第12話

仕事を終え加藤さんと2人で帰宅。

家に着くと花子さんが夕食の準備をしながら、

「おかえりなさい」っと出迎えてくれる。

最近のいつもの風景。

平和だな。


3人での夕食後、加藤さんはビールを飲みながら洗い物を、俺と花子さんは食後のお茶を飲んでいた。

「そー言えば気になってた事があるんだけどさぁ」

バタバタしていて聞くのを忘れていた。

「他の七不思議の皆は何処に行ったの?」

「さあ、わからないわ。まさか学校が取り壊されるなんて思ってなかったから…まぁ案外皆無事なんじゃない?」

「花子さんの取り憑いていた学校の七不思議ってどーゆーのだったんですか?」

洗い物をしながら加藤さんが会話に参加してきた。

「ごく一般的な七不思議よ。第3トイレに現れるトイレの花子さん、校舎を走る二宮金次郎像、目元のラメが月明かりで光るオカマのベートーベン肖像画、校舎を歩き回る等身大美少女フィギュアの人体模型、誰も居ない音楽室でアニソンを弾きまくるピアノ、風が吹くと飛んでく教頭の髪」

「後半おかしくありません? そもそも教頭に至っては怪異関係ないですよね」

「運動会の開会あいさつで風が吹いたとき、数人が呼吸困難になったらしいわ。きっと怪異の仕業よ」

「教頭のズラが飛んで笑いすぎただけですよね?」

「人の学校の七不思議にケチつけるの?」

「そもそも6個しか言ってませんよ?」

「7個目は秘密なのよ。もし7個目を知ってしまうと…死んでしまうから…」

「本当は?」

「調べたら30個位あったから、最後の一枠は『その他』枠になってるわ」

「結構適当なんですね」

「まあ小学校で噂される七不思議なんてそんなものよ」

「あっ!そもそも疑問なんですけど」

洗い物を終えた加藤さんが、手をタオルで拭きながら花子さんの横に座る。

「ん? 何が疑問なのよ?」

「小学校の七不思議に出てくるトイレの花子さんって、一般的に小学生ですよね? 何で高校生位なんですか? もしかして…偽物?」

「私が偽物やって何の特があるのよ。別に…誰かと一緒に歳をとるのも悪くないと思っただけよ」

花子さんの顔が少し赤くなった。

加藤さんがニヤニヤしながら花子さんの顔を覗き込む。

「乙女ですねぇ」

「うっさいわね…女はいくつ歳を重ねても乙女なのよ」

「そうなんですねぇ。けど、これは流石に重ね過ぎじゃないですかっと!」

そう言って加藤さんは花子さんの胸を鷲掴みにする。

「なっ!? ちょ! アンタなにすんのよ!? 酔っぱらってんじゃないの!?」

椅子から立ち上がり両手で胸をガードしながら逃げ出す花子さん。

そして自分の両手を見ながら首を傾げる加藤さん。

「え?…花子さんって…………すか?」

俺に聞こえない様に耳打ちで話す2人。

「へ?パット?…………わよ?」

「そうですか…」

何故かその場で固まる加藤さん。

全く動く気配がない。

「花子さん、何言ったの?」

「別に何も言ってないわよ!大体にして見てたでしょ?!私が被害者だから!」

しっかり見てた。

花子さんのDカップ(目測)が揉まれるところ。


「…パ……じゃ……んだ」

「ん?」

微かに加藤さんの口許が動いている。

俺と花子さんは加藤さんの口許に耳を傾けた。

「高校生であの大きさ?…パットじゃないんだ?…パットじゃないなんだ…パットじゃないなんだ…あれ? 私って…小学生位?」

恥ずかしそうに花子さんが、

「む…胸なんて大きくても良いことないわよ。肩は凝るし、ジロジロ見られるし」

花子さんコッチに視線を向けないで、まるで俺がジロジロ見てるみたいじゃない。

ソンナニミテナイヨ?

「そうですか…じゃあ…必要無いですね…それ」

「「え?」」

突如口が裂け、怪異化した加藤さんの手にはいつものハサミが握られていた。

危険を感じた花子さんは包丁を構え距離をとる。

ゆらゆら揺れながら加藤さんが花子さんに問い掛けた。

「ねぇ、私…巨乳?」

「……」

花子さんは加藤さんの胸を見たあと、無言のまま全速力で逃げだした。

「…逃がさない」

『シャリリ…シャリリ…』

ハサミを開いたり閉じたりしながら、ゆっくりと花子さんを追い掛けて行く。

「きゃー!! ちょ! あんたマジじゃないのよ!」

「ねぇ、私…巨乳?」


…風呂にでも入るか。

「ふぅ~」

湯船に浸かり、天井を見上ながらの深呼吸。

今日1日の疲れがとれる。

風呂場の外からは、

「ねぇ、私…巨乳?」

「きゃー!!巨乳よ巨乳!」

「これでも? 」

「…」

「殺す…」

「きゃー!!」

アイツ等まだやってんのかよ。

「はぁそろそろ助けに入るか」

風呂から出て脱衣場へ向かう、そのとき、

『バタン!』

「え?!ちょ!」

いきなり脱衣場に駆け込んで来た花子さん。

俺まだ全裸なんだけど!

取り敢えず急いでタオルを使い股間を隠す。

花子さんが俺の後ろへ隠れると、ゆらゆら揺れながら加藤さんも脱衣場へ入って来た。

「はぁはぁ…ねぇお願い、コイツをどうにかしてして頂戴」

「ねぇ…私、巨乳?」

俺は加藤さんの目を見ながら語りかける。

「加藤さん、人の価値は胸の大きさではないよ。ネットにも書いてあった、『貧乳は正義』だって」

「…そうですか、なら巨乳は悪で間違いないですね」

あ、説得失敗

背中を花子さんにつねられる。

「ほら、小さい方が良いって言う人も居るじゃない? 俺もスレンダーな方が好みかなぁ」

「なら貴方の部屋の押し入れにあるタンスの下から2番目の服の下にある本達は処分して構わないですね?」

「何で加藤さんが俺のエロ本の隠し場所知ってるんだよ…」

花子さんがより強く背中をつねる。

「…」

「…」

加藤さんが、俺のタオルで隠された下半身に視線を送る。

「そうだ、小さい者の苦しみを貴方も味わってみればいいんですよ」

加藤さんの握るハサミが『キラリ』と光る。

「ちょ!?俺の息子は関係ないじゃん!!」

慌てて加藤さんの両手を掴む。

「あっ」

タオルを押さえていた手が外れた為、そのまま床にタオルが落ちる。

「あっ…え?」

俺の息子と目が合う加藤さん。

「き…きゃーー!!!」

加藤さんは顔を真っ赤にしながら脱衣場を出ていく。

後ろに隠れていた花子さんが、

「妖怪貧乳女を退治してくれてありがと…。妖怪を退治したソレ、妖刀マサムネって命名してあげるわ」

そう言って脱衣場を出ていった。


「…湯冷めしたから入り直すか」


「はぁ…」

湯船に浸かり、目を閉じて、天井を見上ながらのため息。

「なんか疲れた…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る