第12話 死神が提示した条件

 赤い髪の死神は私を見る。ふっと少女のような笑みを浮かべる。

 女優顔負けのきれいな笑みだ。

「私のことを恨むかね」

 しっとりとした声で死神は言う。


「ええ、心底むかつくわよ」

 私は答えた。

 何回も死にかけたのだから、恨み言の百や二百は言いたい。那由多や渡辺学、真珠、夢食み獏がいなかったら確実に死んでいた。


「私たち死神は魂を輪廻の輪に導くために存在する。それ以下でも以上でもない。まずそのことを理解していただこう」

 死神エルザは言う。

 腹がたって、頭に血がのぼっているが無理矢理に理解することにした。


作者マスターが怒るのも無理ないわ」

 私立探偵の神宮寺那由多も同意してくれる。


「私はあの悪魔がとらえた魂を取り戻すには、かの者がだした条件をのむしかなかったの。悪意から産まれたあの者には、死神ですら敵わなかったの。私にできるのは死者の魂に想像し創造する力をあたえることだけ……」

 自虐的な口調で死神エルザは言った。


「エルザさん、あの悪魔は三つの魂をとらえたといってたわね」

 私は言う。

 ということはあのへ泥につつまれていたかわいそうな少女をふくめ、あと二人いるということか。


「そう、その通り。あと二人の魂を取り戻してくれれば、あなたを生き返らせてあげるわ。それぐらいは私の裁量でできるからね」

 死神エルザは言った。


「あの……江戸沢麻美子はどうなるのですか?」

 水無月真珠がきく。

 彼女としても気になるところなのだろう。

 でもなんとなくだが、死神が言う答えを私はわかったような気がする。

「その者はすでに魂の輪廻の輪にとりこまれた。もう生き返る術はない」

 死神は下をむき、そう言った。

 真珠は私の腕をいたいほどぎゅっと握る。

 やはり私が想像していた通りだ。

 悪魔バルギルバルのゲームに参加し、クリアすれば死神が特典として生き返らせてくれる。だが、失敗すれば完全なる死がまっているというわけだ。


「はじめのゲームをクリアした君にはクリアボーナスとして四十八時間だけ現実世界にもどることができる。そこでのすごしかたは君次第だ。有効につかうのだ、そして悪魔のゲームすべてクリアしてほしい」

 死神エルザは私の顔にそっと手をあてる。死神なのにその手は温かで心地良いものだった。

 そして、視界が真っ暗になる。



 つぎにまぶたを開けたとき、最初に視界に入ったのは茶色の天井だった。

「知らない天井……」

 これ一度言ってみたかった台詞なのよね。


「月ちゃん!!目が覚めたのね!!」

 このかわいい声は聞き覚えがある。

 私の唯一にして最高の親友の声。天涯孤独の私にとって、彼女は家族にも等しい存在である。

 その声の主はベッドに寝ている私の顔をのぞきこむ。

 その声の主の顔は呼吸をするのも忘れるぐらいに美しい。

 それにスタイルも抜群だ。

 身長百八十センチメートルのJカップ。そしてウエストは私の頭の周囲ぐらいという驚愕のスタイルをしている。

 その証拠に私の目の前に山のようなおっぱいがぶら下がっている。

 同性ながら惚れ惚れするわ。

「響子……」

 私は彼女の名前を呼ぶ。

 涙目で響子は頷く。彼女の名前は月影響子。最強無敵がこの月影響子につけられた二つ名である。

「響子、今は何月何日?」

 私はきく。そういえば右腕に違和感がある。どうやら点滴がつながっているようだ。

「五月××日よ」

 響子は言った。

 響子が言った日付は私が難波に買い物にでかけた次の日だ。

 彼女が言うにはあの難波駅の大階段から落下した私は、意識を失い、一時は脳死の危険もあったという。そして私はすぐ近くの富永病院に運ばれ、緊急入院したという。そういえば体のあちこちが痛いわ。

「よかったわ月ちゃん……」

 そういい、超絶美形の顔を近づける。両手で私の顔をはさむ。息がふれあうほど顔が近い。

「ちょっと響子、近いんだけど……」

 親友ながらこんなに近いと照れてしまう。

「あら、ごめんなさい。もう目が覚めないと思ってたからうれしくてキスしたくなっちゃった」

 てへっときれいな笑みを浮かべて響子は言う。まったくどこまで本気かわからない。時々、こういう百合っ気をだすんだから。


「響子、相談があるんだけど」

 私は親友に言う。

 私は、我が身におこった出来事を一部始終話した。

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