第7話思い出の牢獄

「ママッ!!ママッ!!」

幼い私は怖い夢を見たので、仕事から帰ってきた母親に抱きついた。私の母親の身体からは酒と化粧の匂いがする。

あまり好きな匂いではなかったが、怖い夢を見た私はそんな匂いのことなど気にせずに、母親の柔らかで温かい身体に抱きついた。

母親に頭をなでられ、心から安心する。

「怖い夢をみたら夢食みさんにお願いしなさい。怖い夢を食べてくださいって」

母親はそう言った。

それ以来、私は怖い夢をみなくなった。



作者マスター、しっかりしてください」

誰かが私の肩を揺さぶる。

この声は先ほど仲間になったばかりの水無月真珠のものだ。

私は目を覚まして、真珠の端正な顔を見る。正真正銘のお嬢様の美しい顔だ。しかも身体はむっちりとエロい。さすがは成人男性むけ同人漫画家の江戸沢麻美子先生がデザインしただけのことはある。セクシー女優顔向けのエロい体をしている。


「なんか昔の夢を見ていたわ。ところでここはどこかしら」

私は周囲を見渡す。

階段を上がろうとして、闇の底無し沼に沈み、どこに落ちたのだろうか。

どうやらとある部屋にいるようだ。

八畳ほどのダイニングキッチン。つくりはかなり古い。置かれている電化製品も旧式のものがおおい。

「どなたかのマンションの1室のようですね」

真珠は言う。


この部屋見覚えがある。

それにこの部屋の独特の匂い。湿っぽくて嫌な匂い。私が中学生になるまで母親と住んでいたアパートの一室だ。この築年数の古いアパートに私は母親と二人で住んでいた。父親は物心ついたころにはもういなかった。


「ここって昔私が住んでいた部屋なんだけど」

私が真珠に言う。

「ここが作者マスターの実家なのですか」

真珠が言う。

私は彼女の言葉に首をふる。

「私たちが住んでいたアパートはずいぶん前に取り壊されたわ」

私は言う。

私の住んでいたアパートがあったところは今では大型のショッピングモールが建っている。

私には実家というか故郷なんてものはない。

しかし、この部屋寸分狂うことなく、私が以前住んでいたアパートにそっくりだ。

どうしてこんなところに落ちてしまったのか。


ガンッ!!ガンッ!!


誰かが無理矢理ドアを叩く音がする。


作者マスター誰かいるようです」

警戒しながら、水無月真珠は私の前に立ち、愛用の超硬質セラミックのサーベルを持ち、身構える。


ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!


おそらくだが、それは玄関を外から叩いている音だ。

その音を聞き、私は言い様のない恐怖に体が支配された。

体が勝手に震えだす。

どうしてだかわからないが、私は以前こんな音をきいたことがある。


ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!がチャリ!!


それはきっとドアチェーンが切れた音だ。私の体に吐きそうになるぐらいの恐怖が襲う。

作者マスター気をしっかりもってください。あなては必ず私がお守りします」

水無月真珠が頼りになることを言ってくれる。その言葉を聞いても私の体には言い様のない恐怖が襲い、立っているのもやっとの状態になる。



「ずいぶん待ったぞ。おまえがこっちにやってくるのを。悪魔バルキルバルの言う通りだったな」

ドアを壊してこの部屋に入ってきた物が言った。

そいつは絵に描いたような怪物だった。

背は高く、頭の頂点が天井についている。全身が真っ黒な毛でおおわれていた。顔は人ではなく、猿だった。濁った金色の瞳でじっと私を見ている。

赤くて長い舌で唇のまわりをなめるとニヤリと下品な笑みを浮かべている。

「おまえをたっぷりと犯し尽くしたあと、髪の毛や爪まで残さず食らってやるわ」

グフフッと喉の奥からだすような笑いをその化け物はする。


「そのようなこと決して許すわけにはいかぬ」

サーベルを鞘から抜き、それを水無月真珠は正面にかまえた。

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