はるあらし様は今上陛下のご三女、お母ぎみ藤の方さまには一人子でいらっしゃいます。お母君は白茅ちがや公のお城の一つを預かる城代のご息女でしたので、お城の近くにお館を賜られました。藤の花盛りの頃、姫様がお生まれになったとお聞きしております。母君がお授けになった御名は私どもは存じあげておりません。

 それから九たびめの桃花の頃、お母君は病を得て儚くおなりになりました。

 御父君は鳥舟とりふねに十幾人もの使者従者などをのせておつかわしになり、私もその中におりましたが、藤のお方の一の姫様をお迎えに上がるとだけ仰せつかりました。

 姫様はおひとりで舟にお乗りになりました。

 渡海の半ば、真夜中のこと、舟の前に魔物があらわれました。閻炎の鳥と呼ばれ魔王の将といわれる魔物に私どもはおののきうろたえるばかりでございましたが、

 姫様は舳先にお立ちになり魔鳥をめつけられました。

 魔鳥はたったの姫様に恐れをなして去りました。

 お城に着いたとき姫様は

 ――春の嵐にもてあそばれるように来たから、これからはそれを名としよう

 と仰せられました。

 次の年、御父君は神々に誓いをたて即位され、また次の年、春嵐姫様を皇太子殿下に次ぐお世継ぎと定められました。魔鳥をしりぞけたご胆力をめでたくおおぼえになられたゆえでございます。

 春嵐様の誓いの儀は、神女様――白茅公のご息女、輝夜帷姫様が祭司をおつとめになりました。

 

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