第10話最上段に立つ者
私は最上段に立つ者をにらみつける。私の視力ではまだぼんやりとしていて、その全容がつかめない。
どうやってあそこまで行けばいいのか。
夢食み獏を新たに仲間にできたが、中間地点に戻ってきただけだ。
いったり来たりの繰り返しだな。
私はうんざりする。
「
獏は言い、ズボンのポケットからたばこをとりだす。しんせいの一本をくわえる。またもやたばこに自動的に火がつく。いったいぜんたい、どういう仕組みになっているのか。
獏は大きくたばこを吸う。ふーと階段めがけて白い煙をはく。
するとどうだろうか、たばこの煙がべったりと階段に張りつく。張りついた煙はジグザグになっていて、最上段までつながっている。
「これが安全なルートのようだな」
獏は言い、ぽいっと吸い殻を捨てる。たばこの吸い殻は階段に当たる前に何処へともなく消える。意外とエコなのかも。
獏がいなければ安全なルートがわかるまであの悪夢の世界に何度も落ちないといけなかったというわけか。
このデスゲームを考えた者の性格の悪さがうかがえる。
まず先に渡辺司が階段に足をかける。階段にへばりついた煙のあとは人ひとりが歩ける分の幅がある。
もしそこから落ちたら、またあの大猿の化け物がいたような世界に落とされるかもしれない。
「
ちらりと振り向き、渡辺学が言う。
渡辺学の次に神宮寺那由多が歩く。
「さあ、
すっと神宮寺那由多は私に右手を差し出す。私はその手を握り、神宮寺那由多のあとを歩く。
「じゃあ、
水無月真珠は言い、私の直ぐあとに続く。
「ではしんがりは俺がつとめよう。
夢食み獏は忠告する。
そう言われると緊張するな。
それを察してか一番前を行く渡辺司は鬼切り丸の柄に手をあてながら、一歩一歩慎重に確実に階段を登る。
私は神宮寺那由多に手を引かれながら、一段一段と上がっていく。
なんと言うことはない階段も足を踏み外せば強制的にあの悪夢のような世界に落とされるかと考えると、緊張と恐怖で足が震える。
ごくりと生唾を飲み込みながら、私は階段を上がる。
しかも煙のあとはまっすぐではなくジグザグについているので、かなり骨が折れる。今度は足が恐怖ではなく、疲労で震えてくる。
ここでも日頃の運動不足が悔やまれる。
そしてついに、とうとう私たちは最上段にたどり着いた。
パチパチッと拍手の音がする。
南海難波駅の大階段を登りきった私たちをそいつは拍手で出迎えた。
額に浮かぶ汗をぬぐい、私は拍手をした人物を見る。
黒いコートを着ている、端正な顔だちの男性だ。たぶんだけど男性だと思う。その容貌は中性的で優しげなのであまり自信はない。すらりと背が高く、ほっそりとした体型をしている。
その男と思われる人物は美しく優しげな容貌とは裏腹に、明らかにまがまがしい空気をその身にまとっている。
「
私の身を守るように渡辺司が左前方に立つ。
「そのようだ
夢食み獏が言い、右手前方に立つ。
「さしずめ
その男は私の前に立つ二人を交互に見て、そう言う。
神宮寺那由多は左横に立ち、水無月真珠は右横に立つ。
全員が目の前のたった一人に全意識を集中させ、警戒している。
「ということはそちらのお嬢様がたが
その男は訳のわからないことを言う。
この場になぜチェスが関係するのだ。
それにこのくそったれの階段を登るデスゲームがじゃんけんで階段を登るのあのグミチョコパインの変化系だとでもいうのか。
だとしたら、とんでもない悪趣味だ。
「悪趣味、けっこうけっこう。褒め言葉として受け取っておこう。そうだ名乗りおくれたね、私は遊戯の悪魔バルギルバルという。どうぞお見知りおき……」
バルギルバルと名乗った男は芝居がかった口調で名乗り、舞台俳優のように右手を腹部にあて、深く頭を下げる。
悪魔バルギルバル。たしかその名前はあの大猿の化け物が口にしていたはず。
その時、私と悪魔バルギルバルの間に光の十字架が刻まれる。
その光の中から何者かがあらわれる。
背の高い、赤い髪の女性だ。かなりグラマーな女性でアロハシャツの胸元からは深い肉の谷間が見える。
「死神エルザのおでましか。どうやら役者はそろったようだね」
悪魔バルギルバルは不敵な笑みを浮かべる。
「悪魔バルギルバル、さあ契約に従って囚われた魂を解放しなさい」
きつい口調で赤い髪のグラマー美女は言う。女の私から見ても惚れ惚れするほどおっぱいが大きい。
おっと死神と呼ばれた女性の巨乳に感心している場合ではない。
どうやら核心にふれる会話を二人はしている。
「そうですね、そのような契約でした。私も楽しいものを見せてもらいました。三つの魂のうちの一つを解放して差し上げましょう」
悪魔バルギルバルはそう言った。
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