第7話

若干言いすぎたか?とも思ったが、この人らははっきり言わないと分からないだろうと思い、不敬罪上等で言わせてもらった。


「──ぶっ!!」


この沈黙を破ったのはウィルフレッド殿下だった。


「あはははははっ!!母上の負けですよ!!諦めましょう?」

「もぉ~、せっかくいい子を見つけたと思ったのに……リズちゃん、ごめんなさいね?」

「へっ……?あっ、いえ、こちらこそ?」


王妃様の雰囲気が明らかに変わった。

なんて言うか、物腰が柔らかくなった?


私の返事に王女様は残念そうにしているが、兄である殿下が頭を撫でながら宥めていた。


「でも、せっかくの縁なんですもの。たまにはこの子の話し相手位にはなって貰えないかしら?勿論、報酬はなし。お友達として招待させて頂けないかしら?」


二児の母とは思えない可愛らしい笑顔で言われたら断れない。

それに、友達というフレーズが何となく嬉しかった。

生まれて初めての友達が王女だと言うことを除けば、また一歩普通の人としての生活になれた気がした。


「嬉しい!!私お姉様が欲しかったの!!お姉様って呼んでもいいかしら……?」


お友達の件を承諾するやいなや、喜んだ王女が抱きついてきた。

その姿は友達と言うより妹のような感じだった。


「ええ、まあ、いいです……けど」

「本当!?嬉しい!!私の事はシャリンと呼んでね!!お姉様!!」


顔を輝かせて喜んでくれる王女様を見ると、私の心も暖かくなった気がした。


そんな事より早く帰りたい私は陛下達に頭を下げ、この場を後にしようと踵を返すと当然のように大佐が私の行く先を塞いでいた。


「部屋まで送ろう」

「……いえ、結構です」

「私に恥をかかせるつもりなのかな?」


そう言いながら手を差し出された。

ここまでされたら平民の私が断れる訳がないので渋々手を取った。


後ろから「あらあらぁ……?」という声と共に笑い声が聞こえたが気づかないふりをして大佐と共に部屋へと急いだ。


「あの、部屋ではなく薬屋うちに帰りたいんですが?」

「ああ、馬を準備するんでな。その間部屋で待っていてくれ」


廊下を歩きながら帰りたい有無を伝えると、案外簡単に帰してくれることに安堵したが「馬」という単語を聞いて嫌な予感がした。


「……もしかして私は大佐の馬ですか……?」

「なんだ?あれだけ乗りたがっていたじゃないか。帰りも当然俺の馬に乗るだろ?──それとも、馬車を用意するか?」

「……どうせ王家の馬車でしょ?それとも普通の馬車を用意してくれる?」

「まさか。王女様の命の恩人にそんな窮屈な馬車用意できるわけないだろ?」


私には選択の余地はないようだった。


その後はしっかり大佐の馬に乗せられハンスさんの待つ薬屋へと戻って来た。

私は行き帰りと大佐の馬に乗せら事により、全身筋肉痛になり二日間店に出れなくハンスさんにいらぬ心配をかけさせていまった。



  ❖❖❖❖



ようやく店に出られるようになり、私が店に顔を出した瞬間町の人達がこぞってやって来た。


「リズちゃん、王女様を命がけで助けたんだって!?」

「相手は剣を持っていたんだろ!?それを一人で立ち向かっていくなんて……立派だよ」

「自分が助けたと申し出ないで、褒美も断ったらしいじゃないか!?」


そんな言葉が飛び交うが、私は驚いて言葉を発せずにいた。


何故町の人達がそのことを知っているのか?と思ったが、すぐに優しく微笑んでいる王妃様の顔が浮かんだ。

社交界を牛耳る王妃様なら噂を広めることも容易い。


口止めしておかなかった私も悪いが、顔を出さなかった二日の間に町中に広まっているとは思いもしなかった。


「ほらほら、リズはまだ疲れてんだ。おしゃべりなら外でやっとくれ。営業妨害だ」


収拾がつかなくなった町の人達をハンスさんが追い出してくれた。


「すみませんハンスさん。まさかこんな事になるなんて……」


ハンスさんの言う通り、営業妨害でしかない。

その原因を作ったのは紛れもない私だ。

しかしハンスさんはそんな私を叱りもせず、項垂れている頭を優しく撫でてくれた。


「お前は儂の娘のようなもんだ。その娘が素晴らしい事をしたんだ。喜ばん親はいないよ」


ハンスさんの言葉に胸が熱くなり、涙が込み上げてきた。

こんな風に思ってくれた人は今までいただろうか?こんな風に私を見てくれた人がいただろうか?


そのまま私はひとしきり泣いた……

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