


「佐藤きゅ〜ん笑。がんばえ〜笑」



 昼休み、体育館は大盛り上がりしていた。

 ここにきている生徒全員が俺と金田のバスケ勝負に見に来たギャラリーだ。


 まぁ、昨日の放課後とか金田が学校中に言いまくっていたらしいからそのせいなんだろうけど。


 きっと、金田は大人数の前で俺に圧勝するつもりだ。そしてあっけなく負けた俺を大勢の前で笑い者にし、俺の心を折るつもりだ。


 きっとみんなは俺が無様に負ける姿を楽しみにしてきたんだろうな。



「がんばれ金田くーん!!」


「こんな陰キャ叩き潰しちゃえー!」



 鳴り止まない金田コール。その中にはくすくすとバカにするような笑い声が聞こえる。


 目の前の金田はニヤニヤと笑っている。


 このアウェー感。無数に突き刺さる視線。


 ギャラリーの中には心配そうに俺を見る黒宮と白咲さんの姿があった。

 そういえば昨日めちゃくちゃ怒られたっけ。


 ロインもいっぱいしてくれてたし、本当に気を遣わせてしまっている。

 

 ……ここはさっさと二人を安心させないとな。


 いつも2人と一緒にいる黄瀬さんは居ないようだ……多分、こういう勝負ことにはあまり興味がないんだろう。



 余裕そうな金田の顔を見る。その表情は勝利を確信しているかのようだ。



「ほらほら〜抜いてみな〜? 佐藤くん〜」


「じゃ、遠慮なく」



 俺は隙だらけな金田のディフェンスを瞬く間にドリブルで抜いた。

 


「−−あ、はぁ?」



 金田は俺のドリブルに反応すら出来ず、ただ呆然とした表情をして立ち尽くしワンテンポ遅れて振り返った。



「なん……!! 抜いっ!?」



 なんか金田が追って来ている気がするけど振り返ることなく勢いよく跳んでボールをリングの中に叩きつけた。 


 ドンッと炸裂する音の爆発。リングにボールを叩きつける音。

 その瞬間、あんなに騒いでいたギャラリーが一瞬のうちに鎮まり返った。


 リングから手を離し、地面に着地して周りを見るとみんな傲然としていた。



「金田君、とりあえずこれで1点だ」


「え、あ、え?」



 まるで幽霊を見ているのような顔をしている金田に言った。


 


「え、え、やば!!」


「今のダンクだよね!? 佐藤めっちゃくちゃ跳んでなかった!?」


「つーか金田が全然反応できてなかったくない!?」


「おおおおお!? すげえええええええ!!」


「マジで!? なんだよ今の動き!?」



 再び湧き上がるギャラリー。しかし、先ほどと違うのは



「これ! 佐藤勝つんじゃね!?」


「それな!? 金田を抜いたドライブも一瞬だったし!」


「うおおお!! 佐藤ー!!」


「やっば! 今のかっこよかったかも!!」


「佐藤すげー!!」



 観客の声が一気に俺についたということ。


 当然の反応だ。


 この場に居た奴らは全員俺のことをナメていただろう。しかし、それは油断していたということ。


 大したことないとナメていた奴がいきなり凄いを事したら誰だって心躍るに決まっている。これはギャップってやつなのだろう。


 そして、この声援は金田に重圧となってのしかかる。



「い、今のは完全に油断していただけだ!」



 瞳孔が激しく揺らいでいる。金田……相当動揺してるな。


 今度は金田が仕掛けてくる番。



「お前なんて速攻で抜いてやるよ!!」



 金田はそう叫びながらドリブルをしながら俺のディフェンスエリアに切り込んで来た。


 だけど……こんなものか。


 俺は距離を詰めてきた金田のボールを容易く奪った。



「あぁ……!?」 



 また金田は情けない声を出す。



「マジか!? 金田からボール奪ったぞ!?」


「金田くんボコボコじゃん!!」


「え!? 金田負けるんじゃない!?」


「え(笑)金田ってエースじゃないの?」


「金田ってもしかして大したこと無い?」



 この1on1は3点先取した方が勝ち。今のところは1対0。


 さぁ、金田。次はどう出る?



「あああああ!!」



 今度は本気を出して全力で俺からボールを取りに来た。予想外のことに焦っているのか金田の表情に余裕が消えている。



「調子に乗ってんじゃねーぞ!!」



 問題ない。俺の目は金田の動きを見抜いている。

 この程度の動きだったら少しフェイントと動きの緩急をつければ容易く抜くことが出来る。

 

 

「……あぁ!?」



 金田は俺の動きに対応できず、まるで金縛りにでもあったかのように動きが固まっていた。


 本気を出しても手も足も出なかった。今度は俺との実力差を痛感しただろう。



 一瞬、金田と目が合う。


 その顔は引き攣っていた。


 金田を抜き去ってボールをリングにシュートする。放たれたボールは美しい弧を描きリングに入った。



「おお!! 佐藤がまた抜いた!」


「あと1点じゃん!? これマジで佐藤勝つんじゃね?」


「佐藤カッコいいーぞ!!」


「うわー!! マジですげえ! すげえって!!」


「陰キャ覚醒してるじゃん!!」



 金田、なんで俺がわざわざお前の得意なバスケで勝負したと思う? 

 

 人はさ、これだけは誰にも負けないってくらい得意なもので叩きのめされると心が完全に折れて、再起不能になるんだよ。 


 俺は中学の頃そういう人達をたくさん生み出してきた。


 以前、誰かが言った。


 俺の強みは驚異的な『視覚』と『聴覚』と極めて高い『吸収力』だと。

 一度学んだ技術はすぐに自分の能力に昇華させ、即座に類稀な応用力を発揮する。


 そんな俺のことを天才肌とか化け物とか言っていた奴もたくさんいた。そして俺を妬む奴も……



 才能とは使い方によって人を傷つけ、孤独にすることを俺は知ってる。

 


 だから、俺はここで圧倒的な実力でお前を捻じ伏せることにした。


 もう二度と調子に乗らないくらい徹底的に。


 

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