とある宮廷魔術師の一日

万吉8

第1話

 僕の名はクラウス。冒険者学園ヘクトールを卒業し、付与魔術の能力を認められたことで、アステリア王国の宮廷魔術師見習いになった。


 アステリア王国の宮廷魔術師団は"星の魔女"アル・グローラ様に率いられるエリート集団のはずなのだが……。


「何で朝から晩までお面を彫らないといけないんですかーー!」


 ◇◆◇


「そりゃ、あんた。ここは『オカメ開発部』だからよ」


 何を言うんだというばかりに同僚のヘレンが答える。


「いや、だから、僕は付与魔術師であって、お面職人じゃないんです!何で朝から晩まで……」


「いや、あんたね……。あ!」


「え……?」


 入り口を見ると……。


「クラウス。貴方は今の仕事に不満なようですね。オカメ面の価値を理解できないとは……」


 宮廷魔術師長アル・グローラ様が立っていたのだ……。ダメだ……。トップへの批判を聞かれてしまった……。出世は無理かも……。


 そこへ、


「アル・グローラ様!国境付近にドラゴンゾンビが!!」


 と知らせが入った。


「そうですか……。貴方たち『オカメ開発部』が如何に宮廷魔術師団に貢献しているかを見せる必要がありますね。では、ヘレン。貴女が作ったオカメ面と般若面を」


「はい!」


 ヘレンは昨日完成された二つの面をアル・グローラ様に渡す。お面を受け取ったアル・グローラ様は頭の右側に般若面を、左側にオカメ面をつける。


「では……、『時空魔法』転移5!」


 そうして俺たち『オカメ開発部』全員とアル・グローラ様は国境に転移したのだった……。


 ◇◆◇

「え……? ここは?」


「国境ね。アル・グローラ様の『時空魔法』よ」


 ヘレンの答えに言葉を失う。これが『時空魔法』? 王都から国境まで一瞬で……。



 グガガアアアアァァァ!


 ドラゴンゾンビの咆哮が!あまりの迫力に震えが止まらない。


「まずは結界ですね」


 アル・グローラ様はローブからオカメ面を取り出し、ドラゴンゾンビの周りに展開させ、結界を完成させる。


 そして、頭につけた般若面とオカメ面がアル・グローラ様の両手に移動する。右手に般若面、左手にオカメ面を持ち、向かい合わせにする。その間に膨大な魔力が発生する!


「オカメ般若エクスプロージョン!!」


 ドラゴンゾンビは一瞬で消滅してしまったのだった……。


 ◇◆◇


「クラウス! 今日もやる気に満ち溢れているね!」


 ヘレンは嬉しそうに声をかける。当たり前だ。オカメの素晴らしき可能性を知ったのだ。やる気が出ない訳がない。いつか、アル・グローラ様に僕が彫ったお面を使ってもらいたい……。


 そんな思いで今日もオカメ彫りに取り組むのだった……。

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