第15話悪魔博士との対話
壁にかけてある時計を見ると時刻は午後六時を少しまわっている。
どうりでお腹がすくはずだ。
私は夕ごはんを買いにスーパーに出かける。
適当に割り引きされた惣菜とコーラを買い込み、私は自宅に帰る。
コーラは私の好物だ。
スマホを見ると響子からのメッセージが届いている。
明日の夕食は響子がご馳走してくれるという。さて、最後の晩餐は何にするかな。梅田の地下バルでなにかお洒落なディナーでもおごってもらおうかな。
夕ごはんをすませた私はスマホを使い調べものをする。
まずは悪魔バルギルバルを検索してみる。案の定、めぼしい情報はえられない。
どうやらそんな悪魔はいわゆる伝説や伝承には登場しないようだ。
だが、やつは実在する。
私の体にはやつの指の冷たい感触が残っている。
そういえば。
私はあることを思いだした。
それは悪魔博士と名乗るTwitterのアカウントの存在だ。ずいぶん前に創作の助けになればとフォローしていたのだ。
ためしに悪魔博士にダイレクトメールを送ってみる。
「悪魔バルギルバルという者をご存知ですか?」
とである。
テレビでサブスクのアニメを見ていると悪魔博士からの返信があった。
悪魔博士。
「申し訳ないが、存じあげません。しかし、悪魔の総数は七百四十万以上と言われています。そのなかにいるかもしれませんね」
それが悪魔博士からの返信だった。
そう言えばあの悪魔は私の知り合いかもしれないと響子が推測していた。
「人間が悪魔になることはありえますか?」
今度はそう質問してみる。
悪魔博士。
「十分ありえます。1970年代に悪魔となったヒトラーにとりつかれ女性が存在しました。彼女はバチカンから派遣されたエクソシストによって救われましたが、その後病死しました。一説にはひどい精神病を患っていたと言われています」
それが返信だった。
私はありがとうございますとかえす。
伝説や伝承、神話には登場しないが実在の人物があの悪魔となった可能性があるというわけだ。
ということはその人間を探しだせば、宿敵である悪魔バルギルバルの正体に近付けるということだ。
やつは私のことを姉さんといった。
だが、私は母子家庭で育った一人っ子だ。
父親の名前も知らない。
子供のころ、母親に何度か聞いたことがあるが、決して教えてくれなかった。
今思うとどうして教えてくれなかったのだろうか?
何かしらの理由があるのだろうか。
私はためしに母親の名前を検索してみた。出てきたのは同名の陸上選手がとある大会で入賞したという記事だけだった。
そう言えば、母親はとある老夫婦の養子になり、姓がかわったと言っていた。
次に旧姓である
そして出てきた新聞記事に私は我が眼をうたがった。
それは二十歳になる大学生の斉藤楓が一年間監禁されたのち、保護されたというものであった。そしてその一年間もの間監禁された斉藤楓は発見されたときには妊娠していて、すでに臨月であったというのだ。
私は恐る恐るそのネットにのせられた記事を拡大する。
心のどこかにこの斉藤楓という人物が母親でないことを祈る。しかし、それは無駄だった。
その記事にのっていた写真は若き日の母親であった。
私は思わず、吐き気を覚える。先ほど食べたものが逆流しそうだ。
その母親が発見保護された日時は私の誕生日の二十日前であった。
ということは発見保護されたときにお腹にいたのが、私ということだ。
この記事から推測されるのは私は母親を監禁した犯人の子だということだ。
母親が決して父親のことを話さなかったのはきっとこのためだろう。
私は母親が若いときにまきこまれた監禁事件の犯人の子なのだ。
発見時、すでに臨月であったため、堕胎されずにすんだのだろう。
もしかするとその時の心労がたたって若くして死んだのだろう。三十五歳なんて死ぬには早すぎる。
私はこの事件をネットで調べてみた。出てくるのはどれも同じような記事ばかりだ。行方不明になっていた女子大生が一年ぶりに発見され、しかも妊娠までしていたというものだ。どんなに探しても母親を監禁した犯人は出てこない。その犯人は逮捕されていないのだ。
ということはこの世界のどこかで犯人が生きている可能性は高い。そしてその犯人が私の父親であるかも知れないのだ。いや、希望的なことは言うまい。
その犯人こそが私の父親なのだ。
私は震える体を引きずり、熱いシャワーを浴びる。適当に体をふき、髪をかわかし、ベッドに横になる。
完全にあたまが混乱している。
死神がくれたタイムリミットまではまだ少し時間がある。響子に相談しよう。
私は無理矢理眠ることにした。
疲れが残っていたのか、ショックが大きすぎたのか、案外すんなり眠ることができた。
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