第4話

『バタン』

ドアの閉まる音で目が覚めた。

多分トイレのドアだ、花子さんだろう。

しばらくすると玄関の閉まる音が聞こえた。

時計を見ると夜中二時、いわゆる丑三つ時だ。

気になりカーテンを開けベランダへ行くと外に赤い服を着た人影が見えた。

こんな時間に何処へ?

気になったのでベランダで少し待ってみたが、

「っくそ寒いな…」

タバコを3本吸い終わっても、花子さんは戻って来なかった。

酒も飲んでいたし、連続でタバコを吸ったからか少しクラクラきた。

「流石に寝るか…」

明日は仕事もあるし、朝にでも聞いてみるか。

俺は布団に戻り寝る事にした。


朝の7時半、

『ピピピピッ!ピピピピッ!』

スマホのアラームで目が覚めた。

まだ寝てたいが今日は9時から仕事だ。

「はぁ、準備するか」

シャワーを浴びる為に下へ降りると、台所からいい匂いがした。

覗いて見るとパジャマ姿の花子さんがご飯を作っている。

「花子さんおはよ」

「ん? あ、おはよ。ちょうど起こさなきゃと思ってたの」

「もしかして朝ごはん?」

「食べるでしょ?」

待たせるのは悪いので、シャワーより先に朝ごはんを頂く事にした。

「「いただきます」」

朝のメニューは目玉焼きにご飯、味噌汁に漬物。

いつも寝起きはダルく、朝はご飯が進まないのだが…

あれ? ご飯が美味しい。

「花子さん、このご飯って何で味付けされてるの?」

「ん? ああ、これよ」

花子さんが出してきたのはジッパーの付いた袋、梅昆布茶と書いてある。

「マジで予想外な物が出てきたな。梅昆布茶ってあまり飲んだことないかも」

「飲んでも美味しいのはもちろん、料理としてもバリエーション豊富なのよ。梅の酸味と昆布のダシがお米との相性抜群だし、混ぜて炊くだけだから手間も掛からないしね。私は最近、和風パスタの味付けにも使うわよ」

「ねぇ、そーゆーの何処で習うの?」

「漫画に描いてあったの、これ以外にも塩ラーメンを牛乳で作るとかあったわよ」

花子さんって漫画とか読むんだ。

そして塩ラーメンに牛乳…それは旨いのか?


味噌汁を箸で混ぜながら、気になっていた夜中の事を聞いてみる。

「そー言えば、花子さん昨日の夜中、何処かに出掛けてた?」

「ん? 昨日はあの後すぐ寝たわよ? 結構飲んでたしね。何かあったの?」

「いや、確かにお互い結構飲んでたもんな、多分勘違いだわ」

「大体、夜中の寒い時間に外になんて行かないわよ」

「そーだよね、やってる店も夜中だとコンビニくらいだし」

やっぱり俺の勘違いか。

「ごちそうさま」



シャワーを浴び、着替え、仕事に向かう準備をする。

「花子さん、仕事行ってきまーす」

「あっ、ちょっと待って」

玄関を出ようとしたところで呼び止められた。

「ん?」

「はいコレ、お弁当」

「えっ!ありがとう」

「昨日のおつまみと朝ごはんの残りだから、大した物は入ってないわ」

「それでも嬉しいよ」

「そう? なら良かったわ、気をつけて行ってらっしゃい」

「行ってきます」



職場のコンビニまでは徒歩20分位だ。

駐車場が狭い為、車じゃなく徒歩で通っている。

ある程度厚着はしてるが、寒い…


店に着いたらまずホットコーヒーを買い、外の喫煙所でタバコを吸ってから事務所へ向かう。

事務所ではバイトの加藤さんがスマホを弄りながらお茶を飲んでいた。

大学へ通いながらここでバイトをしている加藤さん、シフトが一緒になることが多いので割りと仲が良いと勝手に思っている。

「あ、おはよう」

「おはようございます、あー残念でしたね、後5分早く来てれば私の生着替えが見れましたよ」

「なるほど、俺が5分睡眠時間を削っていれば生着替えのイベントがあったのか」

加藤さんと時計を見比べる。

「…うん、睡眠時間の方が大事だな」

「ちょっ! え!? 私の生着替えたった5分の睡眠時間に負けたんですか? くそぉ…私の胸があとワンサイズ大きければ…きっと勝てたのに」

「加藤さん…ワンサイズ上がってもBでしょ?」

「それセクハラですからね? ちょうど今から警察が来るから、ついでに逮捕されてしまえばいいんです」

「警察? 何で警察がうちに? 度重なる加藤さんへのセクハラが遂に国家権力を動かした?」

「あれ? 知らないんですか? 朝のニュースでもやってましたよ? ここの近くで切り裂き事件があったって。それと、1回のセクハラでも警察と言う国家権力は動いてくれますからね?」

「あー、連続して起きてるらしいね。昨日もあったんだ」

「昨日ってか日付的には今日ですか、夜中の二時頃に刃物を持った女に切付けられたって、今回で9件目位? らしいです」

「こんな田舎で物騒な話だね」

警察が来るのは防犯カメラの映像の確認か、良くあることだ。

「犯人は赤い服を着た女だったみたいですよ。しかも噂だと姿が消えたとかって」

「消えたって?」

「何台かの防犯カメラに犯人が映ってたらしいんですけど、急に姿が消えたり、急に違うカメラに映ってたりって。刺された人も、刺してきた犯人が目の前で消えたって証言したみたいで…オバケの仕業じゃないかって」





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