第2話
小学生二年生の夏休み、お婆ちゃんの家に泊まりに来た俺は、カブトムシを探しに家の後ろにある雑木林に入り、ある建物を見つけた。
今は誰も通っていない小学校。
窓ガラスは割れ、壁にはスプレーで落書きもされている。
そんな小学校の入り口に人影が見えた。
赤い服を着た女の子。
まだ『怖い』を理解していなかった俺はその女の子を追いかけた。
迷惑なトイレでの再会を果たした俺は花子さんを連れて部屋へ。
「酒臭いと思ってたら、結構飲んでたのね」
「誰かさんのせいで一気に酔いが覚めたけどな」
花子さんは酒の入った段ボールを指差し、
「ねぇ、こんなにあるなら私も1本良いかしら?」
「別に構わないよ、何なら半分位持っていってよ」
「飲む時はここに飲みに来るから大丈夫よ。1人で飲んでもつまらないし」
花子さんは缶を手に取り畳んである布団を椅子がわりに座ると、
『カシュッ』
「ごくっ、ごくっ、ごくっ」
ビールを一気飲みする。
「くはぁっ!生き返るぅ」
もう死んでるのに?
「あ、乾杯しなかったわね。ほら乾杯しましょ乾杯」
「さっき飲んだからもう入らないよ」
「少し位良いじゃない。その歳で空気読めない男はモテないわよ?」
「空気読んでもモテないから読まなくなったんだよ。…ったくしゃーないな」
一番アルコール度数の低いお酒を選ぶ。
俺は花子さんの隣に座り、
『カシュッ』
「ほら」
「ありがと。じゃあ、久しぶりの再会を祝して」
「「乾杯」」
「3年振り位になるかしら?」
「あー、婆さんの葬式の時に会ったのが最後だからその位かな」
「全く来ないからもう会えないかと思ったわよ。またすぐに会いに来るって言ったくせに…私からは会いに行けないんだからね?」
花子さんは取り憑いている廃校から2~3キロしか離れられないらしい。
「ごめんごめん、本当はもっと早く来たかったけど色々あってさ。妹を1人で家に残せないし」
親は出張が多く、妹の高校卒業まで家を出れなかった。
「シスコンなのね」
「違うわ」
「ねぇ、おつまみは無いの?」
「ここまで飲むつもり無かったからつまみもお菓子も準備してないよ。時間が時間だし飯にする? ご飯なら炊いてあるし」
「材料有るなら私が作るわよ?」
「花子さん料理出来たんだ?」
「私昭和12年頃から怪異として生きてるもの、料理位出来るわよ」
「え? 昭和12年? …ってことは花子さんの年齢って…」
『ズシャッ!』
先ほど花子さんが持っていた大きな出刃包丁が、俺の持っていたお酒の缶を一閃。
横に真っ二つになった缶、飲み口が広くなった。
「飲みやすくなったでしょ?」
「はい…なんかごめんなさい」
「女性に年齢の話するのはマナー違反よ」
「自分から言ったんじゃん…」
「口答えしない、ったく…それじゃあ台所借りるわよ」
「はい、出来たわよ」
20分後、花子さんが台所から運んで来たのは、焼き鳥とお粥とポテトサラダ。
焼き鳥は圧力鍋で柔らかく煮てからフライパンで焼き、味付けは砂糖とめんつゆとレモン。
お粥は鳥の煮汁で味付けされた鶏粥。
ポテトサラダは刻んだ沢庵が入っていて、食感が良い。
「花子さん、コレめっちゃ旨いわ」
「でしょ?」
「めちゃくちゃ酒も進むわ」
「それじゃあ仕切り直しで」
「「乾杯」」
「結構飲んでたわね」
時刻は22時半。
「もうこんな時間か、送ってくよ」
「別にすぐそこだから良いわよ、子供じゃないんだし」
「ならそこまで」
部屋を出てところで、
「ここで良いわよ、寒いし」
「わかった。じゃあまた、気をつけて」
「ん、またね」
『バタン』
そう言って花子さんは二階のトイレに入って行った。
「…ん?」
何で?
「おい、ちょっと待て!」
『ガチャッ!』
「ちょっ! 人が入ってるんだから、ノック位しなさいよ! マナーよ?!」
「何で帰るって言ってうちのトイレに入るんだよ!? 花子さんが帰る場所は裏の廃校のトイレだろ?!」
「…私も今日からここに住むもの」
「はい?」
「だから! 私も今日からここに住むの!」
「いやいやなんで?! 裏の廃校は?」
「…3日前に解体されたわよ!」
「え? 解体? 学校が?」
「そうよ! トイレのドアがノックされたから脅かす為に飛び出したら、ショベルカーよ!ショベルカー!! 私が驚かされたわよ! 不良の溜まり場になってるとか崩れる危険性があるとか…不良なんて脅かしまくったから近寄らないし、学校は建物診断をしにヌリカベが年に2回来てるわよ!そもそも今まで何年もほっておいたのに、今更解体する?! 便座カバーとマットを新調したばかりだったに! アイツ等全員未来永劫トイレに入ったら紙が切れてる呪いを掛けてやる!」
地味だけど嫌な呪いだな…
「それで何でうちに?」
「廃校から一番近かったし、他に人間の知り合い居ないし、私住む所が無いと存在出来ないし…ね? お願い」
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