生き返るには囚われた魂を解放すること
白鷺雨月
第1話 その日私は死んだ
五月ながばの某日、私は死んだ。
南海なんば駅の北改札口から出て、すぐのところにある大階段から落ちて死んだのだ。
こんな死にかたをするなんて、情けない。
でもおかしい、どうして私は階段から落ちたんだ?
目覚めたとき、私はその大階段の一番下にいた。
普段なら、買い物客や通勤する人なんかでごったがえしているこの南海なんば駅に人が一人もいない。
そう、一人もいない。
ぐるりとまわりを見渡したが、やはり誰もいない。
階段から落ちて、背中と頭を強く打って、死んだと思ったけどその痛みは今はない。
頭をふりながら、立ち上がる。
見上げると階段の上に誰かいる。
この状況を打破する方法が無い以上その人に会わなければいけないのか。
しかし、ここは天国か地獄か。さっぱりわけがわからない。
私がその人に話を聞くために階段に足をかける。
その時、目の前に気持ちの悪い、老人のような人間があらわれた。
老人のようなというのはそれがどう見ても人間ではなく、怪物に見えたからだ。
身体にはボロボロの布だけを巻きつけていて、手には錆びたナイフを持っている。
こいつはどこから来たのだ?
私が疑問に思っているとそいつが開ききった瞳孔の瞳で私を見た後、そのナイフを私の下腹部に深々と突き刺した。
下腹部に深々と突き刺さったナイフを私は見た。すぐにどくどくと血が流れる。
火傷のような痛みが下腹部に走る。私は下腹部の傷口に手を当てる。あっという間に手のひらは鮮血で濡れていく。
えっまた私、死ぬの……。
意識を失いかけた私の腕を誰かがつかむ。
「
それは女性の声だ。
ボブカットの黒髪に大きな瞳が特徴的だ。
けっこうかわいい。
銀地に竜の刺繍がはいったスタジャンを来ている。
右手には古びた銀の懐中時計を握っている。
あっ私この女の人を知っている。
「あっ、あんたは神宮寺那由多……」
出血のため、薄れいく意識で私は言う。
目の前にいるこの小柄でかわいい女性は私の小説に出てくるキャラクターの神宮寺那由多にそっくりだ。
「
そう言い、自作キャラクターによく似たその小柄な女性はぐっと懐中時計を握る。
その懐中時計の針が逆にまわる。
再び目覚めた私は、またあの大階段の一番下にいた。
今度は誰もいないわけではない。
私のかたわらには自作である「イノウ探偵神宮寺那由多の事件簿」に登場する神宮寺那由多そっくりの女性が立っている。
「そっくりもなにも私は
神宮寺那由多が言った。
正直言って、私は混乱した。
どうしてこんな空間に放り込まれたのか?
そしてそんな私を自作小説のキャラクターが助けに来てくれるなんて。
「おっと
階段に足をかけかけた私を神宮寺那由多が制止する。
「気をつけてよ、
神宮寺那由多は私のペンネームを言った。
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