第2話
「う……?」
気が付いたとき、俺の周囲は信じられないほど真っ暗で、例のぼんやりと輝く石――魔石を握りしめたままだった。石の明るさが、より暗闇を引き立てているかのようだ。
って、そもそもここはどこなんだ? 明らかに、今までいた場所とは違う。光る石のおかげで近くの壁や地面がぼんやりと見えるわけだが、何か洞窟のようなところにいるのがわかった。ん、また例の窓が目の前に出てきた。
『【暗視】スキルを獲得しました』
「へ……?」
思わず声が出るのも当然だろう。窓にそんなメッセージが流れるとともに、周囲がパッと明るくなったからだ。これって、つまり……【暗視】スキルとやらの効果で、俺が暗いところでも周囲を見渡せるようになったってことかな。
というか、どうして都合よくそんなスキルが手に入ったのかまったく理解できないが、このスキルのおかげで助かったのは事実。やはり、俺は洞窟の中にいるっぽい。
それにしても、なんで急にこんなところへ移動したのか……。まさか、あの空間の歪みは、異世界かなんかへの入り口なのか?
「あ……」
それを探そうと思って立ち上がったとき、一メートルほど先の壁の下に例の歪みのようなものがあるのが見えた。ってことは、やっぱりあそこからここに転移してきたのか。ちょうどそこまではなだらかな下り坂になっていて、ここにあった光る石が歪みまで転がっていった可能性があるな。
「…………」
なんというか、視界が確保された途端、探検したくなってくるから不思議だ。体は痛むけど、歩くくらいならできる。こういうのって、錆び付いていた子供心が蘇るっていうのかな。俺にこんな感情がまだ残ってたなんて夢にも思わなかった。それに、最底辺の俺なんてもう死んでるも同然なんだし、怖いものなんてない。多分……。
とはいえ、何かいたらすぐ空間の歪みのあるところへ戻れるように、それがあった場所を確認しつつ慎重に前へと進んでいく。結構複雑に分岐してるし、何かあったときに迷って戻れなくなったら嫌だしな。
『【地図】スキルを獲得しました』
「へ……?」
そんなことを考えた途端、窓が出現してこれだ。このスキルの効果が早くも表れたのか、分岐した道の奥に何があるのか、実際にそこへ行かなくてもわかるようになった。
これ凄いな。この先に進んだら何があるのかなと思うだけで、あたかも自分がそこまで行ったかのように勝手に見えてしまうのだ。さらに、戻りたいと思った時点で空間の歪みがある方向は輝いて見えるというおまけつき。随分と自分に都合よく事が運びすぎて逆に不安になってくる。
ただ、そのおかげでほとんど不安なくスイスイと移動しやすくなったので助かる。何かモンスターみたいなのがいたら嫌だが、出現した場合は急いで戻ればいいだけだしな。今のところ、分岐している道は行き止まりなだけで何もなかった。
そういや俺が昔ロールプレイングゲームをやってたとき、洞窟でいちいち分かれ道のほうへ行って宝箱があるかどうか確認してたっけな。そういう手間も省けるから便利だ。
ん? また分岐点に差し掛かったので、調べてから進もうとしたら……その先にはかなり広めの空間があり、まばゆいばかりの宝箱が幾つも置かれていた。こりゃ獲得しない手はないってことで意気揚々と進んでいく。こんなに興奮するのは、ラストファンタジーやドラグーンクエストを初めてクリアした子供のとき以来だ。
「おおおぉっ……」
それを実際に近くで目の当たりにした俺は、驚嘆の声を絞り出すとともにしばらく見とれてしまっていた。いかん、よだれが出そうだ。
よーし、何が入ってるか確認してやろうってことで、開けようとしたら……開かない。そうか、鍵がかかってるのか。よく考えたらゲームみたいに最初から簡単に開けられるわけもないんだよな。誰かがここに置いているのはそいつ自身のためなんだろうし。
『【解錠】スキルを獲得しました』
「……ははっ。俺の気持ち、わかってるなあ」
思わず零れる笑い声と独り言。どういう仕組みなのかはわからないが、またしても俺はその場面に合ったスキルを獲得することになった。よーし、早速手前のものから開けてみよう。パカッとな!
