父さんな、ツイッターのサブスクリプションで食っていこうと思うんだ

九兆

ツイッターで食っていけるなんて思うな

「父さんな、ツイッターのサブスクリプションで食っていこうと思うんだ」


 ガシャン、と茶碗が食卓に落下する音が響いた。

 幸いにも茶碗は見事着地して割れずに済んだ。しかしシンジの心は今にも粉砕しそうだった。


「待ってよ父さん、何を言っているの?! 意味が分からないよ!」


 突如世迷言を言い出した父親にシンジは狼狽した。

 こほん、と咳をして父親は淡々と説明し始める。


「あのな、『サブスクリプション』というのは月単位または年単位など定期的に料金を払い利用するコンテンツやサービスという意味であってだな」

「知ってるよ! つまり『定期購読』だろ! そんなんなら月契約して定期的に投函される新聞だってサブスクリプションだよ! そんな旧世代の頃からあり続けた商法を英語にしたらさも新しい手法だなんて持て囃す人たちの気がしれないよ!」

「シンジ、落ち着け」

「はぁ……はぁ……で? ツイッターのサブスクリプションが何? そもそもツイッターって『ツイッターブルー』という鼻で笑うような内容しか出せてないサブスクリプションを提供してなかったっけ?」

「やめろ、シンジ。大抵の運営批判は発言しても不毛なだけで利は殆ど無いぞ。大人になれ」


 流石に子供じみた発言をした父親に言い訳しようがない窘めをされてシンジは黙った。


「で、ツイッターのサブスクリプション(笑)がどう父さんと関係するの?」

「……つまりだ、今まではツイッターにお金を払って何かしらのメリットを貰っていた、しかし」


 父親はあえて区切り、


「これからは父さんがツイッター上で様々な人にコンテンツを提供して収入を得ようというわけだ」

「できるわけないよ!!!!!!!!」


 力の限りシンジは叫んだ。


「え? 父さんつい最近会社から直々に『お前の計画は壮大な割りに自己中すぎて悉く周りが付いていけないから、そんなんだったら独立しろ』と言われて追い出されたばっかりだよね? そんな父さんがどうやってSNSで支持を得るというのさ!」

「ふ、シンジ。お前は何も分かっていない。だから子供だというのだ」


 父親は眼鏡を煌めかせて自身満々に言った。


「私は長年会社に勤めた経験がある。色々の人々と交流したコネがある。その過去をツイッターに込めることで利益を得ようというのだ、この方法に何の問題がある」

「あるよ! だったらその経験を活かしバズってみせてよ! だったら信じるよ!」

「ふっ、シンジを信じさせる。簡単なことだ」


 ぜってぇバズらねえこれっぽっちも笑えない冗談に引きつつ父親がスマホ(初期設定はシンジがやった。買った時使い方よく分からないと言っていたのにすっかりユーチューブで芸人動画を見るのにドハマりしていたと思っていたのに)をなんやかんや操作して、そして見せつけてきた。


「というか、最近バズった」


 5 . 8 万 い い ね


「うわぁああああああああああああああ!!!!」


 圧倒的バズ力によりシンジは吹っ飛んだ。

 嘗めていた、父親のことを。

 まさか今の歳でインフルエンサーとして進化した新たな父親に尊敬すら覚え始めた。

 もしかしたら、父ならやりかねないかもしれない。

 そんなバカげたことを一瞬だけ考えた、すぐ振り払った、いやムリだって。


「いやでも父さん凄いよ、どんな内容でバズったの?」

「父さんは元営業職だ、当然顧客の求めている情報の心得ぐらいある」


 家族のツイッター画面見るのってなんか嫌だな、と思いつつシンジは父親のスマホを見た。


『新入社員の皆さんにこれだけは言っておきます。

 ・コーヒーばかり飲むのはやめよう!

 ・コーヒー飲んだ後は水か牛乳か紅茶にしよう

 ・二連続でコーヒー飲むのはやめろ

 ・飲むなとは言ってねえ、コーヒーばかりを飲むな

 ・飯時は水か紅茶にしろ

 ・コーヒーばかり飲むのはやめておけ

 ・マジでやめとけ』


「くだらねえ!!!!!!!!!!!!!!!」


 シンジは全力で吐き捨てた。


「なんでこんな内容でバズってんだよ! そんなに現代社会人はコーヒーを憎んでいるの? どういうことだよ!」

「社会人あるあるネタはバズりやすいぞ、シンジ」

「知らねえよ!!!!」


 はぁ……はぁ……とシンジは息を整える。


「で、父さん。これ紅茶もカフェイン含むから良くないって指摘コメントあるよ」

「ああ、そういう瑕疵をあえて入れることで指摘する奴が出てくる。そしてツイートが活性化される。つまり補完説明感謝じんるいほかんけいかくだ」

「そんな下らない計画を立てたのは父さんが初めてだと思うよ……」


 シンジはがっつり脱力した。


「ねえ、母さんも言ってよ! そんなくだらないことで生計を立てられる訳ありませんって!」

「あらシンちゃん。いいじゃないの別に。いきなりラーメン屋を始めて初期投資で貯金を使い果たして、後に何も残らない所か機材を家に避難させて処分するにも困り延々と放置されるよりかは」

「クソ、具体的にダメ案を言われるとそれよりマシだと思えてしまう! だから詐欺がこの世から無くならないんだ!」


 もうシンジに止める術は無かった。黙るしかなかった。


「で、だ、シンジ」


 父親は取り直し言った。


「父さんな、ツイッターのサブスクリプションで食っていこうと思うんだ。いいか?」

「…………………………………………………………」


 シンジは長い沈黙を重ね、そして意を決して言った。






「あの、大学進学する金さえあれば──」


「それぐらい蓄えはある」

「じゃあいいよ」


 こうしてようやくシンジはギリギリ父親と和解した。



※注意:ツイッターのサブスクリプションは実際どんな感じで収益得られるのか知らないので今後の情報を元に各個人でやるかどうか決めるべきだと思います。また情報をちゃんと把握し自身の生活基盤を整えた上でやるのが望ましいと個人的には思います。

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父さんな、ツイッターのサブスクリプションで食っていこうと思うんだ 九兆 @kyu_tyou

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