第五話 731部隊
「さぁ、君達はもう自由だ。日本にいる家族までもどしてあげよう」
連合国総指揮者・マッカーサーたちは捕らえた日本軍人たちを逃がしてやった。
もう八月だが、マッカーサーは原爆投下のことを知らされてない。
捕虜の中に田島圭蔵の姿もその中にあった。
……なんといいひとじゃ。どげんこつしてもこのお方は無事でいてほしいものでごわす。 田島は涙を流した。
米軍たちにとって日本軍人らは憎むべき敵のはずである。しかし、寛大に逃がしてくれるという。なんとも太っ腹なマッカーサーであった。
「硫黄島戦争」の命運をわけたのが、甲鉄艦であった。最強の軍艦で、艦隊が鉄でおおわれており、砲弾を弾きかえしてしまう。
米軍最強の艦船であった。
それらが日本本土にせまっていた。
日本軍部たちは焦りを隠せない。
……いまさらながら惜しい。原爆があれば……
野戦病院ではジュノー博士は忙しく治療を続けていた。
もうすぐ戦は終わる。看護婦は李春蘭という可愛い顔の少女である。
中国人は龍雲という病人をつれてきた。
「ジュノー先生、頼みます!」
中国人はジュノー医師に頭をさげた。
「俺は農民だ! ごほごほ…病院など…」
龍雲はベッドで暴れた。
李春蘭は「病人に将軍も農民もないわ! じっとしてて!」
とかれをとめた。龍雲は喀血した。
ジュノー病室を出てから、
「長くて二~三ケ月だ」と中国人にいった。
中国人は絶句してから、「お願いします」と医者に頭をさげた。
「もちろんだ。病人を看護するのが医者の仕事だ」
「……そうですか…」
中国人は涙を浮かべた。
すぐに大本営の日本軍人たちは軍儀を開いた。
軍部は「なんとしても勝つ! 竹やりででも戦う!」と息巻いた。
すると、三鳥が「しかし、米軍のほうが軍事的に優位であります」と嘆いた。
回天丸艦長の甲賀が「米軍の艦隊の中で注意がいるのが甲鉄艦です! 艦体が鉄でできているそうで大砲も貫通できません」
海軍奉行荒井は「あと一隻あれば……」と嘆いた。
軍人はきっと怖い顔をして、
「そんなことをいってもはじまらん!」と怒鳴った。
昭和天皇は閃いたように「ならもうやることはひとつ」といった。
「……どうなさるのですか?」
一同の目が天皇に集まった。
「あと一年以内に朕は降伏すべきであると思う。沖縄では戦争で民間人が犠牲になった」 天皇は決起した。「あと一年以内に降伏である」
ツィツィンエルホーン宮殿で『ポツダム会議』が開かれていた。
ソ連対米英……
スターリンは強気だった。
どこまでもソ連の利益にこだわる。
トルーマンはスターリンに失望した。
「…神様は七日間で世界をつくったのに……われわれは何週間もここで議論している」
会議は回る。
余興で、ヴァイオリンとピアノの演奏があった。
………スターリンはすべて自分勝手になんでも決めようとする。私はソ連に、いやスターリンに幻滅した。………
トルーマン回顧録より
そんな中、米国アリゾナ州ロスアラモスで原爆実験成功という報が入ってきた。
……壮大で戦慄。まさに空前に結果。爆発から30秒後に辺りが火の海になった。全能の神の手に触れたかのように震えを感じた。………
オッペンハウアー博士回顧録より
トルーマンは自信を取り戻した。
この最新兵器があれば、ジャップたちを終戦に導かせられる。
原爆の人体実験までできるではないか……
……ソ連抜きで日本に勝てる!
