第2話web作家はデスゲームに挑む

私の名前は雨野あめの月子つきこ。これはペンネームである。大阪市内にある旅行会社につとめる会社員。独身アラサー女子の私の楽しみのひとつが日本橋のオタロードにあるアニメショップめぐり。

今日は推しの声優の写真集を買いに来たのだが、階段からまっ逆さまに落ちて死んでしまった。

あの高さから落ちたら確実に死んでるよね。

あと、趣味でweb小説を書いています。

目の前にいる黒髪のかわいい女性は私が書いたweb小説のキャラクターである神宮寺那由多であった。


「死神からの伝言、生き返るためには悪魔が用意したデスゲームを攻略して、囚われた三人の魂を解放することということよ」

私の手を力強く握り、神宮寺那由多は言う。

キッと南海なんば駅の大階段の最上段にいる人物をにらむ。

私もそいつを見るが、遠すぎて、ぼやけていてその姿ははっきりと視認できない。


「あいつがその悪魔ってわけ?」

私は那由多にきく。

「たぶんね、まあ、あそこにいかなければ解らないけど」

那由多は答える。


とりあえず、あの人物めがけてこの大階段を登りきらなければいけない。

段数はどれくらいだろうか?

目測ではあるが、百段はありそうだ。

ちょうど真ん中に巨大な踊り場がある。

階段をひとつ登るごとにあの老人のような怪物があらわれるのか?

単純計算で百体近くの怪物と戦わなければいけないのか?


いやいや、そいつは無理ゲーだよ。

私、ただのオタクの会社員だよ。地獄のようなゴールデンウィークが終わり、やっとオタロード巡りができると思ったらこの仕打ち。本当に涙がでてきちゃう。女の子だものね。


「しっかりして、作者マスター。死神は攻略の手助けとして私たちをよこしたんだから」

励ますように神宮寺那由多は言う。


うん?

神宮寺那由多は私たちと言った。

私ではなく、複数形の私たち。

ということは神宮寺那由多の他に誰かいるというのか……。


「さすがは私の作者マスターだね。飲み込みがはやいよ。とりあえず死神は私ともう一人こっちによこしたんだ。ジャケットのポケットを見てみてよ」

那由多は私が着ているジャケットのポケットを指差す。

私がごそごそとそのポケットを探ると何か固い感触がある。

それを取り出す。

それは一枚のカードだった。

クレジットカードより一回り大きい。固さは同じぐらいか。

そのカードにはあるイラストが描かれている。

闇をきりとったような黒色の軍服を着た青年が描かれている。丸いレンズのサングラスをかけていて、手には朱色の鞘の日本刀を持っている。


私はこのカードに描かれているキャラクターを知っている。

私のweb小説「鬼の啼き声」のキャラクターである渡辺学だ。


「そいつはイマジンカード。死神が悪魔のデスゲームを攻略するために用意したものだよ」

那由多が親切にも説明する。


なんとなくわかってきたぞ。

その死神とやらは無力な私のために味方として自作キャラクターを実体化できるようにしてくれたのか。

すでに神宮寺那由多が目の前にいる以上、疑う余地はなさそうだ。


「さあ、早速よびだそうよ」

那由多がせかす。


「でもどうやって?」

私はきく。


「簡単、イマジンワールドから出でよっていってみて」

かわいいウインクを那由多はする。

なにそれ、オタク心をくすぐるかっこよさじゃない。

わかったわ。


「イマジンワールドから出でよ!!」

ピシッとカードをもった右手を天にかざして、私は誇らしげに叫ぶ。

瞬時にして、私の真横に漆黒の軍服を着た男があらわれた。


「帝国陸軍中尉渡辺学、虚空の世界より見参」

黒衣の軍人はそう名乗った。

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