第6話 元パーティメンバーとの飲み会

 あと一人足りないがそいつは大分遅くなるとのことなのでこの四人で飲み会を始めることにした。料理の他に酒も頼んでまずは乾杯する。


「それでさっきまでの話はどういうことなんだ?」


 哲太がグビグビと頼んだ酒を飲みながら聞いてくる。相変わらず良い飲みっぷりだ。


「どういうことって言われてもな。近い内に俺が試練の魔物に再戦を挑むって話だよ」

「はあ!? お前、自分がどういう状態か分かってんのか!?」

「そうよ、片目が見えなくてもう前のように戦うのは無理って言ってたじゃない!」


 哲太の奥さんの志島しじま……ではなく雲薙くもなぎ優里亜ゆりあも反対してくる。


 まあこの反応は予想していた。八対一で惨敗をした相手に弱体化した奴が一人で挑むなんて普通なら自殺行為以外の何物でもない。


 勿論自殺する気は更々なく勝つつもりでしかない。


 勝算だってちゃんと考えてあると判断している。


「そもそも試練の魔物は色んなダンジョンを転々としているはずでしょう? どうやって見つけるつもりなのよ」

「俺だってバカじゃないし試練の魔物についてちゃんと調べてるさ。なんでも試練の魔物から奪われた部位はあいつに近づくと妙な疼き方をするんだと。それと出現する場所も試練を与えた後はその場所の近くのダンジョンなことが多いらしい」


 数例だが試練の魔物はこれまでにも現れて討伐されている。


 もっとも倒したのは試練とやらを与えられた人物が依頼した別の凄腕の探索者のようだが。


 つまり俺が奴を倒せば初めて試練を与えられた奴がその試練とやらを乗り越えることになる。


「幸いなことにダンジョンに入った時点でそこにいるかどうか分かるくらいに探知範囲は広いらしい。だから準備が整ったらその辺りのダンジョンを回って当たりが出るまで粘るさ」

「仮にそれで居場所が割れたとして、どうやって勝つつもりだよ? いくら夜一だからって一人であれに勝てるとは思えないぞ。忘れたのか? 俺達は八人で挑んで負けたんだぞ」


 勿論それは重々承知している。だからこそ半年以上もの時間を掛けて準備しているのだ。


「待って、一人じゃないわよ。私も一緒にいくもの」

「二人でも大して変わらねえよ! それともお前ら、あの時からとんでもない急成長でもしたってのか」

「いや、準備に忙しくてこの半年はまともにダンジョンに行けてないな」

「私はランクが二つ上がって34になったわ」

「うわ、追いつかれたのか。地味に悔しいな」

「お前ら、いい加減にしろよ……!」

「哲太、落ち着いて。そのままだとグラスを握りつぶすわよ」


 ぶち切れそうになっている哲太を優里亜が必死に宥めている。だがそう心配はいらない。


「大丈夫だって。そのグラスはミスリルの粉が配合された超絶頑丈なグラスだからな。俺達でもそう簡単に割れたりしないさ」

「そこじゃねええええええ!」


 叩きつけるようにグラスを机に置いても割れてない。流石の頑丈さだ。


「それじゃあ逆に聞くけど哲太はどうやったらこいつを止められるのよ。言って聞くような奴じゃないって哲太の方がよく分かってるでしょうに」

「ぐっ、それはそうだが……」

「こいつが戦うってことは勝つつもりってこと。勝算があるのよ、こいつなりの」

「当たり前だ。俺は勝ちに行くんだからな」

「仮にその勝算が誤っていて負けるようなら私が半殺しにしてでも連れて帰るわ。私が一緒にいくのはそのためだもの」


 まあ負ける気はないが戦いに絶対はないので負けることもあり得るだろう。


 その際、一人なら取り返しがつかないが仲間がいれば撤退くらいはできるかもしれない。まあ逆にその仲間も道連れにする可能性もなくはないが。


「夜一、どうあってもやるんだな」

「ああ、もう決めたことだ」

「なら俺も連れていけ」

「哲太!?」


 優里亜が悲鳴のような声を上げる。


「分かってくれ、優里亜」

「嫌よ! それなら私も行くわ!」

「それはダメだ!」

「なんでよ! 私だってパーティの一員だったのよ! 一人だけ逃げるなんてできないわ!」


 いつの間にか夫婦喧嘩を始める二人。まあ俺達が飲んでいるのは肉体が強化されている探索者でも酔っ払えるように軽い酩酊の状態異常が掛かる代物だからな。


 要するにこの二人は酔っ払っているのだ。


「分かってるだろう。こいつが片目を失ったのは俺のせいだ。俺が判断を間違えたのにその責任を全てこいつに押し付けたんだ」

「いや、その話はもう何回も聞いたからいいって」

「良くねえよ! 俺は、俺はあの時、お前の加勢に入らなきゃいけなかったんだ……!」


 あの時、狙われた優里亜を俺は庇った。


 まあ加減できる状況じゃなかったからかなり乱暴に蹴り飛ばしたけどそれでも危機を救ったことに間違いはない。


 その際に哲太は試練の魔物と相対している俺ではなく婚約者である優里亜の無事の確認を優先した。


 考えてのことではない。己の大事な人の無事を確かめたい一心だったのだろう。


 結果、援護は遅れて俺は試練の魔物に捕まった。そこから先はもう分かっていることだ。


 私情を優先して判断を誤った。パーティリーダーとして失格の行動だったと哲太は今に至るまで後悔し続けている。


 俺は別に気にしていないというのに。


「あいつには俺の聖騎士のスキルが有効だった。実際逃げる際もこのスキルがなければ犠牲が出ていただろうからな。だから少なくともあの時、俺が夜一をフォローしていれば……」

「たらればで語っても仕方がないだろう。それにお前の性格で優里亜を放置なんてできると誰も思ってないっての。むしろそんな行動したらドン引きして説教するわ」


 だからこそこいつは俺達のリーダーだったのだ。


 時に感情で動いて失敗するが、だからこそ誰よりも仲間のことを考えている哲太だからこそ。まあ今回の場合はその責任感とかが悪い方に働いてしまったようだが。


「それと言っとくが俺は付いてくることに許可出してないからな? 勝手に話が進んでるけど」

「ちょっと! 私が付いていくのは不満ってわけ!?」

「いや、椎平は構わないぞ。だが哲太と優里亜は断る」

「なんでだよ! 罪滅ぼしのためにも俺が行くべきだろう!」

「そんなもの望んでない。なにより今のお前達は邪魔だ」


 容赦ないこの言葉に哲太が息を呑んだ。


「お前達、半年もまともにダンジョンに潜ってないだろう? そんな勘の鈍った奴はいざという時に必ずやらかす」

「それを言うならお前だって同じ条件だろう!」

「同じ? 笑わせるなよ」


 本当に笑ってしまう話だ。


「この半年、俺はリベンジのために全てを費やしてきた。片目になったことで衰えた近接戦では勝てない。だからその代わりとなる武器を用意するために、心血を注いできた探索者としての活動を一旦控えてまでな。相棒、お前は俺がどれだけ探索者という底なし沼にドップリ浸かっているか知ってるだろう?」

「当たり前だ。俺とお前でこの国の探索者のトップに立つ。五年前にそう約束してここまできたんだからな。俺が一番よく知ってる」


 そうだ、こいつも俺と同じでダンジョンに嵌っていた。


 バカみたいにダンジョンにのめり込んだ俺達二人でダンジョンが現れた時から常に一緒に攻略を続けたものだ。


 こいつが優里亜という人生を変える最愛の人に会うまでは。だからこそ分からない訳がないのだ。


「でも結局、俺はお前との約束まで守れなくて……」

「泣くな、アホ。それだけ大切な人が出来たってことだろう? それを責めるような器の小さな野郎じゃないぞ、俺は」

「相棒ぉ!」


 酔っ払いが泣きながら抱き着いてくる。


「すまねえ! 俺が情けないばっかりにお前に置いてかれちまったんだあ!」

「何言ってんだ、俺とお前にそんな実力差はないだろうが」

「全然ちげえよ。お前は、凄い奴なんだ。俺は知ってるんだ!」


 泣きながらこちらを誉めてくる元リーダー。どうやらそろそろ限界のようだ。


「安心しろ。お前の分まで俺が探索者としての名を轟かせてやる。手始めに試練の魔物をぶっ殺してな。そんでもって試練の魔物のドロップ品でがっぽり稼いでまた一杯やろうぜ」

「分かった、信じてるぞ相棒! だから必ず生きて帰ってこいよ!」


 そこから先の哲太は会話にならなかった。こいつ、酒に弱いくせに勢いだけはいいからすぐにこうなるんだよな。


 ちなみに俺は元々がザルを超えてワクなのでこの程度ではまだまだ余裕だったりする。


「言っとくけど私は本気で付いていくからね」

「分かったよ。その時はちゃんと連絡するさ」


 同じくまだまだ余裕の椎平にしっかりと釘を刺されてしまった。まあこいつなら信頼できるので付いてきてくれるのは頼もしいくらいだ。


 そんなこんなで支離滅裂になった哲太を中心に飲み会は進んでいった。

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