第10話
加藤さんがこちらを振り向き一言。
「えーと…この子誰です?」
「それは私のセリフだと思うのだけど?」
俺はまず加藤さんに花子さんを紹介、
「えーと…この子は加藤さんと同じ怪異で、学校の七不思議のトイレの花子さん。裏の廃校に取り憑いてたんだけど、最近取り壊されてうちに引っ越してきたんだ」
花子さんは紹介され軽く会釈をした。
次は花子さんに、
「そして彼女は加藤さん。昨日俺を殺そうとしてきた口裂け女で、俺の働いてるコンビニでバイトしてる女子大生…で、何でここに居るの?」
「え? だってここ私の実家ですよね?」
「ん? 違うよ? 何でそうなる?」
「貴方のお婆さんが流した噂から生まれた私は、貴方のお婆さんの娘ってことですよね?」
「あー、まあ考え方によってはそうなるか?」
「さらには貴方のお婆さんの娘イコール貴方の母親ってことにもなりませんか?」
「ならねぇよ、婆さんは父方だわ」
「つまり、貴方の母親である私が一緒に暮らすのは必然的な訳です」
「話きけよ、全然普通じゃないから!」
「えーっと、話の流れ的に貴女もここに取り憑くつもりなのかしら?」
「イエス!」
「いやいやいやいや、何勝手に住み着こうとしてるの!?」
「え? 駄目なんですか?」
「え、駄目だよね?」
「何で私に聞くのよ、貴方の家でしょ」
「じゃあ良いですよね? この前インフルエンザに掛かったときシフト4回も替わってあげたじゃないですか」
「そのレベルの話じゃないよね?」
「この季節の野宿ってキツいんですよねぇ…朝に霜が降ってまぶたが開かないときがあるんですよ…」
「え? 前にアパートに住んでるって言ってなかった?」
「あんなん嘘に決まってるじゃないですか。私達怪異は戸籍が無いからアパート借りるのさえ大変なんですよ」
「花子、そうなの?」
「私達七不思議は学校に取り憑いていたから、そーゆーのは無かったわ。そもそもここに取り憑くって、この家にはもう私が取り憑いてるのだけど?」
「せめて気温がマイナスじゃなくなるまで駄目ですか?」
花子さんがテレビの天気予報を着ける。
「良かったわね、明日は最低気温1度はあるわ」
「…」
「…」
「…意地悪便所虫…」
加藤さんがボソッと呟いた瞬間、
『ザスッ!』
「ひっ!」
「よく聞こえなかったわ…」
布団の上に座っている加藤さんの目の前に、出刃包丁が突き刺さっている。
「今何て言ったのかしら? その大きな口でもう一度言ってもらえない? 大体『私キレイ?』なんて聞いて回るの、自意識過剰なんじゃないかしら?」
加藤さんがマスクを外すと、みるみる口が耳まで裂ける。
「私だって言いたくて言ってるんじゃないんですよ! 」
加藤さんの両手にはいつの間にか布切りバサミが握られていた。
「切り刻んでトイレに流してあげますよ!」
「なら私はその裂けた口を後頭部まで広げてあげるわ」
お互いに殺し合う気満々じゃん…
「…あのー」
ゆっくりと手をあげる。
「何?」「何ですか?」
「一旦落ち着いて飯にしない? 俺昨日の昼から何も食べてないからさ」
「…凄いベタな仲裁ね」
「…ベタな仲裁ですね」
「なら2人は飯は無しで良いんだな?」
花子さんと加藤さんはお互いに顔を見合わせ、
「しょうがないわね、一旦停戦しましょう」
「そうですね、一旦停戦で。…ちゃんと私の分もあるんですよね?」
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