第6話デスゲームの犠牲者
制服美少女に膝枕されている女性を見る。いたるところに切られた傷があり、特に下腹部に開けられた大きな傷からは、血がだらだらと流れている。
細い目の女性は顔色がものすごく悪い。唇は紫色をしていて、体がかすかに震え続けている。
たぶんだけどこの人、そう長くはもたない。
この状況で私は何もすることができない。
おそらくだけどこの人は私よりも先にこのゲームにチャレンジを余儀なくされ、傷だらけでここまでたどり着いたけど力つきようとしているということだろう。
私はその女性に近づき、手を握る。手が氷のように冷たい。
「しっかりしてください」
私は言う。できるのは励ますことぐらい。
「私はもうだめみたい。生き返りたかったけど……」
その言葉のあと、彼女はゼエゼエハアハアッと呼吸し、苦しみだした。
あれっこのふっくらとしたスタイルに細目の顔は見覚えがある。
以前にインテックス大阪のイベントで見たことがある。
「もしかして、江戸沢麻美子先生……」
私は言う。
そうだ、この人は「触手人間28号とツンデレお嬢様」の作者である江戸沢麻美子先生だ。
ということはこの膝枕をしている制服美少女はツンデレお嬢様こと水無月
「あら……私のこと知ってくれているのね……うれしいわ……」
その後、ゴボゴボッと血をはき、豊かな胸元を赤く染める。
だめだ、握っている手の力が弱くなっていく。
「しっかりして、あなたが死んだら触手人間28号の続きは誰が書くの」
消えかけのろうそくの火のように弱まっていく江戸沢麻美子先生の手を両手で握る。
「そ、それはあなたにお願いしようかな。ハッピーエンドにしてあげてね……」
私が握りしめている手から完全に力が消えた。ゼエゼエッと荒い息をしていたのに、それがピタリとやんだ。
漫画家江戸沢麻美子はこのわけのわからない世界で死んでしまった。
彼女は私よりもさきにこのゲームに参加させられたのだろう。ここまでたどり着いたはいいが、文字通り力つきてしまった。
神宮寺那由多の力をつかってもとに戻っても、意味はない。また彼女が死の苦しみを味わい、私がそれをみとるだけだ。
しかし、これは辛い。
目の前で人が死んでしまったのだから。
制服美少女は膝枕をずらし、床に江戸沢麻美を寝かせる。まぶたを閉じさせて、両手を彼女の豊満な胸の上でくませる。
「
制服美少女こと水無月真珠は言った。床に置かれたサーベルを持つ。
あの漫画の設定ならこのサーベルは超強化セラミックのサーベルで、どんなものをも切り裂く剛刀である。
「わかったわ、よろしくね。私はwebで小説をかいている雨野月子よ」
私は自己紹介する。
「こちらこそよろしくね。私は水無月
ツンデレお嬢様こと水無月真珠はそう名乗った。
触手ものを得意とする成人向け漫画家の江戸沢麻美子先生の遺体をこのような場所に置いていくのは忍びないが、そうせざるおえない。
彼女の無念をはらすためにはこの胸くそ悪いゲームをクリアするしかない。
現在地はちょうど真ん中の大階段の踊り場だ。
最上段で私たちを見ている人物がどのような姿をしているか、はっきりとではないがわかりかけてきた。どうやらコートを着た男性のようだ。
待っていなさい。
その頬にビンタの一つでもくらわせてやるんだから。
「さあ、行こう」
私は言う。
渡辺学は頷く。
「ええ、もちろん」
また神宮寺那由多はかわいいウインクをする。
「
サーベルを強く握りしめ、水無月真珠は言う。
軽く準備体操したあと、私は覚悟をきめて踊り場から足をあげ、最初の段に足を置く。
置いたと思ったら、その足がぬるぬるずぼずぼと沈んでいく。
あっという間に私はその底無し沼のようになった階段に沈んでしまった。
「
悲鳴のような声がする。
それはついさっき仲間になった水無月真珠のものだ。彼女は手をのばす。
私はその手を必死につかむ。
しかしながら、私を飲み込む力の方がはるかに強い。
私と水無月真珠はその底無し沼の闇にとりこまれてしまった。
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