第16話 最後の晩餐

 昨日のショックからか私は貴重な時間を無為に過ごした。夜に響子にあうまでずっと動画をだらだらと再生したり、昔好きだったアニメを一気見していると当然ながら時間はすぎて、響子との待ち合わせの時間が近づく。

 私はパーカーにロングのスカートというスタイルで梅田駅に向かう。

 駅の改札口をでて阪神百貨店の地下入り口にいくとそこには黒いパンツスーツを着た絶世の美女が立っていた。周囲の行き交う人々がその美女は一度は見ていく。

 そう、その絶世の美女こそ私の親友の月影響子であった。

 響子は私をみつけるとかけよる。

「来てくれてよかったわ。私も月ちゃんにはなしたいことができたのよ」

 響子は言う。


 私たちはルクアの地下にあるバルに向かう。そこは大人向けの飲食店が数多く並んでいる。響子と一緒でなければこんなリア充がいっぱいいそうな場所にはでかけない。一人のときは吉野家や松屋ですますのが常だ。いや、吉野家とかを悪く言う気はないんだけどね。

 響子が選んだのはワインが有名なフレンチのお店だった。フレンチなんて誰かの結婚式いらいだわ。今日は響子のおごりだというので盛大に食べてやろうと思う。最悪、これが最後の晩餐になるかもしれないから。


 響子が赤ワインと肉料理、フライ、サラダを適当に注文してくれる。お酒の飲めない私はオレンジジュースを頼む。響子のおすすめなだけあって、料理はすべて美味しかった。これがこの世で食べる最後の料理になるかと思うと感慨深いものがあった。

 私は昨日知ったことを響子に話す。

 ひとしきり私の話をきいたあと、響子は赤ワインをくいっと一杯あける。そのあと、彼女は白ワインをもう一杯頼む。けっこ飲んでるけど、響子の顔色は一切かわらない。

「けっこ重い話だわね。でも月ちゃんは自分を嫌いにならないでね」

 そう言い、響子は私の手をそっと握る。

 その白い手はすべすべとして心地よく、温かかった。それに響子に手をにぎられると心がどこか落ち着くような気がした。

「誰が親でも月ちゃんは私の大事な友達なんだから……」

 響子は言った。

「ありがとう、響子」

 私は言う。

 響子のその言葉を聞き、私はどうにか心の平静をとりもどすことができそうだった。


「今度は私が報告するね。まずはあの江戸川麻美子を殺害したストーカーなんだけど、昨夜、いや今日の早朝ね。留置場で自殺しているのを発見されたわ」

 響子は言い、私にネット記事が映し出されたタブレットを見せる。

 そこには蛇原純一という青年が神戸の留置所で首をつって死んでいるのが発見されたというものだった。

「こっからは私の推測なんだけど月ちゃんが参加させられているデスゲームの参加者は皆死者であるということなのよね」

 白ワインを一口飲み、響子は言う。私は赤身のステーキを食べながら、話を聞く。

「そのようね……」

 私はそしゃくしたステーキを飲み込む。

「ということはどんなデスゲームなのかはわからないけど、この男がそのゲームにはいってくる確率があるということね。ちなみに……」

 そこで響子は言葉を区切る。

「ねえ、月ちゃんの過去のことだから、聞きたくないのならやめとくけどどうする?」

 響子はじっと黒曜石のような美しい瞳で私をみつめる。女優なんかよりもきれいな瞳と顔。

 過去のこととはきっと私が昔住んでいたあのアパートで男に襲われたことだろう。

 私はこくりとうなずく。

 それを見て、うんっと響子も頷く。

「昔、月ちゃんに酷いことをした猿渡常彦という男なんだけど、この男は二日前に警察病院で病死していたわ」

 響子は言った。

 私を襲ったあの犯人はいくつかの犯罪を行っており、刑務所を出たり入ったしていたという。強盗の容疑で逮捕された猿渡という男はとある病気を患っており、逮捕後、病気が悪化してこの世を去ったという。

 私にひどいことをしたあの男が病死なんて腹立たしい。もっともむごたらしい目にあって死んだらいいのに。


 大丈夫だ。やつはあの世界に俺が真っ二つにしたじゃないか。

 私に脳内に夢食み獏の声がする。

 これは仮定の話だが、あの悪魔バルギルバルが作り出した世界には死者だけが参加できるとして、あの化け猿が猿渡ではなかったのだろうか。悪魔バルギルバルが配下としてその猿渡を操っていたのだろう。

 私はその考えを響子に話す。響子も同じ意見だった。

 それにしても猿渡だから、化け猿なのか。

 なんかダジャレみたい。


「そうね、それは理にかなっているわね。私もそう思うわ。だから導き出される答えはその蛇原純一という男が次にデスゲームになんらかの関与をするとみていいわね。まずもって敵になると見ていいわ」

 響子は言った。

 そのあと、私たちはおおいに飲み食いし、別れた。

「月ちゃん、絶対にあきらめちゃだめよ。私がついてるから」

 響子は言い。私を抱きしめた。頬に感じる響子の巨乳は柔らかで温かかった。


 

 帰宅した私あてに一通の封書が届いていた。

 消印も無ければ、切手も貼られていない。

 裏側に親愛なる悪魔よりと書かれていた。

 まったくなんの冗談だか……。

 それをあけ、中身を確認する。


 私の雨野月子様、つかの間の休日をたのしめましたか。明日、大阪城公園にてヴァルプルギスの夜を開催したいと思います。つきましては貴女の参加を心よりお待ちしております。あなたの悪魔、遊興をつかさどるバルギルバルより。


 どうせ行かなければ、死んでしまうのでしょう。なによ、強制しておいて。

 私は机の引き出しにその封筒の中身の便箋をぶちこんだ。

   

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