第8話
「普通の人間が、怪異の武器に触ってられる訳無いじゃないですか!? それは呪詛の塊ですよ!」
…ん?
手元のハサミを見る。
普通に持ててるのだが?
試しにその辺にあった要らないコピー用紙を切ってみる。
『シャリリッ』
刃渡り30センチ位の布切りバサミ、正直…
「…使いづらっ」
「えぇー…」
加藤さんと目が合う、やはり俺が加藤さんのハサミを使える事が不思議な様だ。
「…」
「…」
「あの、これを触れるって事は、俺ってヤバかったりするの? 寿命縮まったりしないよね?」
「それが分からないから恐いんですよっ!今も今までも妖気や妖力を感じた事無いですし。一体何者何ですか?!」
加藤さんが更に警戒を強める。
そんな事言われても…
「本当は誰でも触れるとか無い?」
「いやいやいや、普通の人間が触ったら生気を吸われて最悪死にますよ。例外が有るとしたら、私の噂に関わる人間位です」
「口裂け女の噂に関わる人?」
「ええ、ただ口裂け女の噂に登場するのは、ポマードを着けた彼氏の1人だけです」
ポマードって…何?
「俺も口裂け女の噂に出演した覚えはないしなぁ。んっ? あー…一応確認なんだけど、噂を作った人の身内は?」
「ん? よく意味が分からないのですが?」
「嘘か本当かは分からないんだけど、うちの婆さんが口裂け女の話を作ったら予想以上に話が広まって焦ったって…」
「は?…ええっ!?」
「何でも当時は塾に行くのがブームだったらしいんだけど、塾に通わせる金の無かった婆さんがオヤジに、『塾に行って帰りが遅くなると口裂け女が出るぞ』って嘘言ったらしくて」
「ちょっ! 私、そんな噂で出生したの嫌なんですけど!?」
「その話が学校で広がって、塾で広がって、他校に広がり、親に広がり、会社で広がり全国に広がったって」
「…ちょっと試してみて良いですか?」
離れていた加藤さんがこちらに近づいてくる。
「え?何するつもり?」
加藤さんは俺の腕を掴み、
「切れたらすいません」
腕にハサミを振り下ろした。
「ちょっ!」
すいませんでは済まないだろ!
慌てて腕を引いたが、加藤さんに掴まれた腕はびくともしない。
そのままハサミは振りきられ、俺の腕は…
「あれ?…切れてない?」
「切れてないですね…こんなことは初めてです…って事は…本当に?…」
そしてその場に座り込む加藤さん。
「私…塾に通わせない為の嘘から生まれた怪異だったの? 私…主婦の嘘から生まれた怪異なの?私…割りと有名な怪異なのに…」
加藤さん、すげー凹んでる。
「はあぁ」
大きなため息を着き、うつ向きながら立ち上がる加藤さん。
そのまま事務所を出て売り場へ、そしてレジに向かってハサミを突き立てた。
『ガシャッ!』
「車の衝撃でレジも壊れてたみたいです。今日は営業出来ないですね。本部への連絡お願いしますね。では、お疲れ様でした」
「…マジか…」
取り敢えず本部に連絡、流石にレジの交換をするまで休業に。
2日でレジから窓まで全部直るらしい。
もう少し休めると思ったんだけどな。
時刻は2時30分
店を出たところで、また赤い服の女に出会った。
「あれ? 花子さん何してるの?」
「貴方こそこんな時間まで…って、何があったの?」
俺の後ろにはガラスが割れ、段ボールで塞がれた店舗。
「車が突っ込んで、連続殺傷魔が出て、婆さんの言ってた話しが本当だった事が判明し…レジがぶっ壊れた」
「…情報量が多すぎてまったく意味が分からないんだけど?」
「まぁ話すと長くなるから帰りながら説明するよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます