第6話
「お待たせ、風呂上がりにそんな所でタバコ吸ってたら湯冷めするわよ?」
「ああ、ちょっと1本だけね」
タバコの火を消し、部屋へ戻る。
「「乾杯」」
花子さんはロング缶のビールを、俺はショート缶のノンアルコールビール。
「ちょっと、初手にノンアルなんて選んでどうしたのよ?」
「貰ったベコ缶の中に何本かノンアル混ざってたんだよ。後々飲む時にノンアルばっかり残ってるの嫌だろ? だから早目にノンアルは処理しときたくて」
「ノンアルってどんな味なの? 飲んだことないのよ、少し飲ませて」
花子さんに缶を渡すと少し飲んで、
「あー、私はダメだな」
そう言って缶を俺に戻す。
「あっ!」
「ん? 花子さんどうしたの?」
花子さんはニヤニヤしながら自分の唇を指差し、
「間接キス」
「お互いそんなんでドキドキする歳じゃないでしょ」
そう言って缶に口を付けた。
本当はもの凄いドキドキしているが、からかわれるので平常を装う。
ニヤニヤしながらこちらを見てくる花子さん。
バレてるのかな?
誤魔化す為に花子さんの作ったおつまみを食べる。
「あっ、ゴマだれの掛かった焼き豆腐めちゃくちゃ旨い」
「お口にあったなら良かったわ。あと、顔が真っ赤になってるわよ?」
「そりゃ酒を飲んでるから」
「ふ~ん、それアルコール入ってたんだ。雑魚乙」
くっそハズい…
『バタン』
玄関の閉まる音が聞こえた。
夜中の二時、今日も花子さんは何処かに出掛けるようだ。
ベランダからは赤い服を着た花子さんが見える。
追い掛けるか?
…いや、止めておこう。
わざわざ寒い中、何処に向かったのかわからない花子さんを捜すのは面倒臭い。
そう、面倒臭い。
跡を着けてまで花子さんを疑う自分が嫌だから、『面倒臭い』を理由にベランダでまたタバコを吸ってから布団に戻った。
そして10件目の事件が起きた。
花子さんと朝ご飯を食べながらテレビを着けた。
「ご飯食べながらテレビって行儀悪いわよ?」
「最近この辺で事件が多発してるみたいだから気になってさ」
「ふーん」
テレビに視線を傾ける花子さん、
『またも深夜に!刺された男性は…』
「…」
テレビを無言で見つめる花子さん。
「どうかした?」
「何でもないわ。近所みたいたし、貴方も気をつけてね」
「大丈夫だよ。今日は夜7時上がりだし、夜中に出歩く事なんてそうそう無いから」
そして、
「…何でこうなった?」
あと少しで帰れる筈だったのに…
店に車が突っ込んだ。
ブレーキとアクセルを間違えた婆さんがミサイルの如く店に突っ込み、雑誌の返本をするために本棚近くに居た店長へダイレクトアタック。
ここから鬼の様な忙しさだった。
店長は急ぎ救急車で病院へ。
俺は警察への説明と店の片付け…
22時、夜勤の加藤さんが出社。
加藤さんが呟く、
「これ…今日は営業出来ないですよね?」
確かに、店長不在なうえに店が半壊なのだ、店を閉める為に本部に連絡をする。
本部からは割れた窓を段ボールで塞げば営業に支障無いとの判断を下された。
「これ…支障無いんですか?」
「レジが動いてるなら支障無いって」
「バカですね」
「バカだな」
「流石に無理だって本部に言わなかったんですか?」
「俺みたいな社畜が本部に意見出来ると思う?」
「いや、そこは言いましょうよ」
「加藤さんも社畜になればわかるよ」
「私、将来は専業主婦になりますね」
後から後悔した、確かに言えば良かった…
割れた窓を全部段ボールで塞ぎ、倒れた棚を戻し、店内に散らばったガラスの破片を片付け、商品を陳列しなおした。
時計は2時を指している。
やっと…やっと帰れる。
「けど、あと7時間後にはまた仕事か…」
社畜って辛い…
取り敢えず早く帰って寝よう。
そして家に帰る途中…
人気の無い路地で、赤い服の女に出会った。
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