第5話 なげぇ、ほせぇ、先端がでけぇ丸
とりあえずルイはぺルラが見えている道具らしき物がどんな物なのか聞くことにした。
「どんなのか言える?それで予測するけど」
「んー、どんなの?どんなのねぇ、なんて言えばいいの?なげぇ」
「なげぇ……ほ、ほかは?」
「なげぇ、ほせぇ、先端がでけぇ、丸。あっ、なげぇつっても手のひらよりはってだけね」
手のひらよりは長く、細く、先端が大きな丸。なんだそれは。そんな道具はあっただろうか、とルイは必死に頭を動かす。どれだけ考えても思い当たる道具が見つからない。とうとうルイはぺルラに、その道具を取ってきて欲しいと頼んだ。ペルラは「危険だったらどうすんの!」と渋っていたが、ルイの「見えないなら触った方が分かるから」と言う言葉でゴネながらも、取ってきてルイの手のひらの上に乗せた。
手のひらの上の道具に触って確かめてみる。握るにはちょうど良い細さの円柱があり、確かに手のひらより長く細い。先端にも大きな丸を半分にしたかのようなモノがついていた。
この道具にルイは身に覚えがある。今持っているコレは、ルイの知っているモノより旧式のモノではあるけれど。
「懐中電灯だ……」
確かに、確かに手のひらより長く細い。細いと言っても握りこめるだけの太さがあり、先端にも大きな丸がある。半円ではあるが。
説明してほしいと言ったのはルイだ。だが、ぺルラの言葉は簡潔すぎて懐中電灯だと思い浮かばなかった。ぺルラもぺルラなりに、見た事もない道具を説明しようとしたのだろう。ルイ自身も懐中電灯の見た目を説明しろと言われても上手く説明できる自信がない。それ故に起こった味悲劇だろう。
「ルイ、かいちゅうでんとう、って何?」
「明かりだよ。ペルラ、これで人間は暗いとこを照らすの」
「そのなげぇので?」
「うん。このなげぇので」
ぺルラの言葉に頷きながら、ルイは手探りで懐中電灯のスイッチを探す。指にスイッチらしき凹凸が当たる。いきなり明るくなればペルラは驚くだろうと、スイッチを押す前に明るくしていいかペルラに確認した。
「ペルラ、今から明るくなるから驚かないでね?」
「え?今から?」
「うん。懐中電灯のスイッチ押すから」
確認した後にルイはスイッチを押した。ライトが光る。いきなり明るくなったために視界が白くなるのを瞼を閉じて耐え、目が慣れるのを待つ。目が慣れるとルイはライトで照らしながら辺りを見渡した。どうやらここは天然の洞窟を地下として利用しているらしい。むやみに歩き回れば確実に遭難することになるだろう。
ルイの背後には先ほどまで二人がいた部屋へと続くだろう道。前には床に赤黒いモノで道ができ、その先にはいくつかの部屋の扉があった。
赤黒く固まったモノ。元はもっと鮮やかな赤であったろうソレ。時間経過で赤黒くなったソレ、ソレでできた道の1つである部屋の前へとルイはライトをあてた。
「……これ……まさか……」
「ルイ以外にも連れてこられた奴がいたんだろうね。しかもこの出血量じゃ生きてねぇな。あのクソ野郎のゴミ捨て場ってとこか?胸糞悪い」
ぺルラは険しい顔つきで扉を睨みつける。
「ルイはどうしたい?」
その質問でルイは自分がぺルラに気遣われている事を理解した。時間経過で赤黒く変色した、血でできた道の先の部屋。部屋の中にこの血の持ち主である犠牲者がいるだろう。ルイは確実にペルラより死体などを見る耐性が低い。だからこそ無理に入らなくてもいいと、逃げ道をくれているのだ。耐性がないならば、部屋の中になど入らなければいい。けれど、その部屋の中に、この場所に関する情報がある可能性もある。
ぺルラが確認し、ルイが部屋の外で待機。
今ここで二手に分かれて探索をしたとしよう。見つかるのは確実にルイであり、見つかった時点で殺されている。対抗手段を持っていないのに、一人で動くなど愚か極まりない。それにルイが死ねばペルラは後を追うだろう。ルイがソレを許したのだから。
それでもペルラはルイが長生きすることを望んでいた。ならば簡単に死ぬことは許されない。答えは1つだ。
「ペルラが行くなら僕も行く」
「分かった。キツイと思ったらすぐにオレに言うんだよ。それから、抱えながら歩いてみてぇんだけど、いい?」
「うん、いいよ。僕の足の速さじゃ追いつかれるもんね。ペルラ、抱っこ」
ルイはぺルラに両手を伸ばし抱っこをねだる。人型のぺルラは185㎝あるため、150㎝のルイでは必然的に上目遣いで両手を伸ばし抱っこをねだったことになる。可愛いと内心悶えながら、ぺルラはルイのお尻の下に腕を回し持ち上げる。所詮、幼児抱きをしていた。
そのままぺルラはルイを抱えたまま、赤黒い血の道が続く扉の前に立つ。ぺルラがドアノブに手をかけた。
「準備はいい?ルイ、開けるよ」
「うん、どうしてもダメならぺルラにしがみ付いて、目を閉じるから」
「そうね、その方が負担すくねぇならそうしな。じゃ、開けんね?」
ゆっくりとドアノブをひねり扉を開く。扉を開いたときに鼻をかすめたのは酷い腐臭だった。咄嗟にルイは口と鼻を片手で覆い、残った片手でぺルラの首に捕まりながら、目を瞑って肩に顔を押しつける。完全に開き切ると部屋の全貌がぺルラの視界に入った。
天井まで吹き出したのだろう血の跡。床の上に乱雑に散らばる死体は、新しいものから腐り始めているものまで沢山あった。共通点はどの死体も髪と目がカラメル色をしている事だろう。
ルイが目を瞑っていて良かったのかもしれない。ぺルラのフィオレにこの光景はキツイだろうから。
「これは……また派手に殺してんね。ルイは見なくて正解かも、これオレでもちょっとキツイかな」
「ペルラでさえも?なら尚更こうしとくね」
「オレでさえもって、どういう意味ぃー?」
「ペルラはこういうの慣れてそうなんだもん」
「まぁね?海では弱肉強食だからねぇ」
軽口をたたきあい、歩きながら部屋の中を物色する。物色と言えども見渡すだけだ。
形を保ったものは少なく、死体に触るのは衛生面が気になるので却下。ぺルラだけなら気にしないが、ルイが居るのだから慎重にしすぎる位で丁度いい。それでもめぼしいものは何もなく、鼻が曲がりそうなほどの腐臭と腐りかけているただの肉塊となり果てた人だったものだけ。
情報がないなら何か役に立ちそうな物がないかペルラは見渡す。すると部屋の奥の方、最も腐敗が進んでいる肉塊がある場所に、何か持ち手が突き刺さっているのが見えた。ぺルラはそれに近づき、持ち手を手にし肉塊から引きずり出す。それは手斧だった。長い事血肉にさらされて多少、錆びてはいるもののそれさえ気を付けていれば、まだ使えそうだとぺルラは判断した。
軽く素振りをし、手に馴染ませる。
「ねぇぺルラ、さっきの音は何?」
「ん?なんか武器になりそうなのめっけたから、手に馴染ませてた」
「武器?パイプか何かがあったの?」
「や?斧」
「オノ……なんでここに?……」
「んー?分からないままのがいいんじゃない?こんな場所にあるんだからさ」
クツクツと喉の奥で笑うようにしながら、ルイに拾った手斧を見せる。最初は不思議そうにしながらも、ぺルラの回答でその手斧が何に使われたのか理解してしまう。おそらくはあの部屋には手斧で殺された子がいたのだ。ルイが察した事にペルラも気づいたのだろう。ルイの頭に頬ずりして、キュイと慰めるように鳴き声を上げながら部屋の扉に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます