第19話
「……あ、あんた、一体どこの誰なんだ……?」
人語を喋る以上、モンスターではないんだろうと判断し、俺は蛇頭の人間に向かって思い切って話しかけてみる。
もちろん、いきなり襲い掛かってくるかもしれないので、一応用心はしておく。なんせ、ただの子供にしか見えなかった少女があの尋常じゃない強さだったから、相手が人型となるとどうしても警戒してしまう。
「おいおい、旦那。そんなにべらぼうにツエエってのに、俺様のこと知らねーのか? そりゃ確かに旦那には劣るけどよ、強さが全ての世界でSS級まで上り詰めたっていうのに。それとも、雑魚は視界に入らねえって?」
「あ、いや、そういうわけじゃない。俺は別世界の人間で、この世界には来たばかりだからな。あんたのことも含めて、知らないことばかりなんだ……」
「ぶっ……! マ、マジなのかよ!? やべーな。来たばっかりなのに、そんなに鬼みてえにツエエって……さすがマジカルユーチューバーの本場の世界の人間なだけあるぜ……」
ユーチューバーの本場の世界、か……。この世界の人間からはやっぱりそういう風な目で見られてるんだな。そういう事情もあってやたらと興味があるのか、蛇男は俺の爪先から頭の天辺まで、全身を舐めるように見つめてきた。何かに利用できないかしきりに探ってる、そんな感じのまとわりつくような嫌らしい視線だ。
「おっと、自己紹介がまだだったな、旦那。へへっ。俺様の名前はジャフ=ヘグレド。ジャフって呼んでくれ! 元盗賊で迷惑系ユーチューバーの一人だが、自分よりツエエやつには従順だから、俺様より弱くならない限りは安心してくれ!」
「迷惑系ユーチューバー……?」
こっちの世界にもそんなのがいるのか。このジャフとかいう男、見た目もそうだが中身もやばいやつってことなんだろうか……。
「旦那ぁ、そんな疑いの目で見なくても大丈夫だって! ちょっと隙があっても大丈夫なくらいツエエわけだし、迷惑系ユーチューバーっていっても、俺様は人の命までは取らねえ、いわゆる小悪党みてえなもんだからよ!」
「そ、そうなのか……」
いや、俺の世界の迷惑系ユーチューバーも、さすがに人の命までは取らないと思うんだが……。
「なあ、旦那ー。来たばっかりでこっちの世界のこと知らねーんだったら、俺様と組まねえか?」
「え……?」
「俺様がタダでなーんでも教えてやっから! そうすりゃ、旦那はこっちの世界のことが手に取るようにわかるようになるし、俺様は鬼ツエエ相棒獲得してさらにブイブイ言わせられるんだから、これってまさにWINWINの関係じゃねえか!?」
「……い、いや、折角の誘いでありがたいんだが、丁重に断らせてもらう。何度も言うが俺はこの世界へ来たばかりだし、しばらくは一人で自由にやりたいからな」
「そ、そうかい。まあそれなら仕方ねえが、名前だけでも教えてくれねえか? できればフルネームで!」
「ああ、名前くらいなら。フルネームは上村友則っていうんだ。俺のことはトモって呼んでくれ、ジャフ」
「おぉっ! トモか、いい名前じゃねえか。旦那がマジカルユーチューバーになるの、心待ちにしてるぜ!」
「ああ、どうも」
こう見えて、蛇頭のジャフは意外と良い人のようにも見えてくるな。俺がただ単に騙されやすいだけかもしれないが。
「――ト、トモ……」
「「あっ……」」
名前を呼ばれた俺とジャフの声が被る。おいおい、もうワンピースの少女が目覚めたっていうのか? 威力は命中する寸前で少し抑えたとはいえ、ほとんど手加減なしの俺の拳を腹部にまともに食らった以上、しばらくは意識を取り戻すのは無理だと思ってたんだが……。
「お、覚えたわ、よ……」
「「……」」
覚えた? なんとも不気味な台詞を残して、少女はまた意識を失ってしまった様子。昏睡状態の中で俺の名前を覚えられたっていうのなら、倒したことで恨まれちゃったかなあ。まあこの宿からはすぐ離れるつもりだし、もうお別れだから別にいっか。
「へへっ。すげーおっかねえだろ。そいつ」
「あ、あぁ。この子はジャフの知り合いなのか?」
「ん……そ、そそっ! 知り合いっていうか、まあ仲間みたいなもんかなあ? こいつも俺様と同じ迷惑系のマジカルユーチューバーで、宿に来た客が強そうだと喧嘩売って、高い料金をふんだくる小悪党ってわけよ。まあそれに関しちゃ、俺様はあくまでも傍観者って立場なんだけどよ!」
「なるほどな、人は見かけによらないもんだ……。じゃあ、この子の処置はジャフ、あんたに任せた」
「へへっ! そうしてくれると助かるぜ!」
「…………」
ジャフっていう男、なんかやたらと嬉しそうだが、気のせいかな? まあいいや。
◆◇◆◇◆
「うーん……」
「ぐひひっ……」
村中に激しく降り注いでいた雨がすっかり止み、静けさを取り戻した宿『憩いの場』にて、横たわった少女の前で、蛇男のジャフがぐるりと喉ぼとけを動かしつつ、勿体ぶるかのようにじっくりと服を脱いでいく。
「おい、メスガキ、聞こえるかあ? 意識は少しあるようだが、それがまたたまんねえ。いくら好き者の俺様でも、なーんの反応もねえ死体を抱く趣味はさすがにねえからよ……」
「……う、うぅ……」
「へへっ、悔しいか? こっぴどくやられた恨みをここで返せるとはなあ。トモとかいう、別世界から現れた救世主野郎に乾杯だぜ。エシカテーゼ、腕っぷしは化け物級でも体は人間だろうから、俺がとことんその体に教え込んでやるぜ。女がどれだけ抗おうと、男には勝てねえっていうのをよ……」
「……ん、んんっ……!?」
服を脱ぎ終わり、床に伏せたジャフが目を細めると、長い舌を出してその先で少女の太腿をペロッと舐める。
「ケケッ……少しずつ少しずつ、上等なステーキを味わうように貪ってやるぜ……」
「……だ、だめぇ……お願い……」
「あぁ……!? そんなに嫌だってんなら、泣きじゃくってお願いするんだな。そのほうが抱き心地も一層よくなるってもんよ。グヘヘッ……」
「ああん、やめてやめて。お願いやめて。好きでもない男に犯されちゃうのだけは嫌なのおぉっ……」
「……ん、こいつ、やけによく喋りやがる。ま、まさか――ぐがっ……!?」
少女に足で蹴られた股間を押えながら転げ回るジャフ。
「……く、クソがあぁぁあっ! 起きてやがったのかあぁぁ……!」
「はっ。気づくのが遅すぎるわよ。ちらっと大事なところを見せてもらったけど、そんなお粗末なもので満足させられるつもり? 笑わせないでよね、スカタン。大したものも持ってないくせしてっ」
「……て、てんめえぇぇっ、どこまで大人をおちょくれば気が済むんだあぁぁあ……!」
「何よ。まだやる気なら受けて立つわよ。今度あたしが勝ったら去勢してやるけど、それでもいい?」
「……あ、ごめんなさい、それだけは勘弁してください、エシカテーゼ様あぁぁ!」
「ふん、それでいいのよ、この馬鹿オスッ! 逃げ出した髭オヤジは頼りにならないから、今度はあんたを色々と利用させてもらうわ。迷惑系ユーチューバーのクイーンと、その奴隷としてねっ」
「……そ、そんなっ。俺様にだって都合があるっていうのに、勝手に――」
「――なんか言った!?」
「い、いえっ……!」
「……それにしても、カミムラトモノリっていうのね、あの男。絶対に逃さないんだから……。いつかこの手で捕まえて、あたしのダーリンにしてやる……」
凄むように宙を睨むエシカテーゼ。そのえも言われぬ迫力は、蛇男のジャフが思わず額突いてしまうほどのものであった……。
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