第11話
「朝にはちょっと重いかしら?」
そんな花子さんの言葉で出された朝ごはん。
昨日の夜ご飯を朝ごはんに回してもらった為だ。
メニューは、白飯、鶏肉の甘酢あんかけ、豆腐サラダ、カボチャとじゃがいもの中華スープ。
俺は朝からガッツリ系も問題無いが、加藤さんは大丈夫だろうか?
「おかわり!」
茶碗を花子さんに突き出す加藤さん。
「貴女これで3杯目よ?!」
「加藤さんってそんな大食いキャラだったっけ? 店で廃棄食べてもオニギリ1~2個なイメージしてたけど」
うちの店では賞味期限の切れたオニギリやお弁当を事務所で食べるのはOK、持ち帰るのはNG とのルールがある。
「いや、コンビニのご飯って美味しいけど、家庭の味と比べちゃうと…それにコンビニのご飯って最終的には大体全部同じ味に感じてきません?」
「あー、すげぇー分かる」
最初はコンビニの廃棄を食べられるのが凄い嬉しくて色々食べてたけど、1年も居ると大体同じ味に感じてきて、新商品が出ても見た目で味が分かる様になるんだよな。
まあ、大体使う材料が一緒なのだからしょうがないのかもしれない。
「やっぱりコンビニ弁当食べ慣れちゃうと、家庭の味って良いですよね…おかわり!」
「昼ご飯の分が残らなくなるのだけど」
「え?!…ならやめときます…」
「ったく、これで最後にしなさいよ?」
「え、あっ、ありがとうございます」
「別にいいわよ、昼は昼でご飯炊くから」
ムスッとしながらも、自分の作ったご飯を美味しく食べてくれるのは嬉しいのだろう。
「あっ、洗い物は自分がやります」
「別に構わないわよ」
「いえ、そんな訳には。美味しいご飯を食べさせてもらったので」
「…そう、ならお願いするわね」
なんだかんだ仲良くやってけそうだな。
一安心したところで2階に上がりベランダへ。
「すぅ~…はぁ~」
タバコを吸うと一段落着いた気がする。
「すぅ~…はぁ~」
ただ何もせず、タバコを吸う時間が贅沢に感じる。
「きゃーーー!!ちょっ! 助けてっ!」
幸せな時間って続かない…
部屋を出たところで花子さんも部屋(トイレ)から出てきた。
急いで声のした台所に向かう。
「どうしたの?!」
「何ごと?!」
台所には加藤さんが1人、四つん這いで怯えていた。
よく見ると右手には器が逆さになった状態で伏せられている。
「えっと…何が起きたの?」
「ゴ…ゴキブリ…」
「げっ!マジで…まだ出たことなかったからショックだな」
「まぁ古い家だものしょうがないわよ。戸棚に殺虫剤があった筈だわ。っで、黒い悪魔は何処に居るの?」
加藤さんは震えながら右手の器に視線を移す。
「……」
『ガシッ』
花子さんがリンゴも砕ける程の力で俺の肩を掴む。
「…ねぇ、あれ私の茶碗よね?」
「痛い痛い痛い痛い!」
「…ねぇ、あれ私の茶碗よね?」
「折れるって折れるって!ミシミシいってるから!」
「ちょっ!2人っとも、じゃれてないで早く何とかしてくださいよ!」
「…ええ、今息の根を止めてあげるから、そのまま動かないでちょうだい…」
俺を離した花子さんがゆっくりと加藤さんに向かって歩く。
花子さんの右手にはいつもの出刃包丁が握られていたが…
ゴキブリを殺りに行ったんだよね?
後ろに気配を感じた加藤さん、
「せーの!っで器をあけますね?」
そう言って振り返った加藤さんの目には、自分に向かって包丁を振り上げている花子さんが…
「えっと…え?」
意味が分かっていない加藤さんに花子さんが、
「それね、私のご飯茶碗なの」
「あ…」
一瞬にして冷や汗の止まらない加藤さん。
「ち…違うんです!」
「ん? 何が違うのかしら?」
この後、台所で繰り広げられる『トイレの花子さんVS口裂け女』、そして逃げ出すゴキブリ。
最終的に、口裂け女の加藤さんがネット販売で一番高いご飯茶碗をプレゼントすることで和解。
調べたところ、ネット販売で一番高いご飯茶碗は50万円の古美術品。
流石に花子さんも、
「50万!?そんなの普段使い出来ないわよ!」
そりゃそうだよね。
結局スーパーで一番高かった5千円の茶碗で落ち着いた。
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