〝手術は八月十五日以降なら、八月十日なら確実でしょう〝
トルーマンはスターリンに、
「われわれはとてつもない兵器を手にいれました」といった。
その当時、情報をつかんでなかったスターリンはきょとんとする。
しかし、チャーチルは情報を握っていた。
チャーチルは「なにが卑怯なもんか! 兵器使用は国際法で認められた立派な戦法だ。卑怯といえばジャップじゃないか。天皇を担いで、正義の戦争などと抜かして…」
「それはそうですが……」
チャーチルは無用な議論はしない主義である。
「原爆使用はいかがでしょう」
チャーチルは提案した。「原爆を脅しとして使って、実際には使わずジャップの降伏を待つのです」
トルーマンは躊躇して、
「確かに……犠牲は少ないほうがいい」
といった。声がうわずった。
「どちらにしても戦には犠牲はつきものです」
「原爆を落とすのはジャップだよ。黄色いのだ」
「そういう人種偏見はいけませんな」
「しかし……原爆を使わなければ米兵の血が無用に流れる」
チャーチルは沈黙した。
「とにかく……実際には使わずジャップの降伏を待つのです」
やっと、チャーチルは声を出した。
「……首相………」
トルーマンは感激している様子だった。
さっそくゼロ戦に戦闘員たちが乗り込んでいった。
みな、かなり若い。
鈴木歳三も乗り込んだ。
しかし、鈴木とてまだ三十五歳でしかない。
海軍士官・大塚浪次郎も乗り込む。「神風だ! 鬼畜を倒せ!」
「おう! 浪次郎、しっかりいこうや!」
大塚雀之丞は白い歯を見せた。
英語方訳の山内六三郎も乗り込む。
「神風だ!」
若さゆえか、決起だけは盛んだ。
しかし、同じ英語方訳の林董三郎だけは乗せてもらえなかった。
「私も戦に参加させてください!」
董三郎は、隊長の甲賀源吾に嘆願する。
が、甲賀は「総裁がおぬしは乗せるなというていた」と断った。
「なぜですか?! これは義の戦でしょう? 私も義を果たしとうごりまする!」
林董三郎はやりきれない思いだった。
高松がそんなかれをとめた。
「総裁は君を大事に思っているのだ。英語方訳が日本からいなくなっては困るのだ」
「…しかし……」
「君も男ならききわけなさい!」
董三郎を高松は説得した。
こうして、神風特攻隊は出陣した。
「日本軍がせめて……きたのでしょう?!」
病院のベッドで、龍雲は暴れだした。看護婦の李春蘭は、
「……龍雲さん、おとなしくしてて!」ととめた。
龍雲は日本軍と戦う、といってきかない。そして、また喀血した。
「龍雲のことを頼みます、ジュノーさん」
病院に蒋介石総裁がきた。
「あなたがジュノー博士か?」
蒋は不躾な言葉で、ジュノーに声をかけた。
「ジュノーさん」
「はい」
「……元気で。お体を大切になさってください。戦は必ずこちらが勝ちます」
「しかし……」
「心配はいりません。わが軍の姿勢はあくまで共順……中華民国は共和国です。連合軍とも仲良くやっていけます」
蒋介石自身にも、自分の言葉は薄っぺらにきこえた。
「誰か! 誰かきて!」
李春蘭が声をあげた。「龍雲さんが……!」
「……す、すいません!」
ジュノーは病室にむけ駆け出した。
7 生還
スイス人医師、マルセル・ジュノー博士は海路中国に入った。
国際赤十字委員会(ICRC)の要請によるものだった。
当時の中国は日本の侵略地であり、七〇万人もの日本軍人が大陸にいたという。中国国民党と共産党が合体して対日本軍戦争を繰り広げていた。
当時の日本の状況を見れば、原爆など落とさなくても日本は敗れていたことがわかる。日本の都市部はBー29爆撃機による空襲で焼け野原となり、国民も戦争に嫌気がさしていた。しかも、エネルギー不足、鉄不足で、食料難でもあり、みんな空腹だった。
米国軍の圧倒的物量におされて、軍艦も飛行機も撃沈され、やぶれかぶれで「神風特攻隊」などと称して、日本軍部は若者たちに米国艦隊へ自爆突撃させる有様であった。
大陸の七〇万人もの日本軍人も補給さえ受けられず、そのため食料などを現地で強奪し、虐殺、強姦、暴力、侵略……16歳くらいの少年まで神風特攻隊などと称して自爆テロさす。 ひどい状態だった。
武器、弾薬も底をついてきた。
もちろん一部の狂信的軍人は〝竹やり〝ででも戦ったであろうが、それは象に戦いを挑む蟻に等しい。日本はもう負けていたのだ。
なのになぜ、米国が原爆を日本に二発も落としたのか?
……米国軍人の命を戦争から守るために。
……戦争を早くおわらせるために。
といった米国人の本心ではない。つまるところ原爆の「人体実験」がしたかったのだ。ならなぜドイツには原爆をおとさなかったのか? それはドイツ人が白人だからである。 なんだかんだといっても有色人種など、どうなろうともかまわない。アメリカさえよければそれでいいのだ。それがワシントンのポリシー・メーカーが本音の部分で考えていることなのだ。
だが、日本も日本だ。
敗戦濃厚なのに「白旗」も上げず、本土決戦、一億日本民族総玉砕、などと泥沼にひきずりこもうとする。当時の天皇も天皇だ。
もう負けは見えていたのだから、
……朕は日本国の敗戦を認め、白旗をあげ、連合国に降伏する。
とでもいえば、せめて原爆の洗礼は避けられた。
しかし、現人神に奉りあげられていた当時の天皇(昭和天皇)は人間的なことをいうことは禁じられていた。結局のところ天皇など「帽子飾り」に過ぎないのだが、また天皇はあらゆる時代に利用されるだけ利用された。
信長は天皇を安土城に連れてきて、天下を意のままに操ろうとした。戊辰戦争、つまり明治維新のときは薩摩長州藩が天皇を担ぎ、錦の御旗をかかげて官軍として幕府をやぶった。そして、太平洋戦争でも軍部は天皇をトップとして担ぎ(何の決定権もなかったが)、大東亜戦争などと称して中国や朝鮮、東南アジアを侵略し、暴挙を繰り広げた。
日本人にとっては驚きのことであろうが、かの昭和天皇(裕仁)は外国ではムッソリーニ(イタリア独裁者)、ヒトラー(ナチス・ドイツ独裁者)と並ぶ悪人なのだ。
只、天皇も不幸で、軍部によるパペット(操り人形)にしか過ぎなかった。
それなのに「極悪人」とされるのは、本人にとっては遺憾であろう。
その頃、日本人は馬鹿げた「大本営放送」をきいて、提灯行列をくりひろげていただけだ。まぁ、妻や女性子供たちは「はやく戦争が終わればいい」と思ったらしいが口に出せば暴行されるので黙っていたらしい。また、日本人の子供は学童疎開で、田舎に暮らしていたが、そこにも軍部のマインド・コントロールが続けられていた。食料難で食べるものもほとんどなかったため、当時の子供たちはみなガリガリに痩せていたという。
そこに軍部のマインド・コントロールである。
小学校(当時、国民学校といった)でも、退役軍人らが教弁をとり、長々と朝礼で訓辞したが、内容は、
……わが大和民族は世界一の尚武の民であり、わが軍人は忠勇無双である。
……よって、帝国陸海軍は無敵不敗であり、わが一個師団はよく米英の三個師団に対抗し得る。
といった調子のものであったという。
日本軍の一個師団はよく米英の三個師団に対抗できるという話は何を根拠にしているのかわからないが、当時の日本人は勝利を信じていた。
第一次大戦も、日清戦争も日露戦争も勝った。
日本は負け知らずの国、日本人は尚武の民である。
そういう幼稚な精神で戦争をしていた。
しかし、現実は違った。
日本人は尚武の民ではなかった。アメリカの物量に完敗し、米英より戦力が優っていた戦局でも、日本軍は何度もやぶれた。
そして、ヒステリーが重なって、虐殺、強姦行為である。
あげくの果てに、七十年後には「侵略なんてなかった」「慰安婦なんていなかった」「731部隊なんてなかった」
などと妄言を吐く。
信じられない幼稚なメンタリティーだ。
このような幼稚な精神性を抱いているから、日本人はいつまでたっても世界に通用しないのだ。それが今の日本の現実なのである。
一九四五年六月………
マルセル・ジュノーは野戦病院で大勢の怪我人の治療にあたっていた。
怪我人は中国人が多かったが、中には日本人もいた。
あたりは戦争で銃弾が飛び交っており、危険な場所だった。
やぶれかぶれの日本軍人は、野蛮な行為を繰り返す。
ある日、日本軍が民間の中国人を銃殺しようとした。
「やめるんだ!」
ジュノーは、彼らの銃口の前に立ち塞がり、止めたという。
日本軍人たちは呆気にとられ、「なんだこの外人は?」といった。
……とにかく、罪のないひとが何の意味もなく殺されるのだけは願い下げだ!
マルセル・ジュノー博士の戦いは続いた。
戦がひとやすみしたところで、激しい雨が降ってきた。
日本軍の不幸はつづく。
暴風雨で、艦隊が坐礁し、米英軍に奪われたのだ。
「どういうことだ?!」
山本五十六は焦りを感じながら叱った。
回天丸艦長・森本は、
「……もうし訳ござりません!」と頭をさげた。
「おぬしのしたことは大罪だ!」
山本は激しい怒りを感じていた。大和を失っただけでなく、回天丸、武蔵まで失うとは………なんたることだ!
