第13話 束の間の休日
形のいい顎に指先をあて、真剣な面持ちで響子は私の話をきく。
「ということは明後日には月ちゃんはまたその悪魔のデスゲームに参加しなくてはいけないのね」
響子は眉根をよせ、そう言った。
考える姿も絵になる絶世の美女月影響子である。
どうやら響子は私の荒唐無稽な話を信じてくれたようだ。
「ありがとう、響子信じてくれて」
私は親友に言う。
「だってほら、これ月ちゃんの上着に入っていたから」
響子はその白い手に乗せられた四枚のカードを見せる。クレジットカードよりも一回りおおきなそのカードには神宮寺那由多、渡辺学、水無月真珠、夢食み獏がそれぞれデザインされていた。これはまちがいなくイマジンカードだ。
私はそれを受け取る。
「これって月ちゃんの小説に出てくるキャラクターよね」
響子は言う。
「これがあるってことは月ちゃんの話は真実だと私は信じるわよ」
と響子はつけたした。
とそこで私のお腹が盛大に存在を証明するために音をぐうっと鳴らした。いくら気心のしれた親友とはいえ、これは恥ずかしい。
「なにか食べに行きましょうか」
響子は言い、私に着替えの入った紙袋を手渡す。そそくさと私はその紙袋に入った服に着替える。着替えはパーカーとデニムのパンツだった。それに着替えて、私たちは病院を抜け出す。本来は検査やらなにやらを受けないといけないのだが、時間が惜しい。
病院を抜け出した私たちはなんばシティにあるコメダ珈琲に入った。私は好物のたまごサンドとカフェオレを注文する。このたまごのボリュームがいいんだよね。響子はアイスコーヒーを注文する。
すぐにメニュウーが運ばれる。私はたまごサンドにかぶりつく。うーんこの卵の甘さと柔らかさがたまらない。
「ねえ、見て」
と言い、響子は私にスマフォの画面を見せる。
そこにはとある事件の記事がのっていた。
それは神戸で三十代前半の女性が自宅マンションで刺殺されたという記事だった。彼女は長年つきまとっていたストーカーの男性によって殺害された。その犯人であるストーカー男は血みどろのナイフをもったまま道を歩いていたところを巡回中の警察官に逮捕されたという。そして殺害された女性の名を
そう、あの
「江戸沢麻美子こと戸沢麻美さんがなくなったのは昨日の午前中。月ちゃんが階段から落ちる少し前ね」
響子はすっとアイスコーヒーを飲む。まるでCMをみているかのように絵になる姿だ。だが響子はその美貌がありながら、タレントやモデルなどのの仕事はしていない。彼女の職業は弁護士だった。美人で頭脳明晰なのが月影響子なのである。
「かわいそうな江戸沢先生……」
私はこうして一時的にではあるが現実世界に帰ってこれた。しかし、江戸沢麻美子こと戸沢麻美はもうこの世に人ではない。
「ところで月ちゃんの話で気になったことがあるんだけど」
月影響子は言った。
彼女が気になることとは何だろう。
「その悪魔バルギルバルは月ちゃんのことをお姉さんっていったのよね」
月影響子はまたすっとアイスコーヒーを一口飲む。
そういえばそんなことを言っていたわね。まあ、他人でもお姉さんなんて呼ぶことがあるから、それほど気にしていなかったけど。
「これは月ちゃんがその悪魔の本当の姉だという可能性がまったくないわけではないと思うのよね。そのデスゲームに参加する条件は一度死んだものだと私は思うの。つまり月ちゃんは何者かによって階段から突き落とされた。そしてそれはそのゲームに強制的に参加させるため。その犯人は月ちゃんの弟であり、階段から落とした人物であり、悪魔バルギルバルの正体であるかもしれないと私は思うのよね」
そこまで言うと響子は残りのアイスコーヒーをすべて飲み干した。
その響子の推理はもしかすると考えすぎかもしれない。だが、その可能性を捨て去ることは私にはできなかった。だが、私は母子家庭に育った一人っ子だ。弟がいたなんていう話は聞いたことがない。本来なら母親に聞くべきなんだが、母親は十二年前に病死してしまっている。
「母親が違うのかもしれないわね。ねえ、でも月ちゃんはお父さんのことは知らないのよね」
響子が推理し、そういう。
私の父親がどこでどうしているのか全く知らない。物心ついたときから、私には家族は母親しかいなかった。そしてその母親はもうこの世にはいない。
「まあ、そっちは私がつてをつかって探ってみるわ。月ちゃんは水無月真珠との絆をふかめるために創作に勤しんでよ。時間が限られているから、どこまでできるかわからないけどね」
響子はそういった。
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