「――こ、これはっ……⁉」
宝箱の中には、なんとも奇抜な形の剣があった。というのも、蛇のように刀身がうねったものだったからだ。蛇剣という中国の武器があるのは知っているが、それよりもずっと長さがあって湾曲してるせいかより蛇っぽくて、なんだか生きているかのようだった。試しに手に取って振ってみたらやたらとしなるし、鞭としても使えそうだ。どんな風に使うのが正解なのか調べてみたいな。
『【鑑定】スキルを獲得しました』
「わははっ……」
順調すぎてもう笑い声しか出なかった。やっぱり自分の願望通りにスキルを獲得できてる感じだな。そのきっかけってなんだろう? もしかしたら空間の歪みに触れたときに獲得したと表示された《リンクする者》っていう称号が関係してるのかもしれない。お、【鑑定】スキルの影響か、どんな効果が調べたいと思った時点で称号に関するメッセージが出てきた。
《リンクする者》:称号の一つ。これを手に入れた者は、いつでも空間に亀裂を生み出すことができ、そこから自由に現実世界と異世界を行き来できるようになる。さらに、その場面に適したスキルを得たいと思えば獲得することができる。ただし、スキルの効果が凄ければ凄いほど強い副作用や発動条件を伴う。
なるほど。これで空間の歪みの正体や、便利すぎるスキルを次々と獲得できた理由がわかった。それに、状況に応じてスキルをいつでも獲得できるってとんでもない効果だし、チートスキルっていうかチート称号だな、こりゃ。どうせならついでに今まで手に入れたスキル群を【鑑定】で調べてみるか。
【暗視】:暗闇、霧等、視界が不安定な場所でも周囲を見渡せる。
【地図】:目的地には目印が表示され、行ったことのない場所も見通せる。
【解錠】:扉や宝箱、どんな種類の鍵でも壊すことなく即座に開けられる。
【鑑定】:称号、スキル、武具、アイテム等、その他様々なものを調べられる。
窓にスキルの説明がまとめて表示された。大体思った通りとはいえ便利だな。効果が凄すぎるとまではいかないのか発動条件や副作用もないみたいだし。その調子で今度は例の蛇剣がどんなものか調べてみるか。
蛇王剣:特殊な形状で鞭のようにしなるが、その切れ味は至高の剣そのものである。獲物に命中した場合、またたく間に体内へ侵入して八つに分裂し、内部から容赦なく破壊する。
「…………」
想像以上に恐ろしい効果を持つ武器だった。蛇の王と名乗っている剣なだけある。さて、ほかの宝箱も開けてみるか……って、なんか今、こもったような音がどこからかしたような? 宝箱の中からだろうか。まさかとは思うが、モンスターが入ってるっていう可能性も考慮して【鑑定】スキルで調べてみることに。
モンスター名:ミミック
レベル:55
腕力値:200
体力値:100
俊敏値:30
技術値:40
知力値:90
魔力値:30
運勢値:50
「ひえっ……」
窓に表示された数字を見て、俺は思わず声が出た。うわ、あぶね。何も考えずに開けてたら食い殺されるところだったな。しかも、これに限っては【解錠】スキルも必要なさそうだ。
ってことは、自分のステータスもわかるんだろうか? お、そう思った途端、立て続けに窓が出現した。
名前:上村友則
レベル:1
腕力値:1
体力値:1
俊敏値:1
技術値:1
知力値:1
魔力値:1
運勢値:1
SP:0
スキル:【暗視】【地図】【解錠】【鑑定】
称号:《リンクする者》
武器:蛇王剣
氏名もばっちり表示されてるし、手に入れた称号やスキルもあるしで、正真正銘これが俺のステータスなんだな。1ばっか並んでるのはレベル1だから仕方ないのか。
SPっていうのはなんだろうと思って【鑑定】スキルで調べたところ、これはステータスポイントといって1レベル上がるごとに10ポイント溜まり、各ステータスに振り分けることができるとのこと。
さて、ミミックは一体しかいないのがわかったし、残りの宝箱を開けてみるとしようか。なんせここで最初に手に入れた武器が蛇王剣だから、ほかにはどんなものが入ってるのか本当に楽しみになってくるな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます