第108話 氾濫と後始末
放たれた炎の球は着弾すると同時に周囲を呑み込んで炎の海を形成した。
それに呑み込まれた俺は地獄の業火に焼かれたようなものだ。HPも炎に包まれている間にどんどん減っているのが感覚で分かる。
幸運だったのはその炎によるダメージが継続的ダメージだったことだろう。
でなければ回復薬での回復が間に合わなかったに違いない。
ただし回復とダメージを繰り返すのは地獄のような苦しみで、二度と味わいたくはなかったが。
どうにかこうにか炎の海から抜け出した時には気配からして既にアーサーの方はいなくなっているようだ。
使徒がどうとか言っていたのは聞こえていたが、あれは一体どういう意味だろうか。
(ちっ! 攻撃で目をやられたな)
そもそも全身焼かれていないところはない重傷だが、それ以上に顔面に受けた一撃によって目に深刻なダメージを負ってしまったらしい。
ほとんど何も見えない状態だ。
錬金真眼に自動修復能力があって本当に良かった。
なければすぐに修復することは出来ずに視界も戻らない状態で敵と対峙しなければならなかっただろう。
そうして元に戻っていく右目で相手の方を見ると転移石を使おうとしているところだった。
何故か明らかに恐怖で顔を引き攣らせた状態で。
「逃げられたか」
もっとも止める気はなかったが。
今の俺ではソフィアはともかくアーサーには敵わないのは理解している。
勿論ブースト薬などで無理をすれば可能性はなくはないだろうが、そうする気にはなれなかった。
(時間さえあれば勝てる手応えは得られたからな。無理する必要はない)
そこで左目の視界がいつまで経っても元に戻らないことに気付く。
どうやら損傷が酷すぎて
「てか、片方の手首から先もないし」
手の方は千切れたものがあればくっつけられるかもしれないが、あの炎の海で焼かれては炭となってしまっているだろう。
「はあ、仕方ないか」
今後の事を考えればこのまま片手と片目を失った状態でいる訳にもいかない。俺は三本目となる
体力も一気に回復して傷も塞がる。
痛みもなくなったのでこれで身体の方は万全だ。
もっとも装備していた服も剣も全部燃え尽きてしまったのは問題だったが。
アルケミーボックスから取り出した着替えを身に着けて俺の方は元通りになったがダンジョンはそうはいかなそうだった。
「アマデウス、氾濫が起きそうなのは変わりないのか?」
「肯定する。既に干渉は済んでしまっているのでダンジョン外に魔物が出るのは避けられない」
溢れ出るのが止められないのなら溢れ出ても問題ないようにするしかない。
「規模とか出現場所を弄ることはできないか?」
「干渉器があれば可能となる」
そのアイテムのレシピはさっき見た時に手に入れていたはず。
どうにか作れる物であってくれと思ってその詳細を確かめてみると、
「作れるけど……なんか若干他と違う感じがするな」
これまでのレシピは必要とする種類は多くても素材の数そのものはそれほどではなかった。
多くても十個を超えることはなかったのに対して、今回のレシピはその逆である。
(錬成水と錬成土と錬成鉱なのは集めやすくていいけど、その数が百個ずつって)
まるで足りない質を数で無理矢理補っているかのようである。
「肯定する」
「ん? どういうことだ?」
「このレシピは未熟な使い手によって無理矢理作成されたものである。これほど稚拙で醜悪なレシピを作り出した存在を私は嫌悪する」
平坦で感情など込められていない言葉遣いなのにその怒りというか憤りが感じられた。
どうやらアマデウス的にはこのレシピは我慢ならないものらしい。
だが今はこれに頼るしかない。
早速作り出してそれを見様見真似で使ってみる。
ダンジョンコアにそれを接触させるとレシピが頭に流れ込んでくる時のようにその使い方が理解できた。
(……アマデウスの言う通り氾濫が起きるのは止められそうにないか)
本来は数が増え過ぎて溢れ出る形だが、今回はダンジョン内の魔物がその時が来たら作り出された上で外に排出される形となるようだ。
これではダンジョン内の魔物を狩り尽くしても意味はない。
(なら出現する場所と規模をいじってっと)
氾濫が起こるのを止められないのなら発想を変えるしかない。
そう、魔物が外に溢れて出たとしも被害を出さなければいいのだ。
誰にも知られずに被害も出さずに終わらせればこの氾濫が起こったという事実はなかったことにできる。
というかそうするのだ。
(絶対にあいつらの思い通りになんてしてやらねえからな)
ただでさえ戦闘では惨敗だったのだ。
ならば敵の思惑くらいは挫いてやらなければ気が済まない。
(時間は一時間後が限界か。それでもすぐに起こるよりはマシだけど)
設定をしたらそれで終わりではない。
すぐに根回しをしなければ。
(まずはこのダンジョン内にいる探索者を全員避難させないと)
場合によっては口封じのために薫などに暗示をかけてもらって記憶を操作する必要があるかもしれない。
そう考えれば一時間などあっという間だ。
戦闘面では惨敗だったが全てで完敗することは決して容認できないので俺はすぐに行動を開始した。
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