隣の廃校からトイレの花子さんが引っ越して来た

叉焼

第1話

赤い服の少女は呟く、

「ひひひっ…やっと来た…やっと、やっと…ひひひひひひっひひっあははっ……み~つけたぁ」




祖母が亡くなり空家になった家がある。

売りに出すとの話がでたが、幼少の頃を過ごした、思い出のあるこの家を手放すのは少し寂しく、それならばとここで1人暮らしをする事にした。

引っ越して2日目。

まずは二階、寝室の片付けから。

まだ辺りに封の開いてない段ボールが散乱している。


『次のニュースは、また深夜にナイフの様な物で切付け…』

作業用BGMとして着けているテレビからは、女性が切付けられたニュースが流れていた。

「ん?ここの近くなんだ」

見覚えのある景色が映し出されていた。

普段テレビを見ないから知らなかったが、今回で同様の事件が8件目らしい。

「って早く片付けなきゃな」

作業用BGMとして着けているテレビなのに、気になるニュースの度に手が止まり、一向に作業が進まない。


「よいしょっと」

近くの段ボールを持ち上げると、予想以上に重かった。

あれ? こんなに重い物なんて何かあったっけ?

「あー、これ店から貰ったやつか」

段ボールの中身は大量の酒だった。

職場のコンビニで、凹んで売りに出せない缶ビールやチューハイを、引っ越し祝いにと冗談でくれたのだ。

その本数ざっと30本、触ると冬の寒さでキンキンに冷えている。

んー、少しだけ…

自分でも分かってる。

少しで終わらないって…


やっぱり少しで終わらなかった。

飲みすぎた…ぎもぢわるい…

段ボールの上には空になったチューハイの缶が8本並んでいる。

空きっ腹に飲んだせいだろうか…

…吐きそう…

ここで吐くわけにはいかない、取り敢えずトイレに…

トイレは部屋を出たらすぐだ。


部屋のドアを開けると廊下は既に暗くなっていた。

時刻は夕方の5時位だろうか、日の光が入らず、やけに暗く感じる廊下。

背筋が冬の寒さ以上にひんやりとした。

なんだか少し不気味さを感じる…

本来なら電気を着ける距離でもないのなだが…明かりが欲しかった。

『カチッ』『カチッ』『カチカチカチッ』

何でだ? いくらスイッチを押しても電気が着かない。

昨日は普通に着いていたに…そして、

「あれ?」

もう一つ異変に気付いた。

廊下の先を見ると何故か1ヵ所だけ明かりが漏れている場所がある、トイレだ。

消し忘れた? いや、二階のトイレはまだ1回も使用していない筈…

恐る恐る近づく。


『ミシィ…ミシィ…』


静寂に包まれた廊下、自分の足音だけが響き、その音さえ恐怖を掻き立てる。


さっきから誰かに見られている気がする…

振り返るがそこには勿論誰も居ない。

「気にしすぎかな」


トイレに着いた。


『ギィィー』


ゆっくりとドアを開ける。

ドアが開くに連れ、明かりが広がり辺りを照らす。

明かりに安堵するも、広がる明かりは周りの異様さを映し出していった。

トイレから廊下に向かって赤い何かが染み出ているのだ。

「え?」

ドアを開けたトイレの中は…人を何人も刺し殺したかの様に、辺り一面が真っ赤に染まっていた。

「ひっ!」

天井からも滴る赤い液体…

その光景を目の当たりにして後退りした。

何が起きてるのかは分からないが、これだけは分かる、ここに居ちゃいけない。

逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ…

分かってはいるが…恐怖で足が動かない。

早く…逃げなきゃ…ここから出なきゃ…



「ねぇ、どこ…に、行く…の?」

耳元で声がする。

急いで振り返るが、そこには誰も居ない。

そしてまた声が聞こえた。

「ひ…ひひっ、みぃつけた…みぃつけた…ひひ、みぃつけた……見つけた」

声のした方を向く、さっきまで居た部屋の前に、真っ赤なワンピースに大きな出刃包丁を持った高校生位の少女が立っていた。


「ひ…ひひっ、ひひひ、ひゃはははははっ」

辺りに不気味な笑い声が響く。


彼女の持つ包丁からは、『ピチャッ、ピチャッ』と、赤い何かが滴り、小さな水溜まりを作っていた。

ゆっくり、ゆっくりと揺れながら近づいてくる少女、俺を見据えたままゆっくりと、笑いながら包丁を振り上げ…


「へっ? きゃっ!?」


盛大にすっ転んだ。

どうやら床に出来た赤い水溜まりで滑った様だ。

そのままこちらに倒れてくる。

「ちょっ!?うわっ!」

咄嗟に少女を受け止めたが、その勢いで一緒に後ろに倒れてしまった。

顔を上げると間近に少女の顔がある。

少女は赤面しながら呟いた。


「ひ…久しぶり…」


「…花子さん久しぶり…ところでうちのトイレで何してんの?」

「いや、久しぶりに会うから盛大なお出迎え? しようかと思って」

「普通にお出迎えしてもらえない? チビりそうだったんだけど」

「『トイレの花子さん』としてはこれが普通よ?」

彼女は裏山の廃校に取り憑く学校の七不思議、トイレの花子さん。

多分幼馴染み。

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