第9話

帰りながら今日あった出来事を花子さんに話した。

「本当に色々あったのね。まあ無事で良かったわ。ただ、帰りが遅くなるなら連絡くらい欲しかったんだけど、ご飯冷めるじゃない」

「ごめん、次からは気を付けるよ。ところで花子さんは何であそこに?」

「アンタが遅いから様子見に来たのよ、ちょっと買いたい物もあったし」

「言ってくれれば買ってくるのに」

「自分で見て選びたいのよ。それに外を色々見たくてさ、私が住んでた頃とどう変わったのか」

「そうなんだ。ん? そー言えばコンビニまで結構な距離有るけど大丈夫なの?」

花子さんは取り憑いているトイレから2~3キロしか離れられない筈だ。

「丑三つ時だけは離れても大丈夫よ。まあ1時間程度だからどのみち遠くには行けないのだけど。今の家からだと行き帰りでコンビニまでが丁度良い距離なのよ」

「だから夜中に出掛けてたんだ」

「あ、やっぱりバレてた? 心配掛けるから黙ってたのよ」

「そんなにしてまで、何を買いに行ってたの?」

「気になるなら見る?」


時刻は午前3時、自宅に着いた俺は花子さんに連れられ2階のトイレへ。

トイレのドアが開けられると、両脇に天井まで棚が設置されていた。

片方の棚にはコンビニコミック、もう片方の棚には食玩やガチャガチャのミニチュアやフィギュアが大量に並んでいる。

「漫画の方は大体全巻そろってるわ。都市伝説系の本とかもなかなか面白いしオススメよ。あっ、この『都市伝説大全』に私のってた」

表紙を見ると『検証!学校の七不思議!』と書かれている。

「あとつい買っちゃうのがミニチュア、可愛いくて最近ハマって集めてるの」

カエルが灰皿の上でタバコを吸ってるフィギュアや、動物がマッサージ機に座って寛いでいるフィギュアなど、可愛い?フィギュアが多い。

花子さんがニコニコしながら語りだす。

「今はこれを集めてるの。『体重計の動物シリーズ』の第2弾、あとカンガルーが出ればコンプリートなのよ。第1弾はコンプしてるから今回もなんとしても揃えたいのよ」

熊や豚が体重計に乗ってセリフが書かれたフィギュアが並んでいる。

豚のフィギュアの「あと1キロで出荷される…」がシュールすぎる。

ってかこの数日でよくこんなに集めたな…


「そー言えばご飯どうする? 食べてないんでしょ?」

「作ってもらってて申し訳ないんだけど、明日食べるよ、流石に疲れたし眠いや」

「まぁ時間が時間ですものね、わかったわ。お休みなさい」


午前3時30分

『ガチャ…ガチャガチャ!』

鍵が掛かって開かない。

じゃあしょうがないっか…

ハサミを突き刺した。

よし、開いた。


『みしぃ、みしぃ、みしぃ…』

ゆっくりと階段を登る音が、寝静まった家に響く。

この部屋かな?


あ、みーつけた。


赤い服を着た女は大きなハサミを持ちながら

、寝ている男を見下ろした。



息苦しい…


息苦しい…


目を開けると視界に広がる一面の赤。

「え?」

思考が追いつかない。

何で俺は今、加藤さんに抱き付かれながら寝ているのだろう。

夢なのか?

……。

「加藤さん、ねぇ加藤さん、起きて」

「…ん~? 朝? う~寝たの遅かったからもう少し寝ましょ? 今日はお互い仕事休みですよ~」

「いやいや、なにしてんの?」

「すぅ~~、すぅ~~、すぅ~~」

「加藤さん? ちょっ、寝ないでよ!」

「すぅ~~、すぅ~~、すぅ~~」

どうしよう…抜け出すにも抱き付かれてて抜け出せない。


『ガチャ』

「さっきから何騒いでるのよ? 起きたならご飯温めるわよ? …えっ?」

「あ…」

パジャマ姿の花子さんと目が合った。

『バンッ!』

すぐにドアが閉められた。

『ガチャッ!』

そしてすぐに開けられたドア。

赤いワンピースに着替え出刃包丁を持った花子さんが無表情で立っている。

「最後に言い残すことは?」

「いやいやいやいや!ちょっ!ちょっと待って話を聞いて!」

「大丈夫よ安心して、私は怪異だもの、幽霊とも会話出来るから」

「安心出来る要素が無いんだけど!」

「ちゃんと成仏出来ない様に、もがき苦しむように殺るわね」

「だから安心要素が無いんだけど!ねぇ、お願いだから一回その包丁をしまわない? 話せば分かるって」

「話せば分かる? そう言いながらいつまで抱き着いてるのよ!」

「俺が抱き着いてるんじゃなくて、加藤さんが抱き着いてきてるんだよ!」

「はぁ? 何? モテ自慢?!」

「そんなんじゃないよぉ…お願い!加藤さん、起きて! 事情を説明してよ! 何でここに居るの!」

「ん~ん、あと少しだけ…」

「あと少しで俺が殺されるんだけど!」

「ん~? 大丈夫ですよぉ、人間そんなに簡単には死なないから…すぅ~、すぅ~」

「だから寝るなって! 死ぬから! 包丁で刺されたら死ぬから!」

「も~煩いなぁ…朝からそんなに騒いで…ん?」

出刃包丁を持ちながら、無表情でこちらを見ている花子さんと加藤さんの目が合った。

そして加藤さんがこちらを振り向き一言。

「えーと…この子誰です?」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る