第7話

人気の無い路地で、赤い服の女に出会った。

髪が長く、大きなマスクを着けた女。

直感で分かる…コイツが犯人だと、そして人間ではないと。

そして少し安心した…花子さんじゃなかった。


赤い服の女は、大きな黒いハサミをゆっくりと、

『シャリリッ…シャリリッ…』

開いたり閉じたりしている。

何度もハサミを鳴らしながら左右に揺れる女。

このままだと、明日のニュースには被害者として俺が取り上げられそうだ。

女を視界に捉えながら、俺はゆっくりと後ろに下がる。

すると街灯が一斉に消え…一斉に着いた。

一瞬の出来事、離れていた筈の女が目の前に居る。

「ねぇ、私キレイ?」


後ろに振り返り全力で逃げた。

こんな時間に逃げ込める場所って…

今仕事を終えたばかりのコンビニへ向かう。


後ろからは、

『シャリリッシャリリッ』

どんなに離したつもりでも、気付けばすぐ後ろまで迫っている。

振り返り見る女の顔は、マスク越しからも分かるくらい笑っていた。


コンビニへ着いた俺は店内を見回す。

客が1人も居ない…こんな時間だから客は居ないにしても、勤務中の加藤さんすら姿が見えない。

『バチンッ!』

店内の電気が消えた。

段ボールで塞がれた窓からは月明かりが少し差す程度、辺りは闇に覆われた。

ポケットからスマホを出すと、微かな明かりが広がる。


「鬼ごっこは終わりですか?」


目の前に女が居た。

大きく開いたハサミを俺の首もとに当て、

「ねぇ、私…きれい?」


ビックリして後ろに倒れた俺、

『シャリンッ!!』

首のあった場所には、力強く絞められたハサミがある。

「くっ!?」

這いつくばりながら事務所に逃げ込み、急いで鍵を閉めた。

『ガチャガチャッ!ガチャガチャ!』

向こうから何度も開けようとドアノブを捻られる。

鍵はかかっているが、恐くて握ったドアノブを離せない。

『ガチャガチャ…』

『……』

10分位たっただろうか…

気付けばいつの間にか電気が着いていた。

ドアノブも回されなくなっている。

助かったのか?


『ガチャガチャ』

再び緊張が走り、ドアノブを押さえる。

すると、

「ん? あれ、開かない? 鍵掛かってる?」

この声は、

「加藤さん!?」

「あれ?どうしたんですか?さっき帰った筈じゃ? てか、それより開けて下さいよ」

『ガチャ』

「早く入って!」

「え? えっ !?」

腕を引き加藤さんを中へ入れ、急いでドアを閉め鍵を掛ける。

「どうしたんですか?」

「さっきまで切り裂き事件の犯人がっ」

「へ? さっきまで?!」

「そうだよ!さっきまでここに居たんだよ」

 

『ガッ!』


ドアノブを握ぎる俺の後ろから、顔のすぐ横にハサミが打ち付けられた。


加藤さんが耳元で楽しげに、

「さっきまで? 残念、違います。違いますよ。まだ居るじゃないですか…ここに」


「え? 加藤さん?」

振り返り見た彼女は赤い服を着て大きなハサミを握り、

「ねぇ、私、きれい?」

「…」

「私、きれい?」

「は、はい…」

「そう…じゃあこれでも同じ事が言えますか?」

マスクを外す加藤さん。

口は耳まで裂けていた。

ハサミを振りかぶりながら、裂けた口で繰り返す、

「ねぇ、私、きれい?」


これは…正直に答えて良いのだろうか?


「…はい」


知り合いだから補正が掛かってるのかもしれないが、正直元々が美人なので口が裂けてても全然美人。

性格も良いし、残念なのは胸のサイズ位だけ。

「本当に…キレイ?」

「え、はい。加藤さんは美人かと」

「あ…ありがとう…ございます」

裂けた口で頬を赤くしながら照れる加藤さん。

「なんか恥ずかしいですね…知り合いに『私キレイ?』って聞くなんて」


「てか、何してるの?」

「え? あ、実は口裂け女って怪異でして」

まあ『私キレイ?』って言ってたしね。

「私は噂から生まれた怪異なので、噂が広がらないと生きてけないんですよ」

「それで人を刺し殺してたの?」

「殺して無いです!殺して無いです!ほんの少し、擦り傷程度しか切ってないです!ニュースが大袈裟に報道してるんですよ!」

「こっちはマジで殺されるかと思ったよ…」

「こっちは優しさで襲ってあげたんですよ? 今日仕事休める口実作るために」

「多分その優しさ、遠回り過ぎて伝わってなかったわ」

そう言ってドアに刺さったハサミを引き抜こうとした。


「あっ!それに触っちゃダメです!」

「えっ!?ごめん、抜いちゃった。なんかまずかった?」


俺は抜いたハサミを加藤さんに見せた。

それを見た加藤さんは慌てて俺から距離を取り、ハサミを構える。

「一体何者なんですか? まさか…教会の!?」

「え?」

こちらをまるで化け物の様に…

こちらはただのコンビニ店員なんだが?

「普通の人間が、怪異の武器を触ってられる訳無いじゃないですか!? 」

「えっ?」

そうなの?










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