第17話
「パンフレット貰いに行ってくるね」
「それじゃあ花子さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
花子さんに見送られ、家を出る。
「ちょっと駐車場離れてるから少し歩くね」
「分かりました。ちなみに何処に見に行くんです?」
「フォルテかな。あそこなら家電も売ってるし」
ここら辺で一番大きいショッピングモール『フォルテ』。
家電、食品、衣類、本屋、映画館などここに行けば大抵の物は売っている。
土日祝日は駐車するのさえ大変な人気の場所。
まぁ田舎だから他に行く場所が無いだけだが…
「家電見に行くなら国道沿いの電気屋の方が近くありませんか?」
フォルテまでは車で大体40分、近くの家電量販店までは15分くらいだ。
「フォルテなら酒もつまみも売ってるし、あとパジャマ買いたいんだよ。俺パジャマ持ってないから」
「え? 普段何を着で寝てるんですか?」
「ん? シャツとパンツ」
「まだ3月ですよ? 寒く無いんですか?」
「寒いんだけど着るの面倒臭くって」
「パジャマ着るの面倒臭いって…そんなチンパンジーレベルな人、私の息子じゃないかもしれない…」
「息子じゃないから安心しろ。ほら、そこの赤い車が俺の車だから」
「うわ、スポーツカーなんて乗ってるんですか!? うちのコンビニって社員は良い給料貰ってるんですね」
「中古車だよ。あの店が給料良いわけ無いじゃない」
「夢が無い職場ですね。それじゃあお邪魔します」
数回曲がり国道へ、あとはずっと真っ直ぐ走っていれば目的地のフォルテだ。
「休日にスポーツカーでドライブも良いもんですね」
「こーゆー機会が無いと俺も運転しないからちょうど良かったよ」
「普段はあまり乗らないんですか?」
「車高低いから田舎道だと走れない場所多くて、家から離れた場所に駐車場借りてるのも、敷地の段差を越えられないから。あとは燃費悪い、リッター10キロしか走らない」
「それ電車の方が安く済みません? 何でそんな車選んだんですか?」
「見た目で選んだから…あと安かったし」
「安かったっていくら位だったんです?」
「乗り出し15万」
「安すぎません?」
「なんか事故った車らしくて」
「…ん? 事故車なんですか? まさか人とか亡くなったりしてないですよね?」
「流石に人が亡くなってたら中古車として出回ってないでしょ」
「そうですよね、失礼しました」
何故でしょう…ずっと後部座席から気配を感じるのですが…
気になりバックミラーを覗き込むと、血まみれの女性と目が合った。
「え?!」
後部座席を振り返る…しかしそこには誰も居ない…
気のせい? なのかな?
「後ろがどうかした?」
後部座席を気にしていると、マサムネさんに声を掛けられた。
「あ、いえ、後ろに誰か居た気がしたのですが…気のせいでした」
「ちょっとビビらせないでよ。皆そーやって俺を怖がらせるんだから」
「え? 皆?」
「親も妹もそんなコト言ってたし、店長を駅まで乗せてったときも似たようなコト言ってきてさぁ」
それは…駄目なやつじゃ…
「そー言えばかなり前にもパトカーに止められたコトがあってさ、車の上に血まみれの女性が乗ってたって、まぁ警察官の勘違いだったんだけどね」
もうそれはアウトですよね!?
本当にこの車に乗っていて大丈夫なのでしょうか…
横目でマサムネさんを見ると、後ろから血まみれの女に羽交締めにされていた。
「えっ? ちょ! マサムネさん!? 苦しく無いんですか?! 大丈夫ですか?!」
血まみれの女はギチギチとマサムネを締め上げていく。
「ん? あ、加藤さんバケットシートって初めて? レーシング仕様のシートベルトだから少しキツいかも、苦しかったら緩めてね」
「いやいやいやいや!! 違う違う! 後ろ後ろ!」
「後ろ?」
バックミラーで後ろを見るマサムネ。
「あっ!! 全然気づかなかった! 後ろ戦車が自走してるじゃん! この近くに自衛隊の基地在るからたまに見れるって聞いたことはあったんだけど! 自走してるの初めて見た! うわ! でっか! つーかキャタピラで道路走って良いんだね!」
「…」
血まみれの女と目が合う。
「この人霊感ゼロなので、実態を持った怪異じゃないと認識出来ないみたいです…」
「加藤さん誰と話してるの?」
「あ、ちょっと後ろの幽霊さんと」
「加藤さん、その歳で幽霊信じてるの? 意外と天然系? あっ、ほらフォルテ見えてきたよ」
血まみれの女は不貞腐れて後部座席で横になる。
「一応私も花子さんも幽霊的な分類ですからね? 幽霊もちゃんと居ますからね?」
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