素体的星樹人〈prototype‐naturalian〉

亜未田久志

星菜《セナ》


 私はなんのために生まれたの。

 そう問うた声は掠れて消えた。


 緑色の髪、ミミズクのような跳ねっ毛、巨大な葉っぱをマント代わりに羽織っており、スカートが花びらのように広がったワンピースを着ている。

 どこか、不思議な少女。

 prototype‐naturalian.

 樹木性人類種、個体名「星菜」

 植物性量子コンピュータが作り出した「人類種の生き残り」とのコンタクト用インターフェース。

 

――世界樹思想というのは古くから親しまれてきた文化です。


 構想はあった。実行する機会が無かっただけ。そう言った意味では「あの研究者」にとってガンマ線バーストはいい機会だったのかもしれない。

 核シェルターに引き籠って、植物と量子もつれについて思考を巡らせていた彼が作り出した植物性量子コンピュータ。

 星系樹――star‐system‐tree.

 星菜の生みの親。


 植物と人間の対話。

 それを円滑に進めるためのnaturalianだった。

 だけど星菜はひどく内向的だった。

 みずからコミュニケーションを取ろうとはしない。

 人類種の社会においてそれは珍しいことではなかったが、ことコンタクト用インターフェースとしては失格だった。

 ある日、一人の幼い少女が星菜と接触する。

「おねーちゃん? あなたのなまえはなぁに?」

「……」

 ひどく脆い、純粋無垢な塊。

 それを前にひどく危うげな気持ちに陥る星菜。

 触れたら壊れてしまう。

 そんな想いに駆られて、思わず逃げ出したくなる。

 足を一歩も踏み出せない星菜を見て少女は歩み寄って来る。

「やめ……来ないで……」

「? どうして?」

「そ、それは」

 どうしてだろう。

 どうして私はこんな欠陥品なのだろう。

 生み出された理由すら果たせない。

 すると地響きが鳴り渡る。

 地面に何か落ちた音だ。

 それは星系樹の枝を食い破り現れた地球外生命体「噛蟲イーター

 正体不明、行動原理不明、捕食対象無差別、それが落ちて来た音。

 星菜は必死に少女を庇い、とある武装を起動する。

「D‐BlockWeapon……!」

 まだ、自我のバックアップが完全でない頃の話。

 この少女との出会いは失われる。

 せめて少女の見えないところで死のうと思い。

 戦斧を手に取った。

「おねーちゃん!」

「……セナ」

「え……?」

「私の名前、セナ」

 そう言って噛蟲の下へと駆けた。

 巨大なカマキリの様な姿。

 光合成で得たエネルギーを推進力へと変える。

 自分が灼けるのが伝わる。

 とてもつらい。

 でも、やるしかない。

「あの子を、守るんだ!」

 どうして? あなたのやることじゃないでしょう?

「それでも! 初めて話しかけてくれたから!」

 戦斧が噛蟲を縦に真っ二つにする。

 灼け焦げた身体が崩れ出す。

「次の私は、上手くやれますように」

 ――個体名、星菜からのorderを受諾、次、生産、個体名を星菜とする事を具申、それを了承。

 ――拝啓、次の私、きっとみんなと仲良くしてね。

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素体的星樹人〈prototype‐naturalian〉 亜未田久志 @abky-6102

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