第13話 閑話休題


 あまり好きではなかった。この町の奥にひっそりと建てられた家。プライドの高い祖父が見栄の為と、同じ地域の人と共に上手く共存を果たせなかったことから生まれた家が。祖父は長男だ。本来ならあの馬鹿でかい屋敷の次期当主になる予定だった。

 この家系はとかくバタバタ人が死ぬ。

 この家系はとかくぽくぽく精神がへたる。

 この家系はとかくケンケン狐に憑かれる。


 私は祖母が好きでは無い。

 昔はフランス人形と言われるほどに美しかったらしいが、その面影も見当たらぬ般若のようなその顔で、祖母は口汚く方言を扱う。古い方言で私にはちいとも分からない。鋭いあなたの目が嫌いだ。年の割に健康なところも。

 早くあなたもその兄妹と同じ場所へ逝ってしまえばいいものを。

 祖母は強い。若い頃に脚をやったが、それだけだ。太っているのに特に病気も持たない。私も両親も祖父も叔母もみな、病気を抱えているというのに。あなただけが幸福だ。


 それなのにあなたはその口で不幸だと泣き叫ぶ。ヒステリィに「死のうだい!今すぐ死んでやる!おいが死んだら良かとやろうもん!」と、事ある毎に喚く様は閻魔のようだ。

 呪いはこういうものから生ずると、幼いながらに私は知っていた。

 あなたの兄妹は煙草の不始末でそのまま家ごと焼死した。帰る家も無くしたあなたは、それでも祖父にでかい口を叩く。

 この小さい町で、田舎で、車ひとつ乗りこなせず、免許もなく、学もなく、それでもあなたは逞しい。


 こういう人間はしぶといのだ。ほかの兄妹の運を全て吸って生き長らえる。しかも蛇年ときた。蛇はしつこい。陰湿だ。生き物の話では無い。人が蛇を背負った時の話である。


 あなたはこの話を書いている私を、きっと長く呪うだろう。


 あのK先生が仰った、「貴女はその家系を生きる人間で、長男のKくんより、女である貴女が家を継ぐべきだ。例え結婚しなくとも」という言葉は、この家が私を縛る呪いである。


 これまでものぼろうと思えば上京できた、それが無理でも、F県くらいまでになら行けたろう。

 それが出来なかったのは何故か。

 血の呪いと家の縛りがあるからだ。

 この家柄は、祖父が本来当主になるべき家柄で立派なものだ。

 そこに交わりができて、最初に二人、男の子が祖母から流れた。

 新しい家を造った二人は、そこに水子の仏壇を置いて、供養もK先生に出逢うまではろくろくして来なかった。


 私の代で絶やされるこの家系は、呪われている。

 祖父は、時折、夜中にキャッキャとはしゃぐ二人の男の子を仏間に見かけるらしい。

 祖母はぐうぐういびきをかいて寝るばかりで、そんなことは分からないという。


 これを読む方々は遠巻きにそれを見るだけの傍観者だ。何もしないし何も語らない。もしくは観測者なのかもしれない。

 だから私は、不平等に他者にこの血の呪いと家の縛りを押し付けることにしようと思う。ようは伝染させればいいのだから、そんな方法は、なんだってあるのだ。

 もう私は、一人では耐えられない。窓の外から聞こえるぎゃあぎゃあした狐の声も、何もかも。夜になるとこれらは集まってさまざまに泣きわめくのだ。ヒステリィに。


 さて。


 あなたがたは果たして自分の血脈を愛せるか。


 恨んだ家族はいないか。


 逃げた家族はいないか。


 おかしくなった家族はいないか。


 ああ、もしかすれば、もいるかもしれない。


 大事なのは、呪いはいつも人が作るということだ。

 果たしてあなたが確証はあるか。


 ここまでの話は全て短編のような成り立ちをしている。

 

 しかし、断片でいるようで、ひとつの大きな抽象だ。

 全ての事象は繋がっている。


 閑話休題。

 この話が本編に必要な断片なのかは、あなたがたが決めて良い。


 ただひとつ、先程も言ったように、呪いは果てなく伝播する。


 次、わたし


 唱えてください。


どうか、あなたがたへ


 

 

 

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