エピローグ 0-1



      エピローグ



 〈ディサイシヴ・ギア〉は、いまや無用の長物となった。


 当然だ。毒の雨はとうの昔にやんで、もう降ることはない。エリシア率いる『自由船団』が旅立って五年後。大陸の戦いは決していた。


 大地は甦り、どこまでも茂る自然。木々草草。そこに棲む野生動物。

 見上げた先には、突き抜けるほどに気持ちのいい青色が広がっている。

 水は澄み、空は晴れ……。







 結論。大陸三ヶ国は等しく滅んだ。


 あの『自由船団』の出航放送は階級問わず人々の動揺を生み、情勢の推移は為政者の思惑を外れていく。


 サボタージュ。デモ。スト。テロ。集団逃亡。クーデター。戦争激化。各国の仮初の平和は終わる。そうして。

 各国の軌道エレベーターはすべてへし折れた。城郭都市たるドームは廃墟と化した。住処と資源を喪い、宇宙への脱出路も経たれ、窮地に陥った一級市民は残った生存領域である地下へ乗り込みスラム住人との正面対立に突入。


 大陸三ヶ国の鼎立体制が崩壊したことで人類社会はここに新たな――そして最終的な様相を呈した。

 精鋭の軍と装備を誇るも、「選ばれた」わずかな人口でしかない一級市民。

 武装は貧弱そのものだが、「棄てられた」死をも恐れぬ地下スラム住人の大群。


 必然。破局。

 戦いは凄惨をきわめた。


 禁忌も打算もない、箍のはずれた暴力の応酬。奪って、あるいは奪われる。命からがら逃げおおせた人々すら赤茶けた無限の荒野を前にして……その多くが絶望のままに毒の雨に打たれ運命を呪った。



 あれから五年。


〈ディサイシヴ・ギア〉はもう動かない。

 その機体が糧とする邪悪は、この緑の大陸にはすでにない。

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