第6話
開かれた扉の先には国王陛下に王妃様。その横には昨晩出会った殿下に……
「……あの子は……」
殿下の隣で微笑んでいる可愛らしい女の子を見て驚いた。
先日襲われていた女の子がそこにいたのだ。
その顔は王妃様にそっくりで……
『ほえ~、あの子お姫さんやったか。こりゃ驚いたなぁ』
私が口にする前にクロが口を開いた。
どうやらクロも気づかなったようで驚いている。
女の子……いや、王女様は私の顔を見るなり満面の笑みで駆け寄って来た。
「あの時はありがとうございました!!貴方が来てくれなかったら私はここにいなかったわ!!」
王女の口ぶりで私が何故城に呼ばれたのか分かった。
攫おうとしていた男達を片付け、王女を助けたのが私だと思ってここに呼んだのだろう。
実際助けたのは私じゃなくてクロだし、殺人を犯したと思われているのも困る。
それに、どうやって私を特定した?
「シャーリー落ち着きなさい。──リゼ嬢突然呼び出してすまなった」
「お初にお目にかかります国王陛下。リゼと申します」
頭を下げ挨拶をするがすぐに「頭を上げてくれ」と言われた。
「この度、我が娘シャーリーを助けてくれたを感謝する」
陛下達は完全に私が助けたものだと勘違いしている。
だが、クロがやったと言っても信用してもらえるはずがない。
──……仕方ない。
「……とんでもございません」
「いやいや、リズ嬢がいなければシャーリーはこの世にいなかったかもしれん。本当にそなたには感謝しているのだ」
別に感謝してくれなくて結構なので、一刻でも早くこの場から去りたいという言葉をぐっと飲みこんだ。
「そこで、この度の功績を称え褒美を与えることにする」
「何がよい?」と陛下が尋ねてきたが、褒美なんて貰えるわけない。
こうなることは何となく察していたが、褒美をもらってしまったら私がやったと認めたことになる。
それだけは死んでも避けたい。
「……失礼ながら申しますが、その件は辞退させていただきます。人を助けるのに褒美を要求する人はいないと思います」
「ほお……」
私の言葉にこの場にいる全員が驚いた。
『あほ!!貰えるもんは貰っとき!!』
当然クロも耳元でうるさいが、聞こえぬフリでやり過ごした。
「褒美がいらんとなると……──そうだ、ウィルフレッドとの婚約はどうだ?」
「は?」
思わずそんな声が出た。
当事者である殿下も心底驚いたようで、目が飛び出そうなほど見開いている。
褒美が嫌なら、王子を差し出してきたとは……
『──……なぁ、リズ……あのふざけた事ぬかしとるおっさん殺ってもええか……?』
その時のクロは
『駄目よ、それだけは絶対駄目。お願いだから私に任せて』
スゥーと息を深く吸い、陛下に向き合った。
「失礼ながら陛下。私はなんの身分も経歴も持っていない平民の小娘でございます。そのような者が殿下の婚約者など、認めらるはずありません。それに私には荷が重すぎます」
殿下と婚約者になったらお妃教育だと城に閉じ込められるのは分かっている。
せっかく自由になった生活を手放すつもりはないし、令嬢達の嫌味に耐えるつもりもない。
「そうか?いい案だと思ったんだがな……」
「申し訳ありません。私は褒美もいりませんし、殿下の婚約者になるつもりもありません」
きっぱり言い切ると陛下は残念そうにしていたが、これ以上言っても無駄だと判断した様で渋々承諾してくれた。
私はホッと胸を撫でおろし、さっさとこの場から逃げようとしていたら「ちょっとお待ちください」と今度は王妃様に呼び止められた。
「貴方は人を助けるのに褒美を求める者はいないと言いましたが、私はそのような者を初めてみましたよ?」
「……そうですか」
「ふふっ、シルビア大佐が言っていた通り肝が据わっていますね」
優しく微笑む王妃様の視線の先には手を後ろに回して立っている大佐の姿があった。
「そんな貴方にお願いがあるのですが……聞いてくれますか?」
「……聞くだけでよろしいならお聞きします」
聞くだけならと承諾すると「ありがとう」と微笑み返してくれた。
「実は、貴方のような方にこの子のお世話を頼みたいの」
そう言って王女様を差し出してきた。
要するに、私に王女様の付き人をやれと言っているようだった。
「申し訳ありませんが、それはできません」
「あら?どうして?今働いている所よりお給金もよくなるし、王女の付き人になれば縁談にも有利よ?」
即座に断るが、王妃様はあきらめない。
なんでもかんでも金で解決させようとする辺り、この人も陛下と変わりないな。
『もう我慢ならん……!!こいつら全員殺ったる……!!』
『もうちょっと我慢して。お願い……』
本気で爆発寸前の必死にクロ宥めると『……くそっ!!』と悪態をついたが、なんとか怒りを収めてくれている。
これは早めに片をつけないと、間違いなくこの国が終わる。そう感じた。
「王妃様。私は今の生活に満足しているので、お金も縁談も興味はありません。敢えて言わせて頂くのなら……今の生活を脅かすような事態があれば相手が誰だろうと許さない。──という事ですね」
鋭い目付きで言う私を王妃様は黙って見ていた。
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