「どういうことなんだ?! 森本!」とせめた。
森本は下を向き、
「坐礁してもう駄目だと思って……全員避難を……」と呟くようにいった。
「馬鹿野郎!」五十六の部下は森本を殴った。
「坐礁したって、波がたってくれば浮かんだかも知れないじゃないか! 現に米軍が艦隊を奪取しているではないか! 馬鹿たれ!」
森本は起き上がり、ヤケになった。
「……負けたんですよ」
「何っ?!」
森本は狂ったように「負けです。……神風です! 神風! 神風! 神風!」と踊った。 岸信介も山本五十六も呆気にとられた。
五十六は茫然ともなり、眉間に皺をよせて考えこんだ。
いろいろ考えたが、あまり明るい未来は見えてはこなかった。
大本営で、夜を迎えた。
米軍の攻撃は中断している。
日本軍人たちは辞世の句を書いていた。
……もう負けたのだ。日本軍部のあいだには敗北の雰囲気が満ちていた。
「鈴木くん出来たかね?」
「できました」
「どれ?」
中国の野戦病院の分院を日本軍が襲撃した。
「やめて~っ!」
看護婦や医者がとめたが、日本軍たちは怪我人らを虐殺した。この〝分院での虐殺〝は日本軍の汚点となる。
ジュノーの野戦病院にも日本軍は襲撃してきた。
マルセル・ジュノーは汚れた白衣のまま、日本軍に嘆願した。
「武士の情けです! みんな病人です! 助けてください!」
日本の山下は「まさか……おんしはあの有名なジュノー先生でごわすか?」と問うた。「そうだ! 医者に敵も味方もない。ここには日本人の病人もいる」
関東軍隊長・山下喜次郎は、
「……その通りです」と感心した。
そして、紙と筆をもて! と部下に命じた。
………日本人病院
紙に黒々と書く。
「これを玄関に張れば……日本軍も襲撃してこん」
山下喜次郎は笑顔をみせた。
「………かたじけない」
マルセル・ジュノーは頭をさげた。
昭和二十年(一九四五)六月十九日、関東軍陣に着弾……
山下喜次郎らが爆撃の被害を受けた。
ジュノーは白衣のまま、駆けつけてきた。
「………俺はもうだめだ」
山下は血だらけ床に横たわっている。
「それは医者が決めるんだ!」
「……医療の夢捨…てんな…よ」
山下は死んだ。
野戦病院で、マルセル・ジュノー博士と日本軍の黒田は会談していた。
「もはや勝負はつき申した。蒋介石総統は共順とばいうとるがでごわそ?」
「……そうです」
「ならば」
黒田は続けた。「是非、蒋介石総統におとりつぎを…」
「わかりました」
「あれだけの人物を殺したらいかんど!」
ジュノーは頷いた。
六月十五日、北京で蒋介石総統と日本軍の黒田は会談をもった。
「共順など……いまさら」
蒋介石は愚痴った。
「涙をのんで共順を」黒田はせまる。「……大陸を枕に討ち死にしたいと俺はおもっている。総統、脅威は日本軍ではなく共産党の毛沢東でしょう?」
蒋介石はにえきらない。危機感をもった黒田は土下座して嘆願した。
「どうぞ! 涙をのんで共順を!」
蒋介石は動揺した。
それから蒋介石は黒田に「少年兵たちを逃がしてほしい」と頼んだ。
「わかりもうした」
黒田は起き上がり、頭を下げた。
そして彼は、分厚い本を渡した。
「……これはなんです?」
「海陸全書の写しです。俺のところに置いていたら灰になる」
黒田は笑顔を無理につくった。
蒋介石は黒田参謀から手渡された本を読み、
「みごとじゃ! 殺すには惜しい!」と感嘆の声をあげた。
少年兵や怪我人を逃がし見送る黒田……
黒田はそれまで攻撃を中止してくれた総統に頭を下げ、礼した。
そして、戦争がまた開始される。
旅順も陥落。
残るはハルビンと上海だけになった。
上海に籠城する日本軍たちに中国軍からさしいれがあった。
明日の早朝まで攻撃を中止するという。
もう夜だった。
「さしいれ?」星はきいた。
「鮪と酒だそうです」人足はいった。
荷車で上海の拠点内に運ばれる。
「……酒に毒でもはいってるんじゃねぇか?」星はいう。
「なら俺が毒味してやろう」
沢は酒樽の蓋を割って、ひしゃくで酒を呑んだ。
一同は見守る。
沢は「これは毒じゃ。誰も呑むな。毒じゃ毒!」と笑顔でまた酒を呑んだ。
一同から笑いがこぼれた。
大陸関東日本陸軍たちの最後の宴がはじまった。
黒田参謀は少年兵を脱出させるとき、こういった。
「皆はまだ若い。本当の戦いはこれからはじまるのだ。大陸の戦いが何であったのか……それを後世に伝えてくれ」
少年兵たちは涙で目を真っ赤にして崩れ落ちたという。
日本軍たちは中国で、朝鮮で、東南アジアで暴挙を繰り返した。
蘇州陥落のときも、日本軍兵士たちは妊婦と若い娘を輪姦した。そのときその女性たちは死ななかったという。それがまた不幸をよぶ。その女性たちはトラウマをせおって精神疾患におちいった。このようなケースは数えきれないという。
しかし、全部が公表されている訳ではない。なぜかというと言いたくないからだという。中国人の道徳からいって、輪姦されるというのは恥ずかしいことである。だから、輪姦
れて辱しめを受けても絶対に言わない。
かりに声をあげても、日本政府は賠償もしない。現在でも「慰安婦などいなかったのだ」などという馬鹿が、マンガで無知な日本の若者を洗脳している。
ジュノー博士は衝撃的な場面にもでくわした。
光景は悲惨のひとことに尽きた。
死体だらけだったからだ。
しかも、それらは中国軍人ではなく民間人であった。
血だらけで脳みそがでてたり、腸がはみ出したりというのが大部分だった。
「……なんとひどいことを…」
ジュノーは衝撃で、全身の血管の中を感情が、怒りの感情が走りぬけた。敵であれば民間人でも殺すのか……? 日本軍もナチスもとんでもない連中だ!
日本軍人は中国人らを射殺していく。
虐殺、殺戮、強姦、暴力…………
日本軍人は狂ったように殺戮をやめない。
そして、それらの行為を反省もしない。
只、老人となった彼等は、自分たちの暴行も認めず秘密にしている。そして、ある馬鹿のマンガ家が、
…日本軍人は侵略も虐殺も強姦もしなかった……
などと勘だけで主張すると「生きててよかった」などと言い張る。
確かに、悪いことをしたとしても「おじいさんらは間違ってなかった」といわれればそれは喜ぶだろう。たとえそれが『マンガ』だったとしても……
だが、そんなメンタリティーでは駄目なのだ。
鎖国してもいいならそれでもいいだろうが、日本のような貿易立国は常に世界とフルコミットメントしなければならない。
日中国交樹立の際、確かに中国の周恩来首相(当時)は「過去のことは水に流しましょう」といった。しかし、それは国家間でのことであり、個人のことではない。
間違った閉鎖的な思考では、世界とフルコミットメントできない。
それを現在の日本人は知るべきなのだ。
民間の中国人たちの死体が山のように積まれ、ガソリンがかけられ燃やされた。紅蓮の炎と異臭が辺りをつつむ。ジュノー博士はそれを見て涙を流した。
日本兵のひとりがハンカチで鼻を覆いながら、拳銃を死体に何発か発砲した。
「支那人め! 死ね!」
ジュノーは日本語があまりわからず、何をいっているのかわからなかった。
しかし、相手は老若男女の惨殺死体である。
「……なんということを…」
ジュノーは号泣し、崩れるのだった。
自然のなりゆきだろうか、ジョンとジェニファーは恋におちた。ハワイでのことである。マイケルを失ったジェニファー、オードリーを失ったジョン……
愛の行為は、ジョンにもジェニファーにもいまだかってないほどすばらしかった。ジョンの疲れがひどく丁寧に優しく、おだやかにするしかなかったからか、それはわからない。 裸のままシーツにぐったりと横たわり、唇をまた重ねた。
「ふたりとも恋人をなくした」
ジョンがいうと、ジェニファーは「そうね。でも、もうひとりじゃないわ」といった。 しかし、奇跡がおこる。マイケルが生還したのだ。死んではいなかったのだ!
「ぼくの恋人をとりやがった!」マイケルとジョンは喧嘩になった。ジョンは謝った。
しかし、ジェニファーはマイケルとよりをもどすことはなかった。
「なぜ? ……もう一度やりなおそう!」
「駄目。わたし妊娠してるの……ジョンの子よ」彼女の言葉に、マイケルは衝撃を受けた。
8 原爆投下
東京湾にも米国艦隊が迫っていた。
沖縄の米軍も本土上陸の機会を狙っている。
ハワイ沖の空軍らは軍儀を開いていた。
「あの男はどこにいった?!」
マイケルはいった。あの男とは、同じく米国太平洋艦隊空軍のクロード・エザリーである。
……あの男が! 会議にも出ないで昼寝でもしてるのか?!
ハワイ沖はほとんど米軍の支配化である。
「原爆か……」
広島に原爆を落とすことになる爆撃機・エノラゲイの機長、ポール・ティベッツは興奮した。これからこの原爆を……ジャップめ!
ジョンは「まだわかりません」という。
「大統領が原爆投下の動きをみせているのは本当なんですか?」
「まずは…」爆撃機・エノラゲイの機長、ポール・ティベッツは続けた。「まずは出撃の準備をしろということだ」
昼寝から起きたのか、クロード・エザリー軍曹がやってきて、
「ジャップに原爆をとられたらどうする?」といった。
ポール・ティベッツは激昴して、
「このガキが! なにぬかしとる!」と喝破した。
しかしエザリーも負けてはいない。
「この原爆(ドラム管ほどけっこう大きい)はリトルボーイといい、ウラニウム弾である」「それぐらい俺も知っとる!」
エノラゲイの機長、ポール・ティベッツは声を荒げた。
……〝トゥ・ヒロヒト(裕仁に贈る)……
エザリーやマイケルたちは原爆ミサイルにチョークで落書きした。
「これでジャップたちは降伏する。原爆落とされ、あたりはまっ黄色だ!」
そういったのはエザリーだった。
七月二十四日、広島などへの原爆投下にむけて、リトル・ホワイトハウスでバーンズは『宣言』をつくる。
トルーマンは思う。
……米英だけで決めてよいものか。中国にも打電しよう。
トルーマンは重慶の蒋介石に「二十四時間以内に返事するように」と打電した。
その間も、スティムソンは「天皇制の維持を…」とバーンズ国務長官にうったえていた。 七月二十四日、記念写真。チャーチル、トルーマン、スターリン……
トルーマンは原爆投下の命令書を出す。
ターゲットは、広島、小倉、新潟、長崎に変更された。
……原爆は日本に対してつかわれるだろう。爆弾は子や女子ではなく軍事拠点に。ジャップは降伏しないだろうが、シグナルにはなる……
トルーマン回顧録より
蒋介石は日本への原爆投下を受諾した。
こうして、『ポツダム宣言』は発表された。しかし、サインはすべてトルーマンの代筆であったという。降伏せねば全滅する。
しかし、日本はそれを黙殺していまう。
「よし! 黄色いジャップに原爆の洗礼だ!」
マイケルは無邪気だった。
それは当然で、誰も原爆の破壊力など知らないからだった。
「これで戦争も終わる!」ジョンもいった。
雲がたちこめている。
結局、エノラゲイは日本上陸を飛んだが新潟は見えず…しかし、広島だけは雲の隙間があった。
マイケルたちはまだ若く、軍略も謀略もできない青二才だった。
ジョンは双眼鏡で広島をみながらにやにやと、
「広島上空異常なし!」と仲間にいった。
「……原爆ってどれくらい死ぬんだ?」とマイケル。
「知らない。しかし、相手は黄色だぜ。知ったことか」
「国際法でも認められている立派な策さ」
そして、一九四五年八月六日午前八時十五分、広島に原爆が投下された。
「目がつぶれるから直視するな!」ティベッツ機長は叫んだ。
双眼鏡で覗いて見ると、きのこ雲があがっている。
「………やった!…」
「うひょ~っ!」
エノラゲイ機内に歓声があがった。
仲間は「これてジャップも降伏だ……」という。
しかし、予想は外れる。
日本は、黙ったままだ。
……〝原爆の洗礼〝だ!
「原爆! 原爆! 投下せよ!」
トルーマンたちは動揺を隠せない。
一九四五年八月九日長崎上空に、爆撃機ボックス・カーが接近した。そこにはマイケルたちは乗ってなかった。同時に爆撃機はプルトニウム爆弾を投下する。午前十一時二分。「くたばれ!」
トルーマンの号令で、爆撃機にのっていた米軍兵士たちが原爆を二発もおとした。
この原爆で二十万人もの民間人が犠牲になったという。
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