第5話強行突破

私は両手を天にのばして、柔軟体操をする。次に屈伸運動をする。

ちらりと神宮寺那由多のかわいい顔を見る。同性ながら、うらやましいぐらいにかわいい。まあ、そう設定したのは私だけど。

「ねえ、那由多。一度上がれるところまで行ってみようと思うのよね」

私は言った。


一歩一歩上がるよりも、一度行けるところまで行って、どのような状況になるか見てみようと思う。

しかし、この大階段をかけ登るのか。

普段の運動不足が悔やまれるな。

会社の同僚にジムに誘われたときに行っとけばよかったな。


「承知した。できるだけ無事に行けるように私が先頭に立とう」

軍帽を深くかぶりなおし、渡辺学は言う。

「じゃあ私は後ろをいくね。やばくなったらすぐに時計仕掛けの王の力を使うから」

神宮寺那由多も準備運動をし、そう言った。


私はスタートダッシュの姿勢をとり、左の渡辺学、右の神宮寺那由多を交互に見る。渡辺学は浅く頷き、神宮寺那由多をかわいいウインクをする。

「じゃあ行くよ」

深呼吸し、私は意を決して階段をかけ登る。一段目に足をかけた瞬間、あの醜鬼コボルトが出現する。

「やあっ!!」

すぐさま、渡辺学は右ストレートで醜鬼コボルトを吹き飛ばす。

醜鬼コボルトは壁にぶち当たり、絶命する。

私はお構い無しに次の段に足をかける。

前方に魔法陣が刻まれる。

「させるか!!」

神宮寺那由多は魔法陣めがけて回し蹴りを放つ。彼女は私と違い、運動神経は抜群だ。それにスタジアムジャンパーにとりついた竜王の力を使い、肉体を強化している。

竜王の力を使うには使用者の生命力スタミナを捧げないといけない。なので神宮寺那由多は小柄な体格ではあるが、とてつもない大食いなのである。

緑鬼ゴブリンは弓を構えることもできずに背骨を折られ、絶命する。

さあ、次からは何がでるかわからない。


さらに構わずにためらうことなく、私は三段目、四段目に足をかける。

牛の頭をした筋骨隆々の男が戦斧をもって二体出現する。

やだっ、こいつ素っ裸じゃないの。

下半身のものがこっちを見てるわ。

ある意味やる気満々なのかしら。

よし、こいつらは牛人鬼ミノタウルスと名付けるか。

さらに私はそれすらも気にすることなく、五段目に足をかける。

ぶにゅぶにょした何か粘液のようなものがあらわれる。

これはゲームで定番のスライムではないか。


三体の化け物が私めがけて襲いかかる。

ここで私は理解した。

こいつらは私だけを狙っている。

私たちではなく、間違いなく私だけを狙っている。スライムは目が無いのでわからないが、牛人鬼ミノタウルスたちは殺気をこめた目で私を見て、戦斧を振り上げて私を殺すべく、襲いかかる。


「和泉斬鬼流抜刀術水面みなも!!」

流れるような動作で渡辺学は腰にぶら下がる刀の柄に手をかける。抜刀し、刃が横一直線に駆け抜ける。

渡辺学が持つ刀は髭剃りの太刀という。別名は鬼切り丸。平安の世から鬼をはじめとした妖魔悪鬼を葬ってきた伝説級の太刀である。


牛人鬼ミノタウルスの一体は胴を真っ二つにされ、もう一体は左腕と首を切断され、大量の血液を撒き散らし、息絶える。


スライムは神宮寺那由多が蹴り飛ばし、天井まで飛んでいく。

「うわっーべちゃべちゃして気持ち悪い」

私立探偵は顔をしかめる。

彼女のスニーカーにはべったりとスライムの破片がこびりついている。


その後も私はお構い無く、階段をかけ登る。

渡辺学と神宮寺那由多の活躍により、私は階段中部の踊り場までたどり着いた。


「はあはあっ……」

階段を五十段近くかけ登ったので肺が痛い。それに足がガクガクと震える。

振りかえると階段には五十体ほどの怪物の死体が散らばっている。

額に流れる汗を手の甲でぬぐう。


「どうやらここは安全地帯のようです」

階段をかけ上がり、怪物たちとの激闘を繰り広げたのに、涼しい顔の渡辺学は言う。


「そのようね」

息を整えながら、神宮寺那由多は言う。へろへろの私に比べて、彼女はまだまだ余裕がありそうだ。


確かに渡辺学の言う通り、あれだけ次々と出現した怪物たちがピタリと出なくなった。


「あなたたちすごいわね、ここまで無事にくるなんて」

女性の声がする。

そちらに視線を向けると傷だらけの女性が制服少女の膝枕で寝ていた。

ブレザーの制服姿の少女は悲しげな顔で膝の上の女性の顔を見ている。

作者マスター、しっかりしてください」

ツインテールの制服美少女はそう言った。

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