第123話 E級探索者と専属契約

 それはある晴れた日の事だった。


 何故か協会から新しいライセンスが送られてきた。しかもE級の。


 E級への昇級試験など受けていないというのに。


「で、これはどういうことだ?」

「本部長が気を利かせてくれたんだよ。それとあんだけ元E級の犯罪者を引き渡された奴をF級のままにしておくのは不味いってこととか、色々なことを考慮しての判断だな」


 電話越しで隆さんがそう説明してくる。


 その言葉の裏に表に出せなかった氾濫の功績も入っていることを察した。

 どうやら俺が早く昇級したがっているから配慮してくれたらしい。


 人生におけるコネの大事さが身に染みる事案である。


「まあ昇級は助かるから有難く受け取っておくよ」


 昇級は悪いことではないし、これでレベリングも今以上に捗るというものだ。


 ならば拒否する理由はない。


「それとD級に昇格したいのなら丁度いい話があるぞ」


 そうして話されたのは最近北海道に出現したE級の変異ダンジョンについてだった。


 なんでも十勝平野の一部がダンジョン化してしまったらしく、その辺りで酪農や畑作を行なっていた一部に被害が出てしまっているらしい。


「変異ダンジョンとはいえまだ出現して間もないから氾濫の心配はないが、如何せん場所が悪くてな。可能なら早急に消滅させたい」


 そう思ってE級探索者を送り込んだのだが、ダンジョンと化した平野の空間は外が夏が近くなっているのなど関係ないと言わんばかりに季節外れの雪が吹き荒れていて、まともに前が見られない状態だったらしい。


 また寒さも思っていた以上に厳しく、防寒対策を施していた探索者が撤退しなければならなくなるほどだったとのこと。


「出現する魔物自体はバーサーカーブルという牛型のE級の魔物でそこまで強くなかったんだが、環境が悪くて普通の探索者だとボスの下まで辿り着くのに時間が掛かりそうなんだ」

「それを早急にどうにかしろと?」

「お前なら可能だろう?」


 それは可能だ。雪程度で俺の錬金真眼の視界を遮ることは出来ないだろう。

 仮に可能だったとしてもそういうダンジョンには前に潜った経験があるからどうとでもなる。


(もしかしてそのダンジョンをどうにかさせたくて俺をE級に昇級させたんじゃないか?)


 そう思ったが、これをどうにかすればD級へ至る上での功績にカウントしてくれるというので黙って依頼を受諾することにした。


 とはいえ北海道まで行くとなると今すぐという訳にはいかない。


 引継ぎしなければならないこともあるし、何より俺が居ない間の警戒態勢なども念入りに準備しておかなければならないからだ。


 そのため北海道には五日後に向かうという約束を交わして俺は通話を切る。


「愛華、そういう訳だから留守中はお前が中心になって回復薬関連のことを仕切るように頼むぞ」

「分かりました」


 俺が与えたジョブオーブによって今の愛華のジョブは錬金術師となっている。


 それによって錬金や錬金素材作成のスキルも手に入れている愛華は、恐らく世界で二人目の錬金釜などの道具を使わずに錬金が可能な探索者となっているのだ。


 これは俺が強制したのではない。むしろ本人が乗り気だったのだ。


「私は先輩の弟子ですからね」


 そう言って楽しそうに率先して回復薬作成に携わっているのでよしとしよう。


 なお錬金術師になった際に愛華が手に入れたスキルは錬金と錬金素材作成、霊薬作成とアイテムボックスのみだった。


 錬金術師の秘奥マスターアルケミーやアルケミーボックスは錬金剣士でのみ手に入るスキルである。まあこれら強力な能力を考えればそれも妥当だろう。


(英悟と朱里にも連絡してっと)


 俺が居ない間のことを頼んでおく。

 すると椎平も協力してくれるとのことなのでお願いしておいた。


 最近になって椎平は社コーポレーションと専属契約を交わしていた。


 専属契約はざっくり言ってしまえば会社が探索者のスポンサーとなるということだ。


 プロのスポーツ選手などと似たようなものと言えば分かり易いだろう。


 通常の場合は企業が金銭などで探索者の支援を行い、その代わりに探索者は契約を交わした際に取り込めたダンジョンの素材やアイテムを企業に納品するというケースが多い。


 ただしウチの場合は作成した回復薬や新たなに開発した商品なども提供することにしているらしいが。


 それもあって日本では一番熱い専属契約先として言われているらしい。


 そんな企業と専属契約したこともあって椎平は今、日本で最も注目を集めている探索者となっていた。


 取材依頼なども殺到していて鬱陶しいと本人が愚痴っていたくらいだし。


(明日には勘九郎も戻ってくるはずだしこっちの態勢は万全にしていこう)


 俺以外のノーネームメンバーが揃っているならそうそう不覚を取ることも無いはず。アーサーのようなA級という規格外が来ない限りは。


 それがフラグにならないことを祈りながら俺は出張の準備を進めていった。

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