4-3
エリシアは裂帛の号令を下す。
各艦の戦闘指揮官は応答し、クルーは整然と目標諸元を入力する。
発射される対空ミサイル。各艦の対空砲火。
上空には光の弧と火焔の炸裂が描かれる。
そして……。
「どうやら。こっちは本命とやらのおでましか」
ユーリの〈アルテェア〉は、内陸部より敵影をレーダー探知。
当該機は不明。だが、どう考えても〈ディサイシヴ・ギア〉級の発電エネルギー。
なるほど。投入タイミングからおそらく、狙いはユーリの駆る〈アルテェア〉か。
『――あれは〈フラテルニテ〉』
「エリシア? 何か知っているのか?」
『人呼んで「瞬神の二挺銃」。共和国軍の切り札よ』
ユーリは敵機の外見とエリシアからの受信データから、彼我の戦闘力を測る。
相手は、高周波銃剣付き炸裂レールガン二挺のみを駆使する、痩身俊敏なデザインラインの〈フラテルニテ〉。
対して、こちらは武装の針山で永久要塞たることを旨とする、重厚長大な〈アルテェア〉。機動力は比べるまでもない。
とはいえ、敵の侵攻を阻むことに関しては〈アルテェア〉に並ぶ機体は……。
「こいつはおれがやる。エリシアの取り巻き野郎ども、お前らは船団に帰投しろ」
『おっ、おいおい』『だがそれではユーリが』
「――これ以上の議論が必要か?」
ユーリは低く促す。
すみやかに実情を把握し『自由船団』へと帰投に移る。
そうだ。これでいい。
ユーリは納得する。コレで単騎の戦い。
そして見計らうように〈フラテルニテ〉は仕掛けてきた。神速の銃剣突撃。
これはユーリの予想通り。即座に対処し、これを躱す――のではなく敢えて、質量まかせの体当たりを仕掛けるも、すんでのところで反応した敵は牽制射撃を敷きつつバックステップ。即座に五〇〇メートルもの間合いで対峙する。
そう、一撃で済むのはお互い様。
線の細い〈フラテルニテ〉に、堅牢なる〈アルテェア〉とかち合う力はない。
違いないからこそ敵は即座に懐に潜りこめる距離を捨てた。一瞬一撃を仕損じるだけで生死が別れる。
必然的に……、膠着。
だがこの間合い。ユーリの望むところだ。
敵機が布石を恐れて、長引けば長引くほどに『自由船団』は大陸離脱を成し得る。ユーリの勝利条件はエリシアらの脱出。
ユーリは自覚する。らしくもなく熱くなっている。
大切な誰かを護るため? あいつらに死んでほしくない? 馬鹿だな。そんな殊勝な動機で戦うなど、こんな世界に生まれ落ちて一度もなかったのに。なにせ生き馬の目を抜く世界だ。損得勘定が至上の価値。
『ユーリ』
エリシアから通信がつながる。
『揚陸艦を一隻、湾内に残してあるわ。船団長護衛隊(ヴェイガス)も収容した。あなたも来なさい』
エリシアの打診。
ともすれば救いの手。
しかし、ユーリは答えない。
『巡航ミサイル。対地砲撃。撤退の支援だったらちゃんとしてあげる。弾をけちったりなんてしないわよ』
念を押されるもユーリは答えない。
『わたしたちの助けさえあったら、あなたなら還って来れるでしょ?』
なぜなら。ここで答えてしまったら。
結局。ユーリは。
「おれは、おれの任務を全うする。それだけだ」
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