第4話次なる刺客

やっと二段目に足を置くことができた。

でも、安堵はできない。

今度は鬼がでるか蛇がでるか。

少し上段に淡い光があらわれる。

複雑な魔法陣が階段に刻まれ、そこから次なる怪物があらわれる。

そいつは緑の肌をした小鬼だった。身長はだいたい百二十センチメートルぐらい。小柄な私よりもだいぶ背が低い。こいつを緑鬼ゴブリンと名付けよう。ゲームやアニメに登場するあのモンスターのイメージ通りだ。

そして奴は手に弓矢を持っている。

慣れた手つきで弓の弦をきりきりとひき、矢を放つ。


「おっと危ない作者マスター

すっと手をのばし、私の体を神宮寺那由多は引っ張る。

放たれた矢は私の頬をかすめて、後方に抜けていく。

危なかった。神宮寺那由多が体を引っ張らなければ額を撃ち抜かれていただろう。

私は頬から流れる血を手の甲でぬぐう。


「よくも!!」

短く言うと渡辺学はその緑鬼ゴブリンめがけて手刀を打ち出す。

キラリと渡辺学の紫色の瞳が輝く。それは彼が鬼の力を具現化している証拠だ。

手刀は簡単に緑鬼ゴブリンの薄い胸板を貫く。

その手刀を引き抜くと、緑鬼ゴブリンはぐったりとなり、絶命した。

渡辺学はそれを階段に捨てる。


「大丈夫か、作者マスター

渡辺学は秀麗な顔を近づけ、私を見る。

大丈夫だよ、たいしたことない。

あれっ、口から言葉がでない。

それになんだかとても寒い。

私は両手で自分の体を抱きしめる。

だめだ、震えがとまらない。

たまらず私は階段に膝をつく。

は、吐きたい……。

気分が悪い。

体が勝手に震えだし、吐き気に我慢できなくなった私は床に大量にあるものを吐いた。

ドバドバと自動的に体は何かを吐き出す。

大量の胃液と血の中に無数の白い虫が蠢いていた。

まさかあの矢にかすり傷をつけられたときに寄生虫をうえつけられたのか。

ううっ……それにお腹の中で何かがぐにゃぐにゃと暴れまわっている。

そ、そんな彼氏いない歴と年齢が同じな私がわけのわからない寄生虫の子を産まされるなんて。


「くそ、なんて悪辣なの。戻るよ作者マスター

手早く神宮寺那由多はスタジアムジャンパーのポケットから銀の懐中時計を取り出す。彼女が契約している時計仕掛けの王の力を使い、時間を巻き戻す。

懐中時計の針が逆回転する。



次に気がつくと私はもとの大階段の一番下にいた。

あの寒さも下腹部で暴れまわっていた感覚も嘘のようになくなっている。

「すまない作者マスター。私がついていながらこのようなことになるなんて」

すまなそうに渡辺学は言う。


「いいのよ、無事だから」

私は言う。

ふー神宮寺那由多のタイムリープ能力があって助かったわ。

それにしても二度とあんな目にあいたかないわ。凌辱系のエロゲーじゃないんだから、寄生虫の子なんか産みたくないわ。

エロゲーは好きだけど自分自身がひどい目に会うのはまっぴらごめんだわ。


「また振り出しにもどっちゃったわね」

私は言う。

「そうね」

と神宮寺那由多は言い、渡辺学は静かに頷く。


「ねえ、作者マスター良い知らせと悪い知らせどっちから聞きたい?」

神宮寺那由多は海外ドラマでよくありそうなセリフを言う。

「じゃあ良い報せからお願い」

私は言う。

「私の時計仕掛けの王の能力の発動条件って当然だけど知っているよね」

神宮寺那由多は言う。

知っているも何もそれは私が作り出してきめた設定だ。

神宮寺那由多が契約している時計仕掛けの王の能力を使いタイムリープするには巻き戻す時間と同じ時間の寿命を捧げないといけない。

一時間もどるには寿命を一時間削らないといけないのだ。

今の場合だと巻きもどった時間の分だけ私の寿命は早送りされるのだ。

本来ならあまり多様する能力ではない。

「でも今回は例外みたい。寿命は減らなくていいようね」

パチンと神宮寺那由多は時計仕掛けの王が宿った懐中時計の蓋を閉じる。

これは勘だけど私は階段から落ちて死んでいるから、もう減る寿命なんてないのだと思う。

「悪い報せはね、どんなに巻き戻そうとしてもこれ以上は戻らないということ」

あきれながら、神宮寺那由多は言う。

神宮寺那由多のタイムリープ能力をもってしても、私が階段から落ちる前にはもどれないとということか。


「もしかしてこのくそったれのデスゲームを攻略するには一段進むごとに何かでるか把握して、死にそうになったらもどってを繰りかえさないといけないということなの……」

私は言った。

このデスゲームを考えた人、絶対に性格わるいわね